第21話(5章3話) 攻め入る理由(わけ)
(作者からのお知らせ)
このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。本編の前史に当たるお話を集めております。
内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、本編と並行してご笑読ください。
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ナムルガル王国歴149年4月、国境の町バトマンフ陥落。
同年7月28日、州都アビンジャン陥落。
州都陥落の報が首都ナムンガンに届いたのは、8月7日の事であった。
ゴブリン軍の電撃的な侵攻に、ナムルガル王国の宮廷は恐慌寸前になる。
「人口2万の城塞都市がどうして陥ちるのだ?! あり得ん!」
「早すぎる! バトマンフが陥ちてからまだ3か月だぞ?!」
「そもそも本当に陥落したのか?!」
「州軍は何をしていたのか?!」
閣議(それも国王主催の御前会議)も紛糾し、纏まる気配がない。
「鎮まれ。」
玉座から重々しい声が響く。立ち所に静まり返る御前会議の間。
「騒いでも、埒が明かぬ。今一度、状況を整理せよ。」
玉座から命を下すのは、ナムルガル国王アランサン3世。御年35歳、在位13年の統治は凡庸だが堅実で、廷臣達からの評判も悪くない。
「ははっ。それでは、こちらの地図をご覧ください・・・。」
王の前で、改めて状況が説明された。
「ゴブリン軍の兵力は推定約5千。バトマンフを落としそのまま北上、進路上の町を2つ壊滅させ州都アビンジャンに到達。」
解説役を務める軍の下っ端参謀が、長い指示棒で壁面に掲げられた巨大な地図(アビンジャン州全図)を指し示しながら状況を説明し始める。
「アビンジャンからは1万5千をもって出撃、7月25日アビンジャン南部12キロ地点で会敵、戦闘に入ります。・・・この戦闘で我軍は壊滅、残存兵力2千は州都アビンジャンに退却。その3日後の7月28日、アビンジャンは城壁を破壊され、ファイディカ州総督はアビンジャンの放棄を決定、残存兵力を率いてアビンジャン北部の町プンラトーへ移動。兵の再編を行っている、とのことです。」
「・・・ちょっと、待て。」
説明を終え一礼する下っ端参謀を見ながら、こめかみを押さえるアランサン3世。
「その、1万5千の軍というのは・・・、例の軍か?」
「はい、旧南方ミール4か国奪還軍、その主力1万5千です。」
国王の問いに、宰相が応える。元々北方ガル3か国は滅んだ旧南方ミール4か国の奪還(という名の侵攻)を計画していた。
ナムルガル王国だけでなく、隣国のハーミガル、ミズルガル両国からの派兵分も含め、主力1万5千、後方支援も入れれば2万3千の大兵力。それを持って、普人族の空白地帯となった旧南方ミール4か国を一気に手に入れる、その奪還軍の主力が州都アビンジャンに集結する直前に、ゴブリン軍からの逆侵攻を受け、奪還計画は一部変更を余儀なくされたのだった。
「侵攻軍の主力は重装甲歩兵が中心だったはずだ。並のゴブリン兵相手なら、1人で10匹ぐらい相手できるだろう?」
「それどころか、1対1なら強化種でも余裕ですな。」
王の呟きに、大将軍が応える。ゴブリンとは、それほどの弱小人型生物なのだ。
「では、何故そんなザコ共に我らの精鋭は敗れたのだ! こちらは敵の3倍の兵力だぞ!?」
「不明です。主将のドログッパ将軍以下、指揮官級の兵はほぼ戦死。生き残った兵のうちハーミガル、ミズルガル両国から派遣された兵は指揮を離脱、“はぐれ兵”となっています。」
「ナニをやっているんだ・・・。」
思わず呻くアランサン3世。何しろ王都ナムンガンから州都アビンジャンまで普通の荷馬車で約1か月の距離がある。最速の伝令部隊をもってしても10日はかかるのだ。(現代日本と違い異世界に高速通信網などは存在しないのだ。)
距離は、情報伝達を妨げる文字通り“壁”であった。
「で、城壁を破壊したのは、バトマンフと同じ、か?」
「はい、新型の使役魔物と愚考いたします。」
「本当だったのか・・・。」
アランサン3世と大将軍はそろってため息をつく。
当初、『バトマンフ陥落』第1報にあった、新型の使役魔物はその信ぴょう性を疑われたのである。2キロも離れた場所から1撃で城門を破壊する、そんなバカなことがあるか、何かの間違いではないか? と疑問視されたのである。
しかし、アビンジャンの陥落により、新型使役魔物の存在はこれで疑う余地はなくなったのである。
「偵察隊を出せ。何としても、その新型使役魔物について調べるのだ!」
何だか判らないモノに対処するなど出来るはずもない。アランサン3世は当面の対応方針を指示して次の課題に頭を切り替える。
「で、ヤツラは、ドコへ行ったのだ?」
「不明です。ゴブリン軍はアビンジャンに入ることなく、どこかへ消えました。」
返って来た答えに、閣議の参加者全員が頭を抱えたのだった。
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同じ頃。コボルト国王宮でも、似たような閣議が行われていた。報告に立つコボルトの淡々とした声が、会議室に響く。
「試作型の大口径魔道砲の射程、威力共に想定内。同行している技術参謀から、運用や発射後の課題について速報が届いています。」
「後で、ワイの執務室に届けてぇな。で、続きは?」
「新型の火魔法発射杖による、3段交代射撃戦法は有効。ただし目標が低速かつ遮蔽物の無い戦場に限る、とのコメントがゴブリン王から届いています。」
「姿格好は”脳筋”やのに、あんヒトも割と本質突くねぇ…。」
一々報告事に玉座から一言いってくるのは、もちろんコボルト王その人である。妙に馬の合う友人からのコメントに、褒めているのか貶しているのか判らない感想を呟く。
「で、発射不良った杖とか、命中率とかは?」
「実戦での発射不良は1斉射につき5から7%ほどだそうです。原因までは分析できていません。命中率となるとサッパリです。」
「訓練やと2%くらい、なんやけどなぁ・・・。(ぶつぶつ)」
「・・・報告、続けていいですか?」
「・・・よろしゅう頼んます。」
訓練と実戦の数値の乖離に考え込むコボルト王。考え出すと話を聞かなくなるのでその前に注意を引き、報告を続ける担当者。
「補給線は問題なし、敵さんは一つ北の町まで後退してる。城塞都市にはまだ普人族が居って、隠れたり逃げ出したりしてる、と。増援は都市に来てへんのやな?」
『入ってない。』との報告を受け、『そんならエエか。』と安心するコボルト王。
「で、我らがゴブリン王はんは“お仲間”を見つけられたんかいな?」
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コボルト王が案じていたゴブリン王は、軍を率いて荒れた街道を進んでいた。城塞都市の城壁を破壊したのち、ゴブリン王は城塞都市を占拠するでなく、また王都へと続く主街道を進むこともせず、西へ延びる街道へと進路を取ったのである。今回、侵攻という選択肢を取った原因の一つに会うためだ。
「見ツケタ。ココカラ歩イテ半日、家10コノ村。」
「コッチモ見ツケタ。わんこノ家8ツ。」
次々と入ってくる報告は、普人族以外の人型知的生物の集落についてであった。
「コンナ深イ森ノ中ニ・・・。」
唖然とするゴブリン王。森が深いというのは魔力の濃い地域である証拠である。当然、強大な魔物が棲息できる環境、という訳であり人型知的生物が住むには厳しい環境となる。地球と違ってこの世界では、普人族も含めた人型知的生物は万物の霊長ではない。狙われ追われ喰われる弱者である。
そんな危ない森にゴブリンだのコボルトだのの集落があるのには理由がある。近年の戦乱により、亜人、すなわち“普人族でない種族”への憎悪が高まり、普人族からの迫害が更に激しくなってきたのだ。部族単位で住む場所を追われ、流浪の民となった亜人たちは辺境のこの地に流れついた。危険を承知でこの地に棲まざるを得ず集落を形成した、という訳である。
全部合わせれば相当数になる彼らの存在を知ったゴブリン王は、彼らを自国へ勧誘することを考え、知恵ある友達に相談したのだった。
コボルト王は、
「行って来いや。どのみち守るだけではじり貧や。」
とゴブリン王の背中を押しただけでなく、秘密兵器まで持たせてくれたのだ。
かくして、移住誘致を目的にゴブリン王は最初の遠征に赴いたのだった。
(つづく)
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