第20話(5章2話) 迎撃戦
(作者からのお知らせ)
このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。本編の前史に当たるお話を集めております。
本編と並行して本作をお読みいただけると、より解りやすいと愚考いたしております。
内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、本編と並行してご笑読ください。
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イズミール王国歴139年12月、同国滅亡。
同歴144年、南方ミール4か国滅亡。
同年、北方ガル3か国、軍事同盟を締結。ゴブリン=コボルト連合軍に対抗して南側国境を閉鎖。
それから2年後、イズミール王国歴146年にあたるナムルガル王国歴149年の春、ナムルガル王国の最南部、国境の町バトマンフは出兵の慌ただしさの中にあった。
ナムルガル国軍を主力とする3か国連合軍がゴブリン迎撃のため出陣するのだ。
迎撃。そう、普人族にとって今回の戦は“侵攻”ではなく“迎撃”である。
後世、この戦いは大陸史上2つの歴史の転換点として知られることとなる。そのひとつが、ゴブリン=コボルト連合軍が初めて主体的に普人族国家に侵攻した点である。
それまでは“攻められたので反撃した。(普人族国家が滅んだのはその過程で発生した結果に過ぎない)”という防衛戦争の面が強かった。ゴブリン王やコボルト王は他国を欲したわけではない。
しかし、この戦はゴブリン=コボルト連合軍から仕掛けている。“好き勝手に侵攻する側”から“否応なく攻められる側”になった普人族国家の狼狽はむしろ滑稽であった、と当時のハーミガル王国の重鎮は秘密の日記に書き記していた。(皮肉屋が時に真実の一面を抉るのは異世界でも変わらないようだ)
それでも、攻められれば迎え撃たねばならぬ。意外にも、現場の士気は高かった。
「ゴブリンどもめ、遠征で疲れたところを袋叩きにしてくれる。」
迎撃する側に地の利があるのは世の常である。意気揚々と出陣した連合軍は街の南に広がる平原でゴブリン軍を迎え撃つべく布陣した。
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乾燥した草原が広がる向こうに、悪魔達の敷いた陣が見える。鎧兜に身を包んだ兵たちが蟻のように動き回るのを、ゴブリン王は真剣に観察していた。
「普人族、ヤル気マンマンデスナ。」
ゴブリン王と共に敵陣を観察していた腹心の強化種が感心したように話す。彼はウルル関の戦い以来、ゴブリン王に従い闘った戦友の一人である。侵攻してきた普人族の兵隊の士気の低さ、素行の悪さを嫌というほど見てきた彼らからすれば、堅実な迎撃態勢を敷いたナムルガル軍は“敵ながらマジメな奴ら”に見えたことだろう。
「守ル側ダト“逃ゲラレナイ”カラナ。ヤツラモ真剣ニナルデアロウ。」
ゴブリン王は冷静に応える。いつだって守る側は後がない。敵陣の様子にかつての自分たちを思い出し、暫し感慨にふける。
「普人族、仕掛ケテ来ルカ?」
「兵数は普人族の方が多いですからなぁ。」
ゴブリン王の独り言に合いの手を入れたのは、犬獣人族の技術参謀である。補給に陣地設営にと後方支援が任務のため直接刃を交わすことこそしないものの、彼もゴブリン王に従い闘ってきた歴戦の勇士であった。
「マ、何時モノ様ニ闘ウノミ。皆、抜カルナヨ?!」
ゴブリン王の言葉に、皆が頷き気を引き締める。
「王コソ、突出シスギナイデクダサイ。王ヲ失ウ訳ニハイカナイノデスカラ・・・。」
小柄な従卒ゴブリンが心配そうに進言する。実際、この王はゴブリン軍最大の戦闘能力を誇る個体であり、強化種や特化種より前に出る癖があった。その度に、後詰めの者達は肝を冷やしているのだが、王はあまり頓着してくれなかった。
「ソウハ言ウガ・・・「敵左翼、前進! 向カッテ来ル!」モウ来タカ?!」
ばつが悪い王が言い訳しようとした瞬間、敵襲を告げる怒声が響いた。
「総員、戦闘開始! 死ヌナヨ!」
王の激が飛び、ゴブリン軍は一気に戦闘に突入していった。
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数を頼りにノコノコ出てきた普人族の主戦力を蹴散らすと、敵兵はすぐ防壁の向こう側に逃げ帰っていった。
それから3日間、普人族は軍を壁の内側に温存したままである。
「ヤツラ、出テ来マセンナ。」
「ま、街を包囲しておりませんから。補給は続々と届いている様子ですし。」
街を包囲するほどの戦力はゴブリン軍にはない。当然街には補給の馬車が陸続とやってきていた。補給部隊には充分な護衛がついていて、迂闊に狙えない。持久戦に持ち込み、ゴブリン軍の疲弊を狙っているのだろう。
相変わらず街の南側に布陣したままのゴブリン軍の幕舎で、軍議が行われていた。ゴブリン王を筆頭に、軍の幹部が今後の方針を話し合っている。
「新シイ武器ヲ使ウト聞イテイル。 皆ニ説明シテクレ。」
「はっ。では、こちらをご覧ください・・・。」
王がコボルトの技術参謀に指示すると、彼は予め用意しておいた紙を作戦卓に拡げた。そこに描かれた絵図面を元に、作戦を説明してゆく。作戦決行を2日後とし、この日の軍議は終了した。
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「ゴブリン軍、動く!」
ナムルガル王国歴149年4月27日、午前8時過ぎ。
バトマンフ防衛隊の司令部に、ゴブリン軍の動向が報告された。
「いよいよ来たか。この町の防壁は破れんぞ!」
知らせを聞いた幕僚たちは防壁に自信を持っていた。南方ミール4か国の動乱を見ていた彼らは、町の防壁を強化していた。既に城壁と言っていい程に強化されたソレを、ゴブリン軍が突破できるとは露ほどにも考えていなかった。なにしろ、ゴブリン達はロクな攻城手段を持っていない。これまでの動乱で都市が落ちたのは、あくまで包囲され兵糧攻めにあったから、である。今回、ゴブリン軍には町を包囲するほどの兵力がないことは偵察で確かめてある。王都からの補給が続く限り、町は陥ちない。
初戦こそ痛い目にあったが、間もなく王都からの増援がやってくる。合流し、圧倒的な兵力ですり潰せばよい。首脳部はそう考えていた。
「ゴブリン軍、停まりました! 距離1,800メートル!」
中途半端な距離でゴブリン軍は進軍を停止した。横に広がり陣を敷く様子である。
「なんで、あんな所に停まった?」
不思議がる司令部。彼らはすぐにその答えを知ることになる。
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「妙な魔物が出てきた、だとぉ?」
守備隊司令部に、妙な報告がもたらされたのはそれからすぐである。
固く閉じられた門から2キロ弱の処に展開したゴブリン軍の陣地に動きが見られた。
今までに見たこともない魔物が正面に現れたのである。ゴブリン達に動揺が見られないので、ゴブリン達が使役する魔物なのだろう。
「はっ! 目測ですが、高さ5メートル、体長9メートル、4本足で歩行するとのこと! 現在3頭が確認されています!」
「ゴブリンども、まさか三ツ角犀竜を手懐けたとでもいうのか?!」
報告のあったスケールで、思い当たる魔物が挙げられる。
「いや、高々3頭程度なら、少しも脅威ではない。ヤツラの後方にもっと数が居るのではないのか?」
体長9メートルの魔物は確かに脅威だが、その程度の魔物なら町の防壁を破るのには数十頭単位の数が必要だ。しかし、偵察隊からはそのような報告は上っていない。そんな規模の魔獣の存在を隠すことはできないから、偵察隊が見落としているとは考えにくい。つまり、魔物は今見えている3頭しかいないのだ。
「ナニをするつもりなんだ・・・。」
情報を集めれば集める程、疑惑はより深まったのだった。
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「攻城砲ゴーレム、配置につきました。」
「よし、1番機、魔力充填開始。続けて2番機、3番機だ!」
技術参謀(彼は参謀なのに技術支援隊の隊長を兼務)の号令一下、コボルト族の技術兵がわらわらと蟻が集るように取りつき作業を開始する。
「魔力伝導ケーブル、1番から8番まで接続!」
「流入安定器作動確認! まだ回路は開くなよ!?」
怒声混じりで報告や指示が飛び交う。
その様子を、少し離れた場所でゴブリン王が見守っていた。どんな仕組みで、何をしているのかはさっぱり理解できないが、皆落ち着いており特に問題は無いように見える。
「こぼると王ガ“あれ”ヲ造ラレタトカ。」
「ウム。遠クカラ城壁ヲ破ルコトガデキル、ラシイ。」
ゴブリン王たちは“新兵器”について囁き合う。改造した不整地用の輸送ゴーレム(4脚型)に大口径魔道砲(試作型)を装備した実戦用試作型攻城兵器、それがバトマンフの町の守備隊が見た魔物の正体だった。
「発射準備完了!」
その報告を受けたゴブリン王は静かに『放て。』と命を下した。
轟音と共に発射された魔力の塊はバトマンフの門目掛け一直線に飛び、狙い通り門に命中、爆発した。続けて門の両側の城壁に第2射、第3射が命中、頑丈な城壁を粉砕、瓦礫の集合体に変えてゆく。
門どころか周囲の城壁ごと粉砕されたバトマンフの町は大混乱となり、守備隊は住民を捨てて我先に逃げ出していった。その後を、住民たちが這う這うの体で町を脱出してゆく。
ゴブリン兵は町には入らず普人族が逃げるに任せていた。窮鼠猫を嚙むの例えのとおり、下手に追撃すると死兵となって向かってくることがあるのだ。(追いかけるにも、距離感は大切、なのである。)
「フム、上々ダナ。こぼると王ニハ宜シク伝エテクレ。」
思った以上の破壊力に、驚きながらも成功を寿ぐゴブリン王。いくつか技術的問題点や課題が判りハチの巣をつついたような技術兵たちを労いつつ、次の作戦に向け準備を始めるのだった。
攻城用魔道砲。破竹の勢いで進撃する“魔王軍”を支えた戦略兵器である。大陸史上初めて実践投入されたこの戦いを重視する戦争歴史学者は多い。
(つづく)
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ごーれむ君ひとコマ劇場
技術参謀「チョット! 作者はん!」
れっさー「な、なんや。ワイ、続編書くのに忙しいんやけど。」
技術士官A「魔道砲の発射シーケンスが省略されています!」
技術士官B「お約束を無視するなど、なろう作家にあるまじき行為!」
一同「書き直しを要求します!」
れっさー「却下や。そういうのは本編でやるから、外伝ではやらん。」




