第2話 様々な人型知的生命体(ヒューマノイド)
(作者からのお知らせ)
このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。本編の前史に当たるお話を集めております。
本編の後に、本作をお読みいただけると、より解りやすいと愚考いたしております。
内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、先に本編をご笑読ください。
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◆業務メモ 業務開始から45億9,820万年、某日◆(180万年前)
開発コード「エルフ」の失敗を受け、改良型開発班が更に一つのモデルを惑星管理神にプレゼンし、承認された。
前回の、個体性能を上げたため繁殖能力が低くなった教訓を生かし、「高い繁殖能力と環境適応能力」をコンセプトに開発されている。
高い繁殖能力の実現は、一度の出産頭数の増加と出産間隔の短縮、誕生から成体までの生長期間の短縮という、各種要素数値の強化で実現された。
また高い環境適応能力は、個体の大きさを小さめにする、魔素の薄い地域でも生息できるよう魔力適性を下げる、消化器官を強化し雑食性を高めるなどにより実現している。
外見的な特徴として、額部に一対の小さな角がある。これは1種の魔導通信器官で、情報量も少なく至近距離にしか届かないが、音や光に頼らずとも同種間での情報のやり取りを可能としている。
個体としての能力はファースト種にも劣るが、集団として行動させることを本能に刻みつける事により個体の弱さをカバーしている。
なぜか体表が緑色の皮膚になってしまったが、研究所での仮想空間試験結果は上々で、惑星各地にサンプル集団を放ち、実用試験を行うこととした。
「ゴブリン」の開発コードが付けられた。
◆業務メモ 業務開始から45億9,823万年、某日◆(177万年前)
「ゴブリン」の実用試験は順調に進んでいる。惑星各地に放たれたサンプル集団は予想以上に繁殖し、それぞれの土地の環境に適応し、亜種を生み出していった。
高い繁殖能力はファースト種との交雑も可能とした。ゴブリンのオスとファースト種のメスとで繁殖が可能だったのだ。(生まれるのはゴブリン種のオスのみのようだったが。)
同時に欠点も判明してきた。一つ目は、予想されていたことだが個体での能力が低すぎる点である。幼体、成体を問わず食物連鎖の最下位に近く、爆発的な繁殖力が実際の個体数増加に見合っていない。たくさん産まれるが、たくさん死んでしまう。
二つ目は、文明度が上がらない点である。幼体から成体への急激な成長は、十分な知性が育つ時間を与えない。高い繁殖力と引き換えの個体としての短命は、時間をかけ経験値を蓄える必要がある“職人”が育成できないことでもある。(例えば、寿命が3年しかない生き物では10年修行する必要がある技術は習得できない。)現時点では、せいぜい旧石器程度の文明にしか到達できないであろう。せめて教団組織を作れるほど文明化しないと、割に合わないのだが。
意外な長所として、変異体の発生間隔が短いことが挙げられる。どの生物にも言えることだが、生まれて来る者の中に変異体と呼ばれる、各種能力値が異常に高い個体がある一定の確率で生まれることが知られている。短期間で大量の子孫が生まれるゴブリン種では、ファースト種に比べて変異体の発生間隔が短いことがわかった。
引き続き経過を観察することとした。
◆業務メモ 業務開始から45億9,823万年、某日◆(177万年前)
惑星管理神から業務命令により、ゴブリン種の廃棄が決定した。
このまま増殖を続けても、文明度が低いため信仰心が集まらず、損益分岐点をクリアできないと予測されたことが理由である。
すぐさまDNAに仕掛けておいた自己破壊システムを起動、惑星上の全ゴブリン種の排除プロセスを実行した。ここに、コード名「ゴブリン」種は滅んだ。
(後日談:ゴブリン種は大半が死滅したが、ごく少数の集団が自己破壊システムを克服し野生種となって生き延びていたことが判明した。脅威の環境適応能力である。)
◆業務メモ 業務開始から45億9,830万年、某日◆(170万年前)
改良型開発班が「ゴブリン種」の改良型モデルを惑星管理神にプレゼンし、承認された。
次から次へとよくも出てくると思われるが、人型知的生命体の改良コンセプトにはある程度王道があり、それに則ってモデルを作るのはそれほど難しくはない。
むしろ、私たち進化速度強化班の方が難しい。注ぐ神力が弱いと、大して進化しない。逆に、神力を注ぎすぎると進化のスピードに遺伝子情報がついていけず生命体として存続できなくなってしまう。(別の世界、某紫の星で起きた機械昇華災害が有名である。)
・・・で、「ゴブリン種」の改良型モデルであるが、この星のイヌ種の性質を取り込み、繁殖力を若干抑えた代わりに個体の知能を強化することに成功した。(このような、限定された形質だけを上下させるのは、意外に難しい。ある形質を変化させると、他の形質にも連鎖的に影響が現れるからである。)
完成したモデルは、見た目がまんま、「2足歩行する子犬」「歩くぬいぐるみ」だった。ゴブリンほどではないが、高い適応能力があるので、惑星全土にサンプルを設置し、経過を観察することとした。
「コボルト」の開発コードが付けられた。
◆業務メモ 業務開始から45億9,833万年、某日◆(167万年前)
「コボルト」の実用試験は順調とまでは言えなかった。死滅したはずのゴブリンが生き残っていて、ちょうどコボルト種との競合関係になっていたからだ。コボルトはファースト種以上に知性があるが、その分繁殖能力はゴブリン種に劣る。「質のコボルト VS 量のゴブリン」といった感じで、惑星各地で生息地を奪い合っていた。そこに、ファースト種も絡んできて、惑星上の知的生命体の生息分布は前衛芸術家が描いた点描画の様になっていた。(哀しい事に、3種とも食物連鎖の最下位争いを続けるような状態だったが。)
惑星管理神からは開発中止の命令は来なかった。噂だが、このコボルト種には隠れたファンが多いらしい。
(追記 ここでコボルト種とゴブリン種を根絶やしにしなかったことを、私は激しく後悔することとなるが、これはもう少し後のお話。)
◆業務メモ 業務開始から45億9,950万年、某日◆(50万年前)
私たち進化速度強化班の努力がようやく実った。ファースト種の完全進化系の人型知的生命体がようやく確認できた。
相変わらず食物連鎖の最下位争いをするような弱々しい生物だが、“原人”なファースト種に比べ“旧人”と言っていい程度には進化している。200万年という期間は野良の進化強化にしては少し遅めであるが、充分許容範囲内だ。
「セカンド種」と名付けられ、更なる神力を注ぐこととなった。
◆業務メモ 業務開始から45億9,960万年、某日◆(40万年前)
「セカンド種」への神力注入事故が発生した。大陸沖合の小島でセカンド種の集団に対して神力の過剰注入が発生、対象のセカンド種の集団が進化暴走状態となった。魔力の同調係数が400%を超え、体組織が崩壊し実体を持たない霊体生命体やその手前の半実体生命体に変化してしまった。
班全員で小島を隔離し、島そのものを分子レベルで分解した。少数の変異体は島外に逃げた後だったので、生命体の根絶は不可能となった。野生種の進化強化は自己破壊システムを利用できないのでこーゆー時不便なのよ。
これは始末書モノだわ・・・。
(追記:逃げ出した変異体たちは極少数が大陸の限定された土地で生き延び進化する。その後、「ゴースト種」、「フェアリー種」、「ヴァンパイヤ種」と呼ばれる生物群の始祖となったのである。)
(つづく)