表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

第15話(4章1話)戦端

作者からのお知らせ(ピンポーン)

 このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。本編の前史に当たるお話を集めております。

 本編の後に、本作をお読みいただけると、より解りやすいと愚考いたしております。

 内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、先に本編をご笑読ください。


**********


 それは、10月初旬のことであったという。

 普人族の国、イズミール王国はウシャル陥落の痛手から立ち直り、東方開拓へ本格的に乗り出した。森にほど近い、イズミール王国が“アルスタ”と呼ぶ原野に陣地を設け、そこに2千人規模の開拓団を送り込んだ。

 この開拓の為に、夏ごろからこの地に陣地を構え、念入りに斥候を放っていた。探索者ギルドに依頼するだけでなく、わざわざ王都から兵を出してまで精確な情報を集めたのは、この開拓予定地が別の人型(ヒューマノイド)の勢力範囲と判断されているからだ。この地の東には野良犬(コボルト)の国の存在が知られていた。

 忌々しい事に、2年前のウシャル陥落の首謀者ともいえるゴブリンの異能体を追撃、討伐する寸前に逃げられている。原因はコボルト軍の介入で、そのコボルト軍はこの地域を通過して東方へ帰還したことも判っていた。

 この開拓は、単なる開拓事業ではなく、対野良犬(コボルト)国侵攻作戦の一環でもあった。この開拓地を橋頭保として、コボルト国に侵攻する。それがイズミール王国の戦略(シナリオ)であった。

 しかし、その思惑(シナリオ)は最初から崩れる羽目となる。

 王国軍8百人を含む開拓団2千人は、ゴブリン=コボルト連合軍の襲撃を受け壊滅したからである。


***********


「やったな! 初戦は大勝利や!」

 焼け野原となった開拓団の跡地で、コボルト王が(ゴブリン王)の脚をぺちぺちと叩いて喜ぶ。(尻尾もブンブン振られている。)

「マダ、油断デキヌ。今、残党狩リノタメ、周囲ヲ探シテイル。」

 軽~いコボルト王に、慎重な姿勢を崩さないゴブリン王。(ゴブリン王)には2年前の仮初の勝利とその後の悲劇を忘れていなかった。

「そやけど、もう夕方やで? 兵隊は粗方殺したっちゅうし、一旦撤収させんか?」

「ウム。ソノ通リダ。兵ヲ引キ揚ゲサセヨウ。」

 午後4時を回った頃だろうか、夕日になりつつある太陽を見ながら、コボルト王は進言する。ゴブリン王はその提案を是として、ゴブリン=コボルト連合軍は全軍を森の中の前線基地に引き上げて行った。

 

***********


「しっかし、思ったより簡単に引っ掛かったなぁ。」

悪魔(普人族)達は、我ラごぶりん族ヲ軽ク見テイル。格下ニ侮ラレタトアレバ、頭ニ血ガ昇ルガ道理。」

 夜の前線基地。魔光石の灯りが輝く会議室で、ゴブリン王とコボルト王は配下の重鎮たちと今日の反省会を開いていた。コボルト王が拍子抜けした様子で今日の戦闘を振り返ると、ゴブリン王は勝因を冷静に分析して見せる。

 ・・・作戦自体は、よくある囮&別動隊作戦であった。

 少数の囮ゴブリン隊が建設途中の開拓地前まで前進、さんざん挑発(バカに)して開拓団の護衛兵をおびき出す。ノコノコ釣られて出て来た王国兵を森の内部まで誘い込み、周囲に潜ませていたコボルト軍が一網打尽に討ち取る。

 そうして護衛兵を開拓地から引き離しつつ、本隊は大きく迂回して開拓地の後方へ回り込んだ。護衛兵の注意が前方(つまり開拓地の東側)に向けられている隙に、後方(つまり開拓地の西側)に避難していた農民たちに襲い掛かったのである。

 ノーマルゴブリンは1対1ならクワ一本あれば農民でも斃せる弱小種族(ザコノイド)であるが、ゴブリン王率いる本隊のゴブリンはただのゴブリンではなかった。彼ら(ゴブリン兵)は皮鎧に皮兜、盾といった防具で身を守り2メートル級の長槍で武装していた。そして隊列を組み、2人一組で1人の敵に立ち向かう戦術を徹底していた。これでは、非武装の農民では太刀打ちできない。

 さらに、ゴブリン王をはじめ、2年前の激戦を生き抜いた強化種(ベテラン)や、その後ゴブリン国で生まれた強化種(ニューフェイス)が先陣を切っていた。

 開拓地の西側にいた農民たちは、身の丈5メートルものゴブリン王や、彼に従う強化ゴブリン(ハイゴブリン)の姿に恐慌(パニック)となり、ただ蹂躙されるだけとなった。1,200人という人数が邪魔をして、護衛兵への連絡が遅れる。開拓団に動員された農民たちは、強化種(ハイゴブリン)によりパニックになった後、武装した一般兵(ノーマルゴブリン)で組織的に殲滅されていった。

 まだ森に入っていなかった護衛兵が、開拓地(うしろ)を奇襲されたことに気付いて踵を返すと、コボルト王率いる森内の伏兵が背後から追い打ちをかける。慌ててコボルト軍に対応しようとして振り向いたところに、ゴブリン王率いる本隊が奔流となって護衛兵達を呑み込んでいった。


***********


 後に、『アルスタの戦い』と呼ばれるこの戦いは、当然ながら普人族側には史料がほとんど残っていない。僅かに、”開拓団が壊滅したことが報告された”との記述がある文献がある程度である。(意外なことに、コボルト王国側にも史料があまりなく、前述したコボルト王付きメイドの日記程度しか残ってはいない。)

 しかし、ゴブリン王(大魔王)が初めて攻勢に出た戦であるコト、ゴブリン=コボルト連合軍による初戦であるコトの2点がこの戦いの歴史的意義であるというのが、現代の研究家たちの定説である。また、いわゆる”大魔王戦争”と呼ばれる、百年にわたる戦争の初戦ともされ、歴史家達により歴史の転換点(マイルストーン)と重視されている。


(つづく)

 (C)れっさー 2020 All Rights Reserved.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ