第13話(3章5話)新たなる火種 その1
2021年9月10日 改稿。誤字修正。
(作者からのお知らせ)
このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。本編の前史に当たるお話を集めております。
本編の後に、本作をお読みいただけると、より解りやすいと愚考いたしております。
内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、先に本編をご笑読ください。
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「自分ら一緒に来ぃへんかぁ?」
「ハァ? (コイツ、何イッテンダ? チョットワカラナイ)」
コボルト王からの、『ちょっと散歩しに行こうぜ!』的な軽~いノリの提案に、彼は再び固まった。
(あれ? 固まっちゃった?)
(王様、もう少し言い方ってモノがあるのでは?)
固まった彼を見て王様と医師がヒソヒソ小声で話している間に、再起動した彼が疑惑の目でコボルト王を見る。
「・・・ナニヲ、企ンデイル?」
コボルト達は悪魔から助けてもらっただけでなく、治療までしてもらった恩人?だが、そこまでしてもらえる理由が思いつかない。何か裏があるのでは? と彼が疑うのは当然であった。
「いやなぁ、コボルト本国はここから北東のところにあるんやけどな。」
彼の目つきが鋭くなったのを見て、コボルト王は慌てて両手を前に出して言い訳し始める。
「最近普人族の国が東に勢力を伸ばしてきてるんや。で、今すぐっちゅう訳ではないんやけど、このままやとウチんトコとドンパチになってしまうんや。」
「・・・ソレデ、我ラヲ間ニ挟モウトイウノカ?」
何のことはない、コボルト王は対普人族用の盾として、ゴブリン達を利用しようとしていたのだ。
「わ、悪い話やないと、お、思うんやで!」
やはり後ろめたさがあるのか、コボルト王は言い訳を続ける。
「最近ゴブリン狩りが激しくなって、コボルトの国にもゴブリンたちが逃げ込んできてるんや。」
城塞都市一つを滅ぼしてしまった代償だろうか? ゴブリンへの憎悪が激しくなり各地に点在するゴブリンの集落は更なる討伐対象となっている様だった。非戦闘員で非力な村人でも倒せてそれなりに価値ある素材となるゴブリンは、普人族からすれば「負傷者戦死者はまず発生しない」「経費はほぼ運用コストのみ」「安いが確実にリターンが見込める」という、「それなりに美味しい」獲物であるコトも討伐激化の一因であった。
人型間でも、ゴブリンは”狩られる側”の非力な存在だったのだ。
(爆発増殖による城塞都市陥落が異常なのであって、集落レベルの集団ならゴブリンは少数の探索者パーティでも蹂躙できる。集落討伐に領軍の正規兵を動員するのは討ち漏らしを無くし文字通り皆殺しにするための人数確保でしかない。)
当然ゴブリン側も抵抗するが、ライオンに蹂躙されるウサギの群れほどの戦力差でまるで歯が立たない。ゴブリンの戦士たちは自らを囮に女子供を逃がすのが背一杯であった。
かくして、普人族から逃れたゴブリンの女子供たちは流民となって様々な人型の国になだれ込んでいったのだった。
「わてらの国にもそれなりの数が入ってきてなぁ、まだ小競り合いしか起きてないんやけど、流民排除の動きが出るのは時間の問題やな。」
「・・・。」
思った以上に深刻な状況を告げられ、黙り込む彼。
「そやさかい、お前さんが王様になってゴブリンの国を造ってもらえば、と思うんや。」
「オ、オレガ王サマァ?!」
コボルト王からさらっと投げられた爆弾発言に彼は困惑する。
「そや、お前さんなら皆ついて行くやろ。ゴブリンの国を造って、各地の流民を引き取って欲しいんや。」
国内の不穏分子を取り除き、普人族への盾とする。彼を助けたのは為政者としての打算、思惑があったのだ。
「・・・ワンコ達ニハ世話ニナッタ。」
暫しの沈黙の後、ポツリと彼は呟いた。
「ドノミチ今見放サレレバ、我ラハ生キテイケヌ。」
何かを決意した目で、彼はコボルト王を見る。
「連レテ、行ッテクレ。」
「そうか、引き受けてくれるか! 話は決まりやな! すぐ準備するさかい、待っとってや!」
自分の思惑を知り、『それでも良い。』と言う彼に、コボルト王は喜びの声を挙げる。為政者として策は立てたが、ゴブリン達を利用するコトに後ろめたさが無かったわけではない。(王様にだって良心の呵責というのはある、ニンゲンだもの。)できるだけの支援を約束し、コボルト王は彼の元を辞した。
こうして、コボルト軍の撤退とゴブリンの国建国計画は始まった。コボルト軍に保護されたゴブリンたちは皆、彼と共に生きる道を選んだ。彼らは国の重鎮となるのだが、それはまた別の話である。
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打ち合わせと称してコボルト王はしばしば彼を訪れ、他愛もない話で時を過ごした。『馬が合った』のであろう、種族は違えど2人は心を許しあい、損得を離れた盟友となっていく。
この2人の会合は大陸全土に影響を与える歴史的な転換点だったのだが、この会合自体の記録はほとんど残っていない。そっけなく書かれたコボルト王付きのメイドの日記がわずかに現存するのみである。(故に、諸説が乱立、様々な解釈がなされ現在も論争の種となっている。)
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こうして、普人族の国イズミール王国の東、コボルト国との間にゴブリンの国が興されたのである。壊滅した南東の要衝、ウシャルの街の復興より東方への領土拡大を優先したイズミール王国とゴブリンの国が交戦するのは歴史の必然であった。
(つづく)
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