第12話(3章4話)復活の魔王 その3
「で、ウチの王様がキミに話があるってゆうンだよ。」
そう医師からのオファーがあってから数日。
彼は療養のために眠ったり、生き残った別のゴブリン達と面会したりして時を過ごしていた。
彼の身体を覆っていた沢山の包帯や湿布は日を追うごとに少なくなり、血色?も良くなったように見え、細く衰えていた腕にも肉が戻りつつあった。(それでも自力で起き上がるのが精いっぱいの重症患者であったが。)
「だいぶ良くなったね。もうすぐ立てるようになるかな?」
診察に来た医師が、自力で熱いスープを食べる彼を見ながら診察結果を伝えてくる。そう、彼は右腕が動くようになり、熱いスープも飲めるまでに快復していた。
「で~、こないだ王様の件なんだけど、もう1時間くらいでココに来るって。」
「ハ?・・・!? ゴフッ!」
唐突に、かる~く放たれた一言に、彼は思わずむせる。
「医師! 急にそんなこと言ったら患者さんが驚くでしょ!」
ナース服のわんこが、嗜めるように医師に注意する。
「・・・、イヤ、大丈夫ダ。・・・医師、食事ガ済ンダラ、カ?」
立ち直った彼が訊ねると、
「そうだね、ベッドは起こしたままにしておこう。」
と医師は頷くのだった。
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「王様ハドンナ人ナノカ?」
会合にあたり、コボルト王の人柄を訊ねたのは、彼にとって自然なことであった。が、返ってきたのは
「王様? う~ん、会えば判るよ?」
という、なんとも不安をあおる応えだった。
飄々とした医師だけでなく、包帯を代えてくれる看護婦さんや、ベッドを操作してくれる技師さんたちも、
「そうですね、え~っと、会えば判るんじゃないですか?」
「王様? ・・・、その、会ったら判りやすぜ?」
と医師と同じ微妙な、そしてちっとも答えになっていない応えである。
(ドウシテ、ミナ疑問形ナノダ?)
まだ起き上がることしかできない彼は頭をひねりながら、“王様”の訪れを待つしかなかった。
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「あぁ、元気ぃ? ワイが王様や、よろしゅうな!」
護衛と思われる鎧姿のわんこ達に続いて入ってきた”王様”の、これが
第一声だった。
足場まで上ってきて軽く右手をあげて挨拶した”王様”は、わんことしてはとても大柄だった。医師をはじめ普段目にするわんこたちが120センチ程の身長に対して、”王様”は160センチを超えていた。
明らかにわんこの強化種だが、”王様”が身に纏う雰囲気は護衛達のような”戦闘強化型”ではなく、むしろ医師のそれに近く、老成した知性を感じられる風貌であった。
「・・・ッ! 失礼シタ。我ヤ同胞ヲ助ケテイタダキ、感謝スル。」
呆けていた彼だったが、我に返ると慌てて礼を言い、頭を下げた。彼や仲間のゴブリン達は、わんこがいなかったら悪魔の軍勢に皆殺しに会っていたところだったのだ。
「いいって、いいって。コチラの都合でもあったんだし、気にしないで。」
そう言って、”王様”はこれまた軽~く手を振る。
「いや~、ズタボロだね~。これで治ってきた方なの?」
「ええ。湿布や包帯の量は3分の1にまで減りました。」
足場から彼の身体を見回した王様が医師に話しかけ、医師が珍しく真面目な声で応える。
「コレで3分の1ィ?! フツー死ぬよな? よく生きてたねぇ・・・。」
「まぁ、ゴブリンにしては巨体ですから、その分生命力もあったようで・・・。」
包帯と湿布に覆われた彼の姿を見て驚嘆する王様に、医師が淡々と答える。
実際、彼は巨大だった。5メートル近いその巨体は、明らかに強化種の枠を超えていて、コボルト達も最初は別の魔物ではないか? と疑ったほどである。
「骨格や角に数度の覚醒の跡が確認できました。相当レアなケースだとは思いますが・・・。」
「まぁ、死なずに済んだのは助けた甲斐があったというもんだ。・・・で、動かせそうなのか?」
「まだ自力では立てません。浮揚地上船に乗せれば移動には耐えると思います。他のゴブリン達はもう自力で動けますね。適宜車両に分乗すれば、行軍についていけるでしょう。」
「充分だよ。ベッドごと積み込んじゃおう。後は、彼に伝えるだけだね。」
何やら医師とごにょごにょ話をしていた王様は、彼に向かい、衝撃の一言を放つ。
「ワイらはここから撤退して国へ帰るんやけど、自分ら一緒に来ぃへんかぁ?」
再び固まる彼だった。
(つづく)
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