銃殺
翌日。
まずは近くの葵動物園から殺していく事にした。
「私は日ノ本管理局の綾野綺羅だ。戦争の妨げにならぬよう、動物を殺させてもらう。」
葵動物園の従業員は、黙って従った。
同情の声をかけたくなったが、日ノ本管理局の社員としてそれはできなかった。
「かまえ!」
私の号令と共に、同僚たちが銃をかまえた。
「放てーっ。」
轟音が動物園に響き渡り、銃声が止む頃には動物たちの死骸が転がっていた。
小さい頃、頻繁に遊びに行った葵動物園。
できればこんな事はしたくなかった。
が、上司の命令は絶対。
私は最後まで真顔でいた。
「あんな光景、もう絶対見たくない。」
同僚たちは愚痴を漏らす。
「みんな、落ち着け。天皇陛下も賛同しているなら、仕方ないだろう。」
私は食堂に向かった。
「おやじ~、豚骨ラーメン。」
おやじは私の言葉で硬直した。
おやじは私の事を何でも知っている。
私が悩んでいる時は、必ず豚骨ラーメンを食べる事も。
「はい、ラーメン一丁。」
私は豚骨ラーメンのスープが大好きなのだ。
これさえ食べれば、嫌な事などすぐに忘れてしまう。
魔法のラーメンだ。
「綺羅さん、何かあったのかい?」
おやじが聞いてくる。
「別に。」
私は素っ気無い態度で返す。
今は誰とも喋りたくない。
「俺は分かってんだ。綺羅さんが悲しんでる時は、必ず鼻歌を歌っている事を。」
私ですら気付かなかった癖を、おやじは他人であるのに知っている。
まるで神だ。
「動物の銃殺の件で悲しんでるんだろう?」
カッとなった私は立ち上がり、おやじの頬を平手打ちした。
「もうこれ以上、話さないで。」
私は食べかけのラーメンを残し、部屋に戻った。