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第8話 決心

 その男は、そのトラックを使い仕事をしていた。


 結婚し、二人の子どもを養って生活をし、彼はそんな生活が幸せだった。


 仕事の中……一人の老人を轢いてしまったその瞬間までは。


「…………」


 彼はしばらく何も喋れなかった。


 人を殺した罪悪感。妻や子どもと離ればなれになった孤独感。


 何もかもを失った喪失感。


 すべてが彼を苦しめた。彼にはもう何も残っておらず、生きる理由が見つからなかった。


 そうして……彼は道路に飛び出て、命を断った。


 ただ、その時見てしまった。その時の運転手の顔を。


 運転手は……絶望に歪んだ顔をしていた。まさに、老人を轢いてしまった時の彼と同じ顔をしていたのだ。


「……ああ」


 彼は同じ罪を背負わせてしまったことを後悔していた。


「こんにちは」


「…………」


 その時、時間が止まったような感覚に彼は襲われた。


 そして……目の前に仮面をつけた男が立っていた。奇怪なその仮面は、明らかに普通ではないことを表していた。


「私の名前はアスカ。ちょっとした旅人だ」


「……あ……あ?」


「いやまあ……特に用は無いが……」


 その人間は、彼の手をつかみ言う。


「お前は未練を持っていないか? もしそうであるならば、お前の魂を……一時的にこの世にとどめることができる」


「……み……れん」


「ああ。どうだ? 一度、やってみては」


 彼はその人間に言われたとおり、未練を考えてみた。


 数えきれないほどの絶望……それを与えた社会について、彼は考えた。


「さあ……そのトラックに触れてみろ」


「……あ……あ」


 彼がトラックの触れると、体はどんどん吸い込まれていった。しだいに、体は消滅していく。


「…………」


 彼が完全にトラックの吸い込まれた時、外にいた仮面の人間は……。


 なぜだか、笑っているように見えた。



*****************************



「……えっ」


 不意に意識が現実に戻り、現状を把握する。


 目の前には今にも、爆発しそうなトラックがあった。


「……!」


 すばやくトラックから離れると、それは勢いよく空中に散る。


 爆発の中から……何か声がした。


『……彼を……よろしく』


「……っ!」


 その声は、本当に小さく弱々しかったが、それでも確かに俺は聞いた。


 俺は運転手を抱え、大剣のもとにやってくる。


 彼女はすでにあの女子高生から離れていた。


「……あなた」


「…………」


 彼女は今にも怒りそうな雰囲気で黙っていた。


 怒られることは覚悟だった。さんざん勝手なことをしたのだから……。


 ムニっ。


「……えっ」


 俺の頬をその透明な手はつまむ。


「……なに?」


「今回はこれで許してあげる」


「……えっ」


「実際、助かったのは事実だから……」


「……いいの?」


「まあ……うん」


 彼女は俺の頬から手をはなし、言う。


「まあ、君の人を助けたいっていうものすごい思いが知れたからいいかな」


「……えっ」


 俺はその時……みるみる顔が赤くなっていた。


「もしかして……」


「ん?」


「俺……めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってた?」


「うん。ばっちり私の耳に録音してあるぜ」


「ぎやあああああああああああああああああああ!!」


 恥ずかしさのあまり、うずくまり顔を手で覆う。


「……死にたい。めっちゃ死にたい」


「まあでも、かっこよかったよ。さっきも言ったけど、結果的に君のおかげで助かったから……」


 彼女は周りを見回し、言う。


「……今回はあまりにも被害がでかすぎた。でも、君がいなければ、もっとひどいことになってた。私が不注意だったのが原因だし、君にはすごく助けられたよ」


 そして、浮遊しながら瓦礫をどかしていく。


 そこには、多くの人が下敷きになっていた。


「……本当に……ごめんなさい」


「…………」


 彼女はこれまでどのぐらい同じことを経験してきたのだろうか。


 今回、俺はすごく大変な思いをした。


 それなのに、何度も……何度もこの街の人間を守った彼女は今まで……どれだけ辛い思いをしてきたのだろうか。


「……よしっ。まったく、それにしても、今日の悪霊はどれだけ人を殺したいと思ってたのやら。お姉さん、びっくりだよ。こんな悪霊に出会ったの」


「……いや、たぶん……」


「ん? どうかしたの?」


「あの悪霊は……この運転手を守るために、罪を背負ったんだと思う」


「へ?」


 俺は運転手をその場に下ろし、彼を見つめながら言う。


「このまま、自分を倒してくれる人がいれば……倒してくれれば、このトラックの存在は結果的に無かったことになる。そうすれば、この人が罪に問われることは無くなる」


「いや……そうなのかな」


「たぶん……全部の気持ちがそうだった訳じゃないと思うけど、そんな気持ちも少しはあったんだと思う」


 そういった意味が……彼の最後の言葉に込められていた気がした。


「……あれっ……」


 気づくと、俺は涙を流していた。


「なん……で……」


 おかしなぐらい、涙が出た。


 そんな俺の頭を彼女は撫でる。


「大丈夫」


「…………」


「それが君の正直な気持ちなんだよ。他人の心を思いやれる……優しい心を持った……」


「…………」


 それから俺は……泣き止むまで、彼女に撫でられ続けた。



*****************************



 その後、校舎は元の形に戻った。加えて、そこで死んだ人間たちはみな別の……何気ないような死因で死んだことになっていた。


「さあーてっ」


 ピンク色の髪になった姫川 ウラ……もとい大剣が俺を片手に持って、空を飛ぶ。


「そろそろ君を元の体に戻さないと……」


「……あっ。そのことなんだけど……」


「ん?」


「俺……まだ、戻らないことにするよ」


「……えっ」


 彼女は驚いたような顔をして、俺を見る。


「なんで!?」


「いや……だって」


 俺は照れながらも言う。


「……守らなきゃいけないやつらがいるからさ。俺にも」


「…………」


「だから、俺にも手伝いをさせてくれ! 頼む!」


「……ははっ」


 彼女は少し笑みを浮かべながら、言う。


「トバリ……」


「……へ?」


「私の名前……トバリって言うんだ」


「……なんで名前を?」


 彼女は嬉しそうに言う。


「これから仲間になるからね。名前ぐらいは教えないと」


「……えっ」


 俺はその言葉の意味を理解する。


「いいのか! 仲間になって!」


「いいに決まってるじゃん。これからよろしくね」


「やったあ! ひゃっほおおおい!」


 俺は精一杯体を伸ばし、喜ぶ。


――これから俺たちは二人で頑張って街の平和を守っていくんだ――



*****************************



「……えっ」


 俺たちがアパートに戻ると、そこには三つの武器があった。


 一つは槍だった。黄色の装飾がされた、アラビア風のものだった。


「ちょっと! 遅い! トバリ! いつまで待たせるのよ!」


「いやあ、ごめんごめん。いろいろ長引いちゃって」


「まったく……さっさと会議を始めるってのに、ここの連中ってのは!」


 その槍からは偉そうな少女の声がする。


 その奥には持ち手が緑色の双剣があった。


「あははっ。今日もいっぱい悪霊を狩ったよ、トバリ姉ちゃん。すごく強いのがいたんだ」


「そうなんだ。元気そうだねえ」


「うん」


 その双剣からは、なんとなく狂気めいた雰囲気の少女の声が……。


 そして、共に置いてある紺色の拳銃からは男の声がする。


「安心しろ、新入り。ここの連中はみんなどこかしら奇妙な一面を持つ愉快なやつらだ。すぐに慣れる」


「…………」


――いや――


「何がおかしなやつらよ、ミゾレ! あんたが一番おかしいでしょうが!」


「……ほう。言っておくが、槍になってからも頑張ってBL本を集めているお前よりはおかしくないが」


「あんた、よくも言いやがったわね! 興味があるから仕方ないじゃないのよ!」


 槍と拳銃が喧嘩をしている。


「まあまあ、落ち着いて二人とも。新入りの子、帰っちゃうかもしれないよ」


 そして、それを止めようとする大剣。


――いやいやいや――


「大丈夫だよ。みんなボクが殺してあげるから。それなら平等でしょ」


 奇妙なことを言う双剣。


――いやいやいやいやいや――


「なにこれ」


 そして、それをおかしな目で見る日本刀……すなわち俺。


 これもう、わかんねえな。

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