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第7話 闘志

「えっ……えっ……」


 俺は、自分の顔を手で触って確かめる。


 確かに夢では無い。


 頬のやわらかい感触は、女の子のそれだった。


「……マジ……かよ」


 そして、下を見る。


 そこには普段は見ない大きな二つの丸いものがあった。


「……いや」


 俺はそれから視線をそらし、頭を抱える。


「いやいやいや!」


――おかしいおかしいおかしいおかしい!――


「なんで、俺が憑依してるわけ!?」


 頭の中を疑問の嵐が襲う。そもそも霊力をまともに扱えない俺が憑依しても意味が無いことを考える。


「……でもまあ」


 俺は刀を片手に持ち、立ち上がる。


「これで、あの大剣のところに簡単に行ける」


 そして、ゆっくりと歩き出す。


「でも、その前に……」


 制服のポケットの中にあるハンカチを取り出す。それで、少し顔を拭き、きれいにする。


「やっぱり女の子だから、美しさには気を使わないとな。あっ……。可愛いポーズとかもしておかないと……」


 俺は手にピースサインを作り、それを顔の前に置き、さっき拾った鏡の破片を前にポーズする。


「イエーイ。可愛く決まってるー」


 そんなおかしなことをしている中に……大量の瓦礫が降ってくる。


「ぎやあああああああああああああああ!!」


「きゃあああああああああああああああ!!」


 その瓦礫の中に、あの大剣が入っていた。


「ええ! 何やってんだ?」


「ええ!? ウラちゃん!?」


「……ウラちゃんじゃねえよ。俺だよ。俺!」


「えっ……刀の君……」


 すると、なぜか彼女は瓦礫で動きづらいにも関わらず、俺から離れようとする。


「……女の子の体で何しようとしてるの? もしかして、思春期だから変なことを……。あー、いやらしい」


「いや! ちげえよ! この姫川 ウラを探してたら、こうなっちまったんだ!」


 そんな瓦礫を吹き飛ばし、トラックが突っ込んでくる。


「うおおお!」


 俺とその大剣は、瓦礫の無い広いところに弾き出される。


「いてっ!」


 腰を打ちつけ痛みが襲い、つい涙目になる。


「いってえ~! あのトラック……容赦ないな」


 そんな俺の前に、そのトラックが現れる。


「あの野郎。こっちを狙ってやがる」


「何やってるの!」


 大剣の彼女は俺のもとに近づいてくる。


「はやくウラちゃんを私に!」


「……お前」


 その時、傷だらけの彼女の手が目に入った。


「はやく!」


「…………」


 そう言う彼女の肩に触れ、俺は歩く。


「悪い……」


「えっ」


「俺だって、役に立ちたいんだ」


 俺は彼女に強く笑みを見せる。


「だから、少しこの体を貸してくれ」


「……何を」


 俺は走って、そのトラックの前に出る。


「やい! このインチキ野郎! そんなでかい図体で、小さいやつらいじめて楽しいか! ごらあ!」


『…………』


 トラックはじっとこちらを見つめていた。


「いいか! お前なんて、そんな大したことないって教えてやる! 今から、この俺がお前をこの刀でぶったぎってやるんだからな!」


『……ぶるるるっ!』


 うなり声をあげると、トラックは勢いよく俺に向かってくる。


「よし、来た! 今からぶったぎってやるぞー!」


「ちょっと!」


 すると、大剣が俺の方に声をかける。


 そんな彼女に俺も言う。


「なんだよ。今、いいとこなのに……」


「君、まだ霊力の使い方もよく知らないでしょ!」


「えっ……霊力が無かったら、どうなるの?」


「いや……だから……」


 迫りくるトラック。


 その状況で彼女は俺に言う。


「霊力を込めないと、その刀でトラックを斬るのは無理だから!」


「……えっ」


 その瞬間。


 俺はトラックに弾き飛ばされるのだった。



*****************************



「ぎやっ」


 俺はまた瓦礫の山に落ちてくる。


「……えっ」


 なぜだろう。


 勝手に姫川 ウラに憑依すれば、ものすごく強くなれると思い込んでいた。


「…………」


 少し傷のできた腕を見て、俺は考え込む。


――……ったく。俺って、何やってんだ――


 起き上がり、頭に手を添える。


――そうやって、すぐ調子に乗って……それで、人の体に傷をつけるなんて……――


 そして、体の埃をはたき、刀を強く握りしめる。


――目的を忘れるんじゃねえよ。何のためにこの体を借りてるんだ――


 その刀の先を見つめ、精神を研ぎ澄ませる。


「守るためだろ!」


 その瞬間、青白い炎が刀にまとわりつく。それらは俺の闘志を熱く震わせた。


――これが……霊力――


 なぜそれらが突然現れたのか、そんなことはわからなかった。


 ただ、これでやっと俺は誰かを助けられるのだと嬉しくなった。


「…………」


 俺は着ていた制服の上着を脱ぐ。そして、それを肩にかけ、再度刀を握りしめる。


――戦う理由を忘れるな。じゃないと、今みたいに失敗する――


 俺は脚に力を込める。青白い炎が脚にも巻きつく。


「……行くぜ!」


 地面を大きく蹴りあげる。すると、電光石火のごとく空気を引き裂き、進む。


 青い霧のような残像を残し、一気にトラックに突き進む。


「おらあっ!」


 そのトラックの前部分を蹴り飛ばす。車体はその場に倒れる。


 俺は反動で瓦礫の山に着陸する。そして、肩にその刀をかまえ、トラックの様子を伺う。


 それはすぐに起き上がり、俺を威嚇するかのようにエンジンの音を鳴らす。


「おらおら! こないならこっちから行くぜ!」


 俺は地面をすばやく走り、トラックの横に来る。


「せい!」


 刀を車体に打ちつける。しかし……。


「かたっ!」


 異様なほど頑丈で、刀が通らなかったのだ。


「……ちっ」


 俺はその場から飛びはね、一旦距離を取る。すぐさまトラックがその場で回転するのをわかっていたからだ。


「……さて……どうすっかな」


 注意深く、トラックの状態を伺う。


「……よしっ」


 おおかた……方法を決め、トラックに近づく。


「おらっ!」


 まず、前方の右側のタイヤを攻撃した。そのタイヤは強力な霊力で守られていた。


「やっぱりな……。でもよお……」


 俺は3連撃、そこに刀を叩き込む。


「ここさえ壊しちまえば、あとは楽なんじゃねえか!」


 さらに2撃、刀で斬りつける。


 しかし、さすがにトラックも待ってくれるほど優しくない。だから、その場で俺を弾き飛ばすために回転する。


 だが……。


『……!』


「にひっ」


 俺はトラックの扉の取っ手にしがみついていた。


「おらおらおら!」


 さらに4連撃、タイヤを斬り刻む。


 その時だった。


 大きな破裂音が鳴り、トラックの回転の勢いが弱まる。


「よっと!」


 俺は隣の後方のタイヤも斬りつける。


 トラックも霊力をかける余裕が無かったのか、簡単にパンクさせることができた。


「……終わりだな」


 俺はトラックの前方にやってくる。その車体をじっと……見つめていた。


「……お前がどんな恨みだとか、未練だとかを持っているかは知らない。……つーか、どうでもいい! ただ」


 刀身をトラックに向け、俺はそいつをにらみつける。


「ここでお前が俺の大切な人たちを殺そうとするなら、俺はお前を斬る!」


『……ぶるるるるる!!』


 トラックは、透明な腕のようなものを生やす。


「……何をする気だ」


 トラックの窓は暗く、中がよく見えなかった。だが……。


「人が……乗っているのか」


――トラックの……運転手?――


『ぶるるっ!』


 その透明な腕はトラックの前部分……すなわちエンジンの部分を貫いた。


「……まさか、自爆する気か!」


 それは犠牲を増やすためのものだった。


 この悪霊はそんな禍々しい恨みを持っていたのだ。


「だがよお!」


 俺は一瞬でトラックの運転席の扉を斬り開き、運転手を引きずり出す。


「俺の方が速い」


 そして……トラックを中央から真っ二つに斬った。


「……!」


 その時……何かの記憶が刀を伝わって、俺に流れ込んできた。

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