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第16話 複製

「さあて! 今日も張りきっていこうか!」


 元気よく学校の屋上で話すトバリ。また、その隣で自らである二つの剣の手入れをするサユ。


 そして、いまだにガムテープで透明な腕ごとぐるぐる巻きにされている俺。


――いや、ちょっと待って!――


「なんで、俺このままなの?」


「へ? いやあ、さすがに急に抱きつかれても、お姉さん対処できないからさ」


「抱きつかない! 抱きつかないから! 昨日のあれは気の迷いってやつだ! つい、トバリがすごく優しかったからさ!」


 そんな時だった。


「お兄さん」


「ひっ」


 剣先を俺に当て、ゆっくりとそのガムテープを切りながら言う。


「あんまりトバリ姉ちゃんを困らせたら、お兄さんを斬っちゃうから気をつけてね」


「…………」


 本当にやりかねないので、俺は黙ったままである。


 幸い、テープは剥がれて、自由の身になる。まあ……精神的には、サユの威圧で全く自由ではないのだが……。


「……それにしても」


 トバリは屋上から見下ろし、周りを警戒する。


「気配が無いね。ハルちゃんから聞いてる仮面の男の様子も無い」


「ええ……。せっかく戦えると思ったのに……」


 サユはガクリと落ち込む。


 そんな中で、俺は言う。


「もしかしたら、破片だけで潜り込んでる可能性があるんじゃないか?」


「うーん。そうだとしても、悪霊自体の気配が無いからね」


「……そうか」


 実際……敵が来ないなら来ないで、学校の連中に危険が無いから、良いのだが……。


 俺も暇なので、校庭の方を眺める。


 そこには……。


「……ミユキ」


 俺の……幼馴染であるミユキがいた。


 体育の授業をしているのだろう。彼女は体操服を着て、他の女子たちと一緒に運動をしていた。


「へえ」


「……えっ」


 ふと、俺のすぐ後ろからサユの声がした。


「うわあっ!」


 突然、声をかけられた俺は慌ててサユから離れる。


 サユはまたもや不気味な声で、俺に言う。


「お兄さん。……あの子のことが好きなの?」


「ばっ! いやいやいや……ただの幼馴染だっての!」


「ふーん。昔から一緒にいる子のことを好きになっちゃったんだ」


「がふっ!」


 サユは完全に俺の否定を聞き入れず、話し続ける。


「……不思議だね。普通、ずっと一緒だと嫌いになってくるよ。特に……」


 彼女は珍しく……人間らしく、その声を放つ。


「生まれた時から一緒だとね」


「……えっ」


 その彼女の言葉の意味を、この時の俺はまだ知らなかった。



*****************************



「えっ?」


 ハルとミゾレは路地を歩き、とある建物の前に来ていた。


「……何ここ、博物館?」


「ああ」


 彼らは窓ガラスを割り、中に入る。


「なに? なんで、こんなところに?」


「少し……気になることがあってな」


 建物を進みながら、ミゾレは話す。


「……以前……とある刀について、聞いたことがある」


「……それってさ」


 ハルは問いかける。


「あなたが、()()()として、幽霊狩りをしていた頃の話?」


「ああ……そうだ」


「まあ……その時のことを話したくないなら、それでもいいけど……」


 ハルの言うとおり、ミゾレは霊術師に関すること以外を話す。


「……その刀は、何度も何度も戦場で使用され、斬られた人間は悪霊となり、その刀に宿った。一人だけでなく、何人も宿ったその刀は、折れても折れても直るような……異様な刀になったと言われている」


「……昨日の仮面と似ている」


「そうだ。あの仮面にも、何人もの悪霊が取りついている。もしかしたら……もしかしたらだ」


 ミゾレはその歴史のスペースに入り、言う。


「その仮面が、何者かがその妖刀を複製するために生まれた物だとしたら?」


「……えっ」


「刀に酷似した呪いの道具が生まれていても、おかしくないんじゃないか?」


「どう……いう……」


 その部屋には綺麗に斬られたショーケースと、そこに飾られていたとされる刀が盗難されたという知らせの紙が貼られていた。


 そして……そこにはミゾレの知る刀の名前が書かれていた。


「やはり……妖刀『クロバネ』」


「じゃあ! ハヤトが取りついたのって、そんなに危険なものなの!」


「それは違う。言っただろ? その妖刀を複製しようとしたのではないかって……それに……」


 ミゾレはショーケースに手を添えて、言う。


「一説によると、妖刀『クロバネ』は返り血を浴びて、それが放置されて黒く染まったと言われている。ただ、悪霊が宿った刀だからか、それでも切れ味が落ちることが無かったらしい。つまり……だ」


 ミゾレは今までに無いほど、真剣な声でそれを言う。


「昨日見たあの刀。()()()()()()()()()()()()、長塚が取りついたのは、()()()()()()()()()()()だったってことだ」



*****************************



 俺たちが、周りの校庭を警戒している時だった。


「っ!」


 サユが何かに感づく。俺は彼女の様子の変化に気づき、問いかける。


「ん? どうした?」


「……何かが……来る」


「何かって……」


 その直後。


 空から長く黒い何かが降ってくる。俺たちの背後……屋上の真ん中にそれが突き刺さる。


「……えっ」


 それは禍々しいオーラを放つ、黒い刀だった。


「なんだ! これ!」


 俺はそれが見覚えのあるものだと気づく。


「これ……昨日の!」


「なら!」


 トバリはその大きな刃をその刀に向かわせる。


「すぐに倒さないと!」


 その時だった。


 突然、屋上の床にある石畳が宙に舞う。


「……えっ」


 それはトバリを空に打ち飛ばす。


「きゃ!」


「トバリ!」


 本当に奇妙な刀だった。


 そんな刀を見て、空中にいるトバリは言う。


「まさか……この石畳……」


 石畳からかすかに霊力を感じ取っていたのだ。


「悪霊が宿っ――」


 その瞬間、石畳から透明な腕が生え、トバリは殴り飛ばす。トバリは屋上の外へ出て、地面へ落ちていく。


「トバリ!」


 慌てて、彼女の方へ駆け寄ろうとする。


 しかし。


「うおう!」


 その石畳は次に俺の方に攻撃してきた。


「くっ!」


 焦ったが、それでもしっかりと刀身を攻撃に合わせ、防御する。


 その瞬間。


「あははっ!」


 サユがその石畳に二つの剣を同時に叩き込む。それは破壊されると、砂のように消えていく。


「おもしろいなあ。……あの刀、他の物体に悪霊を取りつかせることができるみたい。いやあ」


 彼女は刀に警戒しながらも、その声は笑っていた。


 ただ、そんな奇怪な彼女だが、仲間としては心強かった。


 ふと、俺は気になることがあった。


「トバリは……」


「トバリ姉ちゃんなら、たぶんウラちゃんのところに行ってるよ。姉ちゃんが来るまで、ここで足止めするのがボクらの仕事さ」


「そうか」


 さすがは今まで協力しあって戦ってきた仲間である。お互いの考えていることをちゃんとわかっている。


「ただねえ」


「ん?」


 その瞬間、サユは一気にその刀の前に移動する。


「トバリ姉ちゃんが来る前に、終わっちゃうかも♪」


 その刀に斬撃を食らわせる。刀は真っ二つに折れ、その床に弾き飛ばされる。


「……これでおしまいだね」


「おお! すげえ!」


 なんというか、素早く重いその一撃は俺にとって、憧れるものだった。


「すげえよ! サユ! あの刀を一撃で!」


「…………」


「……サユ?」


「ははっ……」


 その時、なぜか彼女が苦笑いをしているように思えた。


「おかしいな。……こんなこと、今まで無かったんだけどな」


「……!」


 折れた刀が……互いに引き合っていた。壊れたというのに、それらが砂に変わることは無かった。


 二つの部分から流れるオーラは血管のように姿を変え、それらは繋がり合う。


 やがて、破損したそれぞれの部分は紡ぎ合う。


「なんだよ……これ」


 悪霊を倒す方法。


 昨日の仮面の男が言っていたように、取りついている武器を破壊する、もしくは俺の青い炎で焼くしかない。


――壊すのが駄目なら!――


「サユ! 少しどいてろ!」


 そうして、俺はかまえ、霊力を使おうとする。


 その時だった。


『……サユ……お姉ちゃん?』


「……っ」


 その黒い刀から……幼い女の子の声がした。


 突如発したそれを聞いた俺は、一度攻撃をやめる。


 だが……。


「……殺せ」


「えっ」


 サユの冷たい声が、俺に向かう。


 俺は動揺した。その声からはまったく狂気など感じなかった。


 感じたのは、明らかな殺意である。あまりに人間らしいその声は、俺の知る今までのサユでは無かった。


「殺せ!」


 その言葉……たったの一言に、熱がこもっていた。


 そんな中……黒い刀からまた声がする。


『……やっぱり……サユお姉ちゃんだ。私だよ。私! わかる?』


「…………」


『なんで黙ってるの? …………。やっぱりそうなんだ。私の見間違いじゃなかったんだね?』


 黒い刀は空中に浮かび、その場の空気を重くする。


 そして、彼女は言う。


『お腹の中にいる私を、お母さんもろとも串刺しにしたのは、サユお姉ちゃんだったんだね?』

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