第10話 再生
次の日の朝。
姫川 ウラが学校に行き、他のメンバーが別の場所に出かけた後のことである。
「ちょっと! あんた、空を飛ぶのもできないわけ!」
「まあ、そうだけど……」
「まったく……あんた、ほんとにどうしようもないわね!」
そんな中、俺と槍……ハルは部屋に残ったままだった。
――そして、なぜこいつは当たりが強いのだろうか――
「まったく……しょうがないから、教えてあげるわ」
「えっ! いいのか!」
「勘違いしないで! あんたみたいなの持ちながら、行動するの面倒なのよ!」
そう言うと、彼女は透明な腕を出す。
「……いい。霊力を扱うには、まず物にある【ゲート】ってのが見えなくちゃいけないの」
「……【ゲート】?」
――そんなものを俺は開いていたのだろうか――
自覚は無かった。なんとなく、あの時は人を守ることに必死になっていたからだ。
「それでね。2つの物体の【ゲート】を重ねれば、簡単に霊力は扱えるようになる。例えば……こうやって」
彼女はそう言うと、その手にプラズマのようなものを作り出す。
俺は思わず、それに驚いてしまった。
「すっげええ!」
「これはこの槍と、私の魂の【ゲート】を重ねるとできるの。やってみなさい」
「……えっ」
――やれと言われても……その【ゲート】ってのがよくわからないんだが……――
「まあ、やれるだけやってみるか」
俺は単純に目を凝らし、踏ん張る。
「見えろ! 見えろおおおおお!」
「……なんか駄目そうね。もうちょっと、こう……見えないものを見る感じよ」
「はい? 何言ってんの?」
見えないものを見る。
そのことがまったく理解できなかった。
「見えないものなんかどうやって見んだよ!」
「想像力を働かせなさい。そんなこともできないの?」
「いやいやいや……いやいや」
「まったくしょうがないわね。こんな説明はあまりしたくなかったんだけど」
彼女はなぜか俺から離れた後、言う。
「……あのタンスの中を想像しなさい」
「なに?」
それは昨日俺が一夜を過ごしたタンスだった。
俺はタンスの方を向き、中の様子を考えてみる。
すると、何か丸いものが見えた。
「……なんだ? この丸いの」
「それが【ゲート】よ。……まったく、これだから男は。……不潔。……ばっちい。近寄んないで」
「あのお。さすがに結構傷つくよ」
俺は同じ要領で、自分の体を見てみる。
そこには、刀と俺自身の魂の2つの【ゲート】があった。
「……えっ……と。これを重ねるように想像すれば、いいのか」
すると、目の前に赤い炎が出現する。
「おお! できた」
「まあ、上出来ね。あとは浮遊の方法を教えれば、終わりね」
「……ん? ちょっと待て」
その時、俺は出来上がった炎を見て疑問に思っていた。
――確か……昨日憑依した状態の時は青い炎だったよな――
「何してるの!」
窓の方から、彼女が呼びかける。
「とっとと飛べるようになって、ウラの護衛に行くわよ」
「……おう」
俺はそのことを疑問に持ちながら、彼女のもとに向かうのだった。
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その後、空の飛び方を教わり、俺とハルは学校にやってきていた。校舎の屋上から、生徒たちの様子を見る。
俺はその風景を眺め、昨日のことを思い出していた。
「……ここがあんなに崩れてたなんて、想像できないな」
「そりゃあ1日経っちゃえば、皆忘れてるし、壊れたものも元通りよ。まあ……」
彼女は槍の手入れをしながら、答える。
「死んだ人間は二度と戻らない。そのことは絶対に忘れちゃいけないわ」
「…………」
その時の彼女は、なんとなく元気が無いように思えた。
だが、すぐに元の彼女に戻り、こちらに指示を飛ばす。
「よく見なさい」
「えっ」
彼女は学校の敷地内に入ってくる自動車を指さす。
それからは禍々しい雰囲気が漂っていた。
「なんだ……あれ」
「おそらく、どっかで轢かれた動物の幽霊が宿ってるんでしょうね。今はまだ、本格的に活動していないけれど……」
「ええっ! じゃあ、早く倒さないと!」
「わかってるわ。あんたに言われなくても」
運転していた人間……おそらく出張から帰って来た教師が車から出て、校舎に入っていく。
その後、ハルは腕で支え、槍をかまえる。
「……せい!」
瞬間、槍は電撃をまとい、一気に車を貫く。
車は砂に変わり、そこから姿を消した。
「おおっ……。すげえ」
俺が浮遊し彼女のもとに向かうと、ハルは地面に突き刺さったままだった。
「……抜いてやろうか」
「は? あんたなんかの助けはいらないわ」
そう言うと、彼女は槍から腕だけでなく、透けている少女の体を作り出す。
「よっと……」
ツインテールにまとめたその可愛らしい少女は、地面に突き刺さっている槍を抜く。
「ええ……」
その姿を見て、俺は困惑していた。
「お前……人の姿になれるのか?」
「ふふん。あんたやトバリと違って、私は優秀だからね。霊力を器用に使って、こんなこともできるんだから」
「へえ。すげえな」
――俺も頑張れば、そのうち自由に人の姿を取り戻せたりするのだろうか――
すると、彼女はすぐにその体を消滅させ、槍だけの状態に戻る。
「……ん? どうした? なんで、さっきの体のままじゃないんだ?」
「はあ? 馬鹿じゃないの? あんなの長い時間やってたら、すぐに霊力が無くなっちゃうでしょうが。そんなのもわからないなんて、あんたやっぱ向いてないんじゃないの?」
「はい? なんで、そんなこと言うんだよ! 俺だって、少しは役に立ってみせるさ」
「まあ、頑張ってね。期待はしてないけれど」
「なんだと! この女」
相変わらず、ハルのきつい態度はそのままである。
ただ、次の瞬間、ハルは校舎の方を向く。
「……なに、この感じ」
「えっ。どうかしたのか?」
「わからないの? この嫌な感じの霊力」
ハルは空中に浮いたまま、校舎の中に入る。
「これ、まさかさっきの教師が……」
「なあ、何かあったのか?」
「もしかして、さっきの車は……おとり? ……本命はあの教師の体を使って、ここで暴れること? でも……」
彼女は考え込み、呟いていた。俺の言葉が通らないほどに彼女は集中していた。
「こんなことを考える悪霊が存在するの。……いや」
そこで彼女は何かに気づいたかのように、校舎の中を動き回る。俺は必死に彼女の後に着いていく。
幸い授業中だからか、廊下には誰もいない。
だが、こんなに派手に行動してよいものだろうか。
「なあ! 一体どうしたんだ!」
「もしかしたら、私たちと同じように道具に取りついて、意識を保ててる幽霊がいるのかもしれない!」
「なんだって!」
「意図はわからないけれど……あいつは今、ここで暴れようとしている」
その瞬間、彼女は姫川 ウラのいる教室の扉を突き破る。
「ええ!」
その大胆な行動は俺の予測をはるかに超えるものだった。
そして、ハルは座っていた姫川 ウラの腕をつかむ。
「ちょっと! なに!?」
「ごめん、ウラ! 少し体借りるわ!」
その槍から光を放ち、ハルは姫川 ウラに憑依した。
その黒い髪は、黄色に変わり、彼女は制服の袖をまくる。そして、その髪を赤いリボンでくくり、走る。
担任が呼び止める声を彼女はまったく聞かずに教室の外に出る。
「ほらっ! さっさとあいつのところに行くわよ!」
「……なんつーか、すげえなお前」
「んなこと言ってる暇無い! とっとと、あいつを止めないと」
走っていく彼女のあとを追いかける俺。
そうして、俺たちはあの教師のところに向かうのだった。




