ぷろろーぐ
ふんぎゃっ
__焦げた生肉と腐った卵が混じり合うようなそんなクソみたいな匂いが鼻につく。
ぐるりと周りを見渡してみる。
目の前にある、もはや、その役割すら果たしていない門の先。
そこは、正しく、異世界であった。
舗装されていた道は途切れ、何かもわからぬ死骸、何か大きな機械の残骸、棒のような何かのパーツだったり、果ては、日常で使う家具、家すら丸ごと。
黒く濁った水がチョロチョロと水音を立てて、それらの上部から流れ落ちる。
その全てが、どこからか放り投げられてきたかのように乱雑に積み重なっている。
とても、生物が覚めるような場所ではない。
さらにその奥、その思考を視覚という己の絶対的なもので事実づけられた。
目につくのは荒れ果てたゴミ山、肉が腐りベロベロになった皮の間から骨が見える死体、それを競うように漁る、血走った目をした幼子。
その様はまるで……。
『鬼のよう……か。』
頭の中で声が響いた気がした。
入り口でさえコレなのだ、中に入ってしまったら……
想像してしまい、顔を伏せ、身を見開き涙を溜め、意図せず両腕の二の腕をギュッと握る。
暗く淀んだ空が見下ろしている。
まるで自分自身のこれからを暗示しているようだ。
かつて飛んで行きたいと願ったそれですら穢れてしまった。
目を開けているだけで、自分の内側まで穢れで染まっていくように感じる。息すら吸いたくない。
息を吸って吐く感覚派が段々短くなる。
硬く目を瞑る。だが視界を遮断したことにより、逆に匂い、ゴマを踏みつける足の感触、さらに空気の何かが腐ったような味まで明確になってしまった。
少女は、体中にたまのような汗を浮かべ、笑った。
己の境遇を、自分を生み出した両親を、そしてクソったれたこの世界そのものを。
下を見つめると己のいる地点が、人とヒトを分ける境界線に思えて仕方ない。
「うっ」
思わず膝をつき、胃の中の全てをぶちまけそうになる。喉元までかかった生温いものと一緒に自分が感じる今までの常識の差、感情、今までの思い出、その他の余計なものを全て飲み込んだ。
なぜなら、彼女がいるのは、ヴァルナ大帝国郊外のスラム、この世の暗い感情を煮詰めて突っ込んだようなおそらく、世界で最も劣悪で最低な場所だからである。
さらに、彼女は…。
「今日から私も、ここの住人ってことか。」
小さく踏み出した自分の足を見つめてそう呟いた。
彼女の足は、小さくはあるが確かにスラムに足を踏み入れていた。
身綺麗なものなど存在しない、肌は煤で侵され不衛生な環境のせいかあばらが浮き出るほど痩せ細ったもの達が跋扈し、殺し、殺され、奪い、奪われ、人肉さえも糧とし、ただ日々を喰らうヒト達の巣窟。
そこは正しく地獄であった。
落ちる、落ちる正しく地獄から落ちた先の更に向こう。
深く、深く、深淵すら超えた世界の内側で、悪魔が嗤っていた。
背景は赤くどこまでも続くように錯覚される空間。
その中にポツンと、それは在った。
暗く、黒く大きな影である。
それは、この世の全ての悪感情が濃縮された、まさに
【絶対悪】、そう、定義された存在である。
そんな存在が震えている。
世界が揺れる。その力は、破壊の権化と言っても過言ではない。
彼女の動作に耐えうるように設計された封印が、揺れる。
『待ちわびた、待ちわびたぞ!』
彼女は、笑う。
雁字搦めにされた中で唯一動く右腕を伸ばし、涙を流しながら、ただ天の一点を見上げて。
これから何が起こるのかまだ誰も知ることはない。




