夏祭りと君
夏の夜。しとしとと降りつづく雨の音をぶち破ったのは、君からの電話だった。
開口一番、
「かかかかかっ!」
「え、なに?」
「勘違いしないでよねっ」
「……間違い電話? じゃ、切るよ」
「ばかっ」
勘違いじゃない、すぐに君だとわかったよ。
「なに、いきなりどうしたの?」
「だから、勘違い ――」
「してないよ」
「あ……、だ、そんな……」
「なにさ」
勘違いしてます……って言ったほうが良かったんだろうか。
「だからその……」
君はこっちが勘違いをしている前提で話をつづけた。
「別に、あんたに会えないのが悲しくて泣いてんじゃないからねっ」
「泣いてるの?」
「泣いてる……っないわっ」
いや、泣いていた。確実に君は泣いていた。
「あんたよりも、花火がメインなんだから……お祭りは」
ああ、と思った。
ちょっと前に学校で、お祭り行こうって話してたんだ。そのあと特に連絡なかったからその場の思いつきで言っただけかと思っていたんだけど。
「だから別に、中止になったせいで、あんたとお祭り行けないのが残念で泣いてるんじゃないんだからねっ、花火が見られなくて……ってか、泣いてないしっ」
「泣いてるよ」
「ないっ」
「るっ」
「……ぷっ……ふふ……、あっ……、わ、笑ってなんか」
「言ってないよ」
そう言って笑うと、
「なにがおかしいのよっ」
……録音しときゃよかった。
「で、なんで電話してきたの?」
「え?」
「電話してこなきゃ、泣いてるもなにもわからないのに」
「あ……、それは……」
「なぐさめてほしくて?」
「ちが ――」
「僕の声を聴きたくて?」
「ち ――」
「夏祭りなんてどうでもいいから会いに来て ―― とか言いたくって?」
「……」
まさかほんとにそうだったとは。
「違うって」
「わかった」
君の返事は聞こえなかった。
そのとき鳴ったのは、ばあっと開く傘の音。
どや。
(  ̄▽ ̄)