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5 黒幕

 夜も暮れた王宮の執務室。

リアンとアイザックはテーブルに並べられた大量の小瓶を眺めていた。

全て闇商人たちから手に入れたものであり、これだけの数を集めるのにかなりの額を払った。

囮調査は十分だろう。




 偽シスターと接触した2週間後、リアンは闇商人と接触していた。

ミサ終了後に偽シスターを探すような素振りをしていたら、あちらから接触してきたのだ。

全身を黒の装束に身を包んだ、いかにも怪しげな風貌であった。


「そこのお嬢さん。何かお探しですか?」


「ええ。こちらにいらしたシスター様に相談があったのですが。」


「ここのシスターなら遠い地方へ異動になったそうですよ。」


「まあ、そうなんですか。また、『神の薬』を頂けないかと思ったのですが難しそうですね。」


「私も、シスターにはよくして頂いていたので残念です。ですが、『神の薬』であれば私にも伝手があるので手に入れることは可能ですよ。もちろん私も商人ですのでお代はかかってしまいますが。」


「お代はお支払いするので、譲って頂けないでしょうか。」


「もちろんです。それでは3日後、ここへいらしてください。それまでに準備しておきます。」


「分かりました。よろしくお願いします。」


 そんな約束を取り付けて、その日は闇商人と別れた。

そして3日後、闇商人から薬を受け取ったのだ。


 そのようなことを繰り返すこと数回。

闇商人は、事あるごとに薬の値段を釣り上げてきた。

原材料の価格が高騰している、輸入経路が水害で閉ざされている、遠くの伝手を頼む必要があり輸送コストがかかるなど、理由は様々だった。

普通であればここで怪しいと思うのだが、薬で正常な判断力を失っていれば信じてしまうのであろう。

または怪しいと分かっていて尚、薬を欲しているのか。

その両方だろう、というのがアイザックによる見解だ。


 また、囮調査をして分かったことだが闇商人は1人ではなかった。

薬を受け取る闇商人は何人かおり、どの闇商人が現れるかはランダムだった。

おそらくリアン以外にも薬を受け取っている者がおり、闇商人たちは交代で取引を行っているのだろう。


 それが分かった時点でリアンの囮調査に、密偵が同行するようになった。

と言っても、密偵はリアンのことを本当に女性だと思っているようだったが。

アイザックの差し金だ。


 密偵は交渉後の闇商人の後をつけ、その動向を探った。

そうして分かったことが1つ。

全ての闇商人が立ち寄る建物があった。

――ブルック伯爵邸

密偵の報告によると、複数の闇商人や偽シスターたちが出入りするのを確認済みだそうだ。


 その話をアイザックから聞いた時、リアンは衝撃を受けた。

背後に貴族がいるだろうとは聞いてはいたが、想定以上に相手が大きい。


 ブルック伯爵家はエムレーア王国の南西部に領土を持つ伯爵家であり、強力な水のエレメンタル保持者を多く輩出している。

水害の多いエムレーア王国では重宝され、国家への影響力は大きい。

当主オスカー=ブルックも強力な水のエレメンタルの使い手であり、能力を生かして治水局の局長を務めている。

領地の経営は弟に任せ、ほとんど王都で過ごしているそうだ。


 おそらく黒だろう。

だが、一筋縄でどうにかできる相手ではない。

兄上はどうするつもりなんだ。

いきなり押しかけて捕まえられるとは、僕ですら思えない。

捕まえるためには証拠が必要だからだ。


例え、王族権限で伯爵邸を差し押さえたとしても、事前に情報が漏れてしまえば証拠は隠されてしまうだろう。

しかし、今の王位継承争い真最中の不安定な王宮で情報が隠しきれるとは思えない。




「となれば、やることは1つ。第一王子による非公式な訪問を設定し、そこで現場を押さえるしかないね。」

執務室で薬の入った小瓶を手に取り、アイザックは宣言した。


「しかし、いきなりで怪しまれないでしょうか。」


「幸いなことに治水はこの国の王家にとって重要なものなんだ。治水技術について教えてほしいと私から頼めば、あのプライドの高い伯爵なら何とかなるだろう。証拠を処分されない状態で、屋敷に入れてさえしまえば……こちらの勝ちだ。」

リアンには難しいことに思えたが、どうにかできる算段があるのだろう。

ここはアイザックに任せる事にした。


「分かりました。兄上にお任せします。」


「そうだね。ただ、実際に伯爵邸を訪問するのはリアンだ。その段取りについては、理解してもらうよ。」


「兄上の仰せにままに。」


人物紹介

◆オスカー=ブルック(45)

ブルック伯爵家の当主。

治水局の局長を務める。

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