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4.事件は知らない場所で勝手に起きる(4)


あっさりと判決が決まってしまった。



「なんで童貞ってだけで地獄行きになってしまうんだよ!?」



閻魔大王にむかってスズカは吼える。



「理由くらいは説明してやろう。

 この黄泉の世界では成人であることの規定として

 ・亡者が生きていた時代での成人年齢(スズカの生きていた時代だと20才)以上である

 ・異性との性経験がある。

 この二つを満たす者と決めてある。

 そして立花スズカ、お前の場合は性経験が無いとのことで未成年つまりは子供と同じ扱いになってしまっている。」



「30才にもなって子供扱い!?

 しかし、それと地獄行きになる罪とは何の関係がある?」



「立花スズカよ、お前の両親は健在だな?

 それが罪となってしまったのだよ。」



閻魔大王はスズカの名が書かれている人生誌の巻物に再び目を通す。



「今回、お前を送り出すのは賽の河原(さいのかわら)という処地なのだがそこは子供用の場所でな。

 そこに送られる亡者の罪状は両親より先に他界したことによるものなのだよ。」



「それってつまり?」



「子供が親より先に亡くなるという、親不孝者が送られる地獄にお前が当てはまってしまっているということだ。」



「そんな展開ってあり?」



「これが法なのだ。仕方あるまい。」





狭苦しい箱の中で目を覚まし、




美人の鬼に引き連れられ、




ここはあの世と教えられ、




現れたのは閻魔大王、




お前は死んだと告げられて、




童貞だからと地獄行き、




「何にも残せない人生だったな。」



これはきっと逃げ出せない現実なのだ。



心がそれを受け止めたとき自然と声に出た。



そして、じわじわと後悔の念も湧いてきた。



もっと人生って色々とやれるものではなかったのか。



ただ社会の流れにのってゆらゆらと生きるだけの生き方でよかったのか。



漠然としか人生のことなど考えていなかった。



もう少し自身の気持ちに素直に生きていればなぁ。



もっと気持ちいい生き方ができていたんじゃないのかと。



って死んでからじゃ遅いよな。



「もし次があるなら後悔しない生き方を選びたい。」



「その願い叶わぬことはないぞ。」



いつの間にか声に出ていたらしいのだが。



「今、何て?」



「もう一度、人生をやり直す機会があると言っておるのだ。」



「何それどういうこと!もう少し詳しく!プリーズミー!」



鎖をガチャガチャと鳴らしスズカは身体をゆする。



「もともと子供の亡者というのはそれほど罪が重いわけでもなくてな。

 そこそこの年数で転生することができるのだ。」



閻魔大王はスズカの巻物をくるくると巻き戻しならが話しを続ける。



「ただ法にも例外というものがあってな。

 未成年者でも齢30を過ぎたものであれば即転生を受けれるようになっているのだ。

 聖職者でもないのに異性を知らないというものへの憐憫もあるがな。」



「最後の一言はいらなくない?

 でも、もう一度人生をやり直せるというのは悪くないな。」

 


(しかしこの世の中のルールには美味しい話には必ず裏があるという話があるが、)



「ただし、」



(そらきた)



「転生できるのは元の世界とは異なる世界になる。

 即転生させて元の世界に戻るとろくなことにならないからな。」



「それってつまりは異世界転生ってことですか?」



「そういうことだ。

 今までの世界とは歴史や文化がまったく違う世界に行ってもらうことになる。」



閻魔大王は再び手を二度ならす。

また別の巻物が飛んできた。



「ふむ今だと、魔物ひしめく世界で勇者と一緒に魔王を退治する魔法使い職が空いておるな。」



「なんでそんな職業空いてるの?

 もっと安全に生きれる貴族様とかないの?」



(あ、でも英雄的な立場になれるなら悪くないな。

 成功が約束されている人生ってのも楽しいかもしれないし。)



「その異世界では魔法使いという職業がなくてな、転生者のような別の世界から来たものではないとなれない仕組みなのだ。」



(よくわかんないが、そういうルールの世界なのか。)



「それに今なら供を一人つけてやる。

 己だけでいきなり異世界に転生だと心細いだろうからな。」



「なんでそんなに特典もりもり?

 何だが急にやさしくない?」



「こちらとしても早めに転生してもらう方が仕事が減って楽なのだよ。」



「あぁそういう理由ね。

 まぁ地獄で過ごすハメになるよりマシだろうし、転生でよろしくお願いしますよ。」



「よしわかった。

 話が早くて助かる。

 立花スズカを賽の河原送りから異世界への転生と決を改める!」



閻魔大王は木槌をまた振り下ろした。

先ほど打ち鳴らされた絶望を知らせる音とは違い今度は希望を感じる音のように聴こえた。



「後ほど同行者に迎えに行かせる。

 先ほどの部屋でしばし待つがよい。」



大王のその声を最後にスズカを縛り付けていたイスが再び動き出し、元の部屋へと戻って行った。








||||||||||||||||||||||||||||||









いくらなんでも今回の件は予想していなかった。

あの部屋でまさか事件を起こすなんて。

たしかに、あれほどの問題児は今までいなかった。

だが、普通であればこれだけトラブルを起こせばもう少し慎重に行動するものではないだろうか。

生者の人生誌にまで干渉する結果になろうろは思わなんだ。

責任はしっかり取らせよう、せっかくだこちらとしても厄介払いになるだろう。

ただ立花スズカには迷惑をかける結果になるかもしれないが。



「ツグミ!ツグミよ今すぐ来るのだ!」



閻魔大王は一息つくとその遠雷の声を轟かせた。



「は、はい!ただいま参りました!」



ほどなくしてツグミが現れる。

小鬼という種類の鬼人であるツグミの見た目はまさに子供であり、閻魔大王の前に立ってしまうと巨大な存在感だけで姿が見えなくなってしまいそうになる。



「命の灯火の間の掃除はどうだ?

 多少は進んでおるか?」



「あ、えと、、、

 そ、それなりには進んでいますです、はい。」



ツグミは小声でつぶやいたが閻魔大王の地獄耳の前では十分な声量だった。



「そうか。

 命の灯火の間の掃除はもうよい。」



「じゃあ賽の河原の担当に戻ってもいいんですか?」



「いやそういうわけではない。

 ツグミには別の任を与えたいと思う。

 とある者の供に付いて行き異世界でのサポートを任じようと思っている。」



「おっどろいたー

 大王様でも冗談を言うことあるんですねー」



けらけらと笑うツグミだったが閻魔大王の顔は険しくぴくりとも笑わない。



「まさか本気ではないですよね?」



「むろん本気も本気だ!わしは冗談を好まぬ」



「そ、そんなぁー。

 なんでいきなり異世界行きなんかになるですかー」



ツグミは不満を口に出すが閻魔大王の表情は動かない。



「理由が知りたいなら教えてやろう。

 さきほどまで亡者の裁判を行っていたのだが、その亡者の人生誌に興味深い一文があってな。

 どうやらそやつは寿命が尽きたことによる老衰が死因だったのだが、寿命が予定より早くそれも急に尽きたそうなのだ。

 本来ならば寿命は個々人の<命の灯火>によって管理されておるからな。

 それになんらかの干渉がない限りはこんなことは起きん。

 そう、起きんのだが、、、」



ここで閻魔大王の表情がスズカの裁判の際に見せた怒りの形相に変わった。



「だがその人生誌には書いてあったのだ!

 獄卒ツグミにより、<命の灯火>が手折られ寿命が損なわれたとな!」



「あーーえっとーー」



因果応報とはまさにこのことで、こんなバレ方をするとも思わずツグミは二の句が告げない。



「黄泉の世界の者でそれも死神でもない者が現世の人の生き死にに関わる事は禁じてあるにもかかわらず今回の騒動。

 異世界送りくらいになることは当然のこと!

 しかし通常の異世界送りではツグミお前のことだ大した罰にもなるまい。

 そこでお前が干渉してしまった者を異世界転生させるゆえその者に付き従う供としての異世界送りとすることにした。

 自身が奪った時間分くらいはその者のために尽くすがよい。」



閻魔大王の言葉はツグミに反論を許さないという力強さがあった。



(どんな罰を与えられかと思ったけど、異世界送りとは思ってはなかったなぁ。)



まさか獄卒を辞めることになるなんて。

いや別にこの仕事に生きがいや誇りを持っているわけではないので構いはしないのだが、なにせそれしか知らない自分が異世界送りとは。



(あれ?でもこれってお払い箱の厄介払いとかじゃないよね?)



責任を取れせるなどと体のいいことを言ってはいるが、自分なんかを憑けるなんて相手はむしろ迷惑するだろうに。

本人ですらトラブルメーカーである自覚があるのだ間違いなくロクなことにはならない。



「ちなみにどちらの世界に送られるつもりなのですか?」



「うむ、イウロメーツあたりが良いかと思っているが。

 あの世界は200年も人の世が支配されているからなそろそろ魔王を倒す者達が現れても良い頃合だろうからな。」



「あぁたしかにあの世界は人の世が支配されて長いですもんねー。

 でも、200年も世界を支配しているような魔王なんていきなりぽっとでの一般人が倒せるものなんですかねぇ?」



「そこはそれなりに恩恵を与えて転生させてやるゆえ努力するがよい。」



(こりゃダメだ。大王様やっぱり投げやりな感じがするし)



「もし魔王を倒せて異世界転生者に貢献できたと認められたら早めにこちらに戻ることも可能だったりします?」



「ふむ。まぁそれでもかまわん。」



閻魔大王は自身のアゴ髭を撫でながらそれくらいならと容認することにした。



「そうとわかればすぐに行って参ります!

 ちゃちゃっと魔王なんて蹴散らしてきますので!!」



ぺこりと頭を下げたツグミは駆け足で部屋を出て行った。



「あやつ、、、

 自分で魔王を倒すつもりではないだろうな?」



ひときわ大きい鼻息が閻魔大王から漏れ出た。





||||||||||||||||||||||||||||||





ツグミは駆けてく




亡者の供というのはよくわからなかった




ようは魔王を倒せだ良いのだろう




鬼人の自分にかかれば簡単なことだ




魔王という存在もよくわかってはいないのだが




そういえばイウローツという世界のこともよく知らない




これから会う転生者はどういう人物だろう




よくわからないことばかりだ




というよりわからないことしかないような気がする




しかしツグミの足は止まらない




考えるより先に行動に出るのがこの鬼女の特徴




こんな面倒そうな事はさっさと終わらせていつもの場所で昼寝をしよう




転生者が待つという部屋の前、その扉を開ける瞬間




ツグミはほんの一瞬だが躊躇した。




何故?




自分にもわからない。




一呼吸だけあけてみた。




うん。




いける。





扉をいきおいよく開けた





ツグミは声を張り上げる





「さぁ異世界冒険へと参りましょうか!!!」






今だイスに縛り付けられたままのスズカにできた行動はといえばいきなり現れた幼鬼女に驚くことくらいだった。






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