99話 サヨナラ
愚かな人間が何を考えているのか、手を振り私を呼ぶので降り立ってやったら、浜で出会った人間じゃないか!
コイツも人間なので一応クロムについて尋ねてみると、まさかのビンゴだ!
まさか浜であったこの人間がクロムについて知っているとはな。
だがこの人間は何を考えているのか、私を抱きたいとほざいている!
普通人間は魔族と交わる事を嫌がるのだが、鍋なんぞ頭に被っているところから察するに、この人間は相当イカレているのだろう。
こんなイカれた人間に構っている暇などない、さっさと死なぬ程度に痛めつけてクロムについて知っていることを吐かすとするか!
私をモノにできると勘違いした愚かな人間が、浮かれた様子で近づいては私の顔を覗き込んでいる。
確かに人間にしては可愛い顔をしているが、今は男漁りをしている場合じゃないので、現実を教えてやるとするか!
私は楽に殺してやるからクロムについて今すぐ答えろと殺意を込めて人間を睨みつけると、人間は言葉の意味を理解できていないのか、首を傾げて不思議そうに私を見つめている。
その仕草はまるで小動物のようで愛らしいのだが、私たち姉弟の運命がかかっている以上、情けをかける事はできない。
「早く答えろ! でなければ苦痛と絶望を味わうことになるぞ!」
人間は困った様子で眉を曲げて考え込んでいるが、この状況でまともな判断ができんとは、相当お頭が残念なんだろうな。
「お前恥ずかしいのか? それともこれが噂のツンデレというやつか? だとしたら後でちゃんとデレるんだろうな?」
コイツはさっきから何を言っている? それに先程から全身に纏っている魔気を見せつけるようにしているのだが、一切動じていない。
これだから人間という奴は困るんだ。
力の差を理解できないほど軟弱で貧弱な人間らしいといえばらしいが、これ以上は構っていられんな。
「今から貴様に死なぬ程度に痛みと苦痛を与えてくれる。その絶望から解放されたくば、クロムについて知っていることを洗いざらい喋る事だな!」
「俺を騙したのか? 抱かせてくれると約束したではないか! お前はもう俺のモノになると決まったのだぞ、それを今更なかった事になどできる訳がない! 男の純情を弄んだ罪はその体で存分に償ってもらうぞ!」
この人間は何か勘違いをしているのか、地団駄を踏んでは怒り、涙目で睨みつけてきているが、それで威嚇しているつもりか?
まずは一発軽くぶん殴ってやって力の差を教えてやるとするか!
私は怒り狂う性欲の塊のような人間の頬に、右手の甲を素早く振るってやった。
振り放った私の甲は人間の頬に当たることなく空を裂いた……ありえない!
避けた? 私の裏拳を躱したというのか?
貧弱な人間が? というか、奴はどこだ?
確かに今の今まで私の目の前にいたはずの人間の姿が見当たらない!
一瞬にして、忽然と姿を消しただと……どうなっている!
私は首を回し周囲を確認し、人間の姿を探すが見当たらない!
意識を集中させ人間の気配を探ろうとした次の瞬間――!
「っあん……!」
突然のことに不覚にも声が溢れてしまった!
というのも、消えたはずの人間が背後から抱きついては、両胸を鷲掴みにして浮かれた声を上げているんだ。
「尻もモチモチして良かったが、胸の方も堪らんな!」
「は、離せ!」
私は後方へ振り返ると同時に、今度は手加減せずに全力で甲を振るったのに!
またしても空振りだ! それどころか人間の姿がまたしても消えているのだ!
私は悪夢でも見ているのか? なぜ人間如きにこの私が翻弄されている!
そういえば! ミノタウロスは人間にやられたと言っていたが、やったのはコイツか? コイツ以外考えられん!
「ヒヒ、最高だな! 早くお前と一つになりたいなぁ~!」
またしても背後から声が聞こえ振り返ると、人間は数メートル前方で頭の後ろで手を組んでは、いやらしい笑を私に向けている!
人間に見つめられると、私の体はゾクゾクと興奮に身震いを覚えてしまう。
それは決して私がこの人間に恐怖しているからではない、単に私は強い男が好きなんだ!
敵でなければ惚れていたかもしれない、それだけに残念だ!
私はクロムの事を聞き出さなければならないのに、この男と全力でやり合いたいという欲求に逆らえそうにないのだ。
現に私の下半身は興奮を抑えきれず大変なことになっている。
これほど私を興奮させる男に出会ったのは初めてだ!
息が乱れ呼吸が荒くなると、体がカッと熱く火照り出し、私は思わず笑ってしまった。
「はぁはぁ……最高だぁ! お前は最高だぁぁああ! 私をもっと、もっと、もっと激しく感じさせてくれぇぇええ!」
「え? …………そうか、わかったぞ! これはそういう特殊なプレイだったのだな! このような特殊プレイは初めてだったので気づかなかったわ! ヒヒ、テンション上がってきたぞ! いつでもいいぞ、来い!」
何か勘違いしているようだが、気にする事はない!
私は私の欲求を満たす為に……アイツを殺したい!
私は小さくしていた翼を再び肥大化させ、風を巻きを越して羽ばたき、低空飛行で一直線に人間へと襲いかかった。
「私を興奮させたお前が悪いんだぁぁあああ!」
私は鋭い爪を更に鋭く伸ばし、この人間の血を浴びてやろうと目にも止まらぬ突きを放ち、右から左へ、上から下へ肉を引き裂いてやろうと爪を振るうが、当たらない!
掠りもしない! 人間は相変わらず嬉しそうに笑っては紙一重ですべて躱している!
単調な攻撃では当たらないと判断した私は、足技も混ぜながら攻撃を仕掛けるが、すべて寸前で躱されてしまう!
このまま正面から仕掛けても結果は変わらないだろう。
まずはコイツの背後を取らなければ。
私は攻撃をやめ、素早く急上昇し人間と距離をとることにした。
翼を持たぬ人間では上空までは追ってこれないだろう。
人間が油断したところで一気に下降し背後を取ってやる!
瞬刻――
私の体はギョッと強ばる。
なぜなら、上空に来れるはずもない人間が、いるはずのない人間が……私の目の前で不気味な笑を浮かべているのだ!
ありえない! ありえるはずがない!
翼を持たぬはずの人間の背には禍々しいこの世のものとは思えない、邪悪な黒炎の翼を背に生やし羽ばたいているのだ!
驚きのあまり身動きが取れずにいると、人間は私の両手首を掴むと顔を近づけて唇を重ねてきた!
口づけを交わしながら人間の顔を見るが、とても満足そうにしている。
一体何なんだこの人間は?
顔が好みな事もあり嫌ではないのだが……これはチャンスだ!
隙だらけの人間に魔技でトドメを差してやる!
魔技、悪性変異!
私が魔技を発動させると、私の体に纏った魔気から無数の嘆きの人魂が放たれ、口づけに夢中になっている愚かな人間の体に溶け込んでいく。
これでこの人間はもう終わりだ!
サヨナラの意味を込めて私は掴まれていた手を解き、人間の首に手を回して熱い口づけを交わすと、体を密着させたまま顔を離し、微笑みかけて別れを伝える。
「少しもったいない気もするが、サヨナラだよ人間」
人間は状況を理解できずに笑っている。
実に愚かだ。
――次回 100話、緊急事態。
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