98話 幻聴
メルトとの条件をクリアするため、俺はロッジと呼ばれる爺さんが営む案内所で待機している。
爺さんの話だと夜にならないとホルムデヒドはこの街に襲っては来ないだろうとのことだったので、それまでの間この案内所の中で待たせてもらっているのだが、案内所の中は思ったより狭い。
俺は案内所の中にある小さな窓口の椅子に座り、ロッジに貸してもらった手鏡で頭部のキノコをチェックしているところだ。
鍋を被っていた所為もあり、俺のふわふわの髪の毛がぺしゃんこだ!
髪の毛がぺしゃんこなのは別に構わないが……またキノコがデカくなっているではないか!
キノコの大きさを簡単に説明するとしたら、俺の二の腕ほどあるのだ!
二の腕ほどの太さのキノコが頭に生えてあるんだぞ! どこからどう見てもマヌケではないか!
鏡を見るたび眉間にしわを寄せてしまう!
そんな不機嫌な俺と一緒にいるのは嫌だったのか、タコルとメルトは何か食べるものを買いに言ってくると言い残し、逃げるように出て行ってしまったのだ。
当り散らすこともできず暇だ。
外は日が暮れてきたのだが夜と言っても正確な時間がわからないので、あと何時間ここにいなければいけないのだ?
いっそのことこちらから出向いてやってもいいのだが……また鍋を被って出歩くのは気が引ける。
「ぎゃぁぁあああ」
さてどうしたもんかと外を見つめていると、突然断末魔の叫びが響き渡ってきた。
外を見渡してもまだ夕暮れだ、約束の時間ではないはずなのに、街の至る所から叫びは響いてくる。
俺は窓口のテーブルに置いてあった鍋を透かさず被り、街の様子を確認するため外に飛び出した。
俺から遅れること数秒後にはロッジも慌てて飛び出して来て、二人で街を見渡すがこの辺りにはまだ変化はない。
「悲鳴は西の方から聞こえてきているようじゃな!」
ここ案内所があるのは街の東側だ、西側だと反対方向ではないか!
鍋を被ったまま街の反対側まで移動するのは嫌だ!
なのでここに敵が攻め込んで来るまで待つとするか。
そもそもメルトとの約束は島の連中を守るというものではない、ホルムデヒドを倒せばいいだけなんだ。
仮に島の連中が全滅したとしてもメルトが死ななければいいんだ、そうすれば俺は晴れて妖精の都へ行けるんだ。
なのでぼんやりと閑散とした街並みを眺めていると、ロッジが物凄い勢いで案内所の中に戻っていき、ドタバタと騒々しい物音を立てては再び外に飛び出してきおった。
外に飛び出してきたロッジは二本の包丁をハチマキで頭に巻きつけ、手にも二本包丁を所持している!
目が血走り鼻息の荒いアルマジロ爺さんは一体何を考えておるのだ!
「本気になったワシの恐ろしさを見せてくれるわ!」
爺さんはものすごい気迫で包丁を両手に握り締め駆けて行ってしまった。
先ほどミノタウロスにボコボコにされていた爺さんとは思えん迫力だったな!
しかし……。
「あれは……死んだな」
いくらやけ糞になったところで、包丁では勝てんだろう!
これがアーロンが言っていたという戦場で冷静さを失ってはいかんというやつだな!
爺さんが走り去って行って5分位ぼーっと空を眺めていると、コウモリのような漆黒の翼で天を翔ける何かが見える!
目を凝らし見てみると! プリティーなお尻の女ではないか!
確か……ミゼアだったか?
ミゼアはもう水着姿ではなく、ゼセットと呼ばれていた男と同じ軍服に身を包んでいる。
俺は是非とも戦うならプリティーなお尻のあの女がいいと思っていたのだ!
俺はミゼアが俺にちゃんと気づくように大きく両手を振って呼びかけてやる!
「おーい! ここだぞおおおおぉぉ」
俺の声が聞こえたのか、或は大きく手を振った事が功を奏したのか、プリティーなお尻ちゃんは俺の元に一直線に飛んできおる!
ヒヒ、浜辺でランデブーからの戦場ランデブーじゃ!
バサッバサッと元気よく翼をはためかせて地上に舞い降りたお尻ちゃん!
ようこそ至高のランデブー会場へ!
ウキウキしながらお尻ちゃんことミゼアを満面の笑みでガン見すると、ミゼアは不思議そうな顔で俺を見てくる。
「あんた正気かい? 今この島で何が起きているのか理解していないのか? それになんだいその鍋は? 浜辺で会った時はそんな鍋被っていなかったじゃないか!」
やはりこの鍋が気になるのか! クッソこれも全部あのクソキノコの所為だ!
「ちょっと色々あってな、今は鍋を被らないとイケない病にかかっているのだ! あんまり深くは聞いてくれるな」
「そうかい! ところで一つあんたに尋ねたい、クロム=エトワールと言う魔族を知っているか?」
ん? なぜ昔の俺の名を口にするのだ?
「その名は知っているが、それが何だというんだ?」
「ああ、聞き方が悪かったね。クロム=エトワールが現在どこにいるか知っているか?」
は? その名の俺はとっくに死んだことになっているだろう?
しかし、待てよ! いい事思いついちゃった!
「知っているが、教えて欲しかったら今晩俺と寝る事だな! ベッドの中で教えてやる!」
ベッドの中で教えてやると言ったら、ミゼアはカッと瞳を開いて嬉しそうに笑っている。
そんなに俺に抱かれるのが嬉しいのか!
そうか! わかったぞ!
浜辺で最初に会った時から薄々感じてはいたが……コイツ!
俺に一目惚れしたな!
ヒヒ、モテる男の罪というやつだな!
俺たちは運命という名の砂浜で出会い、導かれるようにここで今見つめ合って笑ってるのだ!
「そうか……それは良かった。クロムは生きているのだな!」
おお! めちゃくちゃ喜んでいるぞ!
今晩と言わず今すぐそこの案内所で事を済ますか!
「ではそこの案内所で優しく抱いてやろう!」
「ああ……」
嬉しくなってスキップでミゼアに近づくと、ミゼアは俯いておる。
きっと照れておるのだな! 意外とうぶなのだな!
ギャップ萌え堪らん!
ミゼアの正面まで近づくと、ミゼアは顔を上げて謎の一言を口にしている。
「楽に殺してやるから今すぐ答えろ人間!」
ん? 幻聴か?
幻聴が聞こえてきたと思ったら、ミゼアが悪意に満ちた顔で微笑み、絶望のような魔気を身に纏っている!
「…………っえ? どういうこと?」
――次回 99話、サヨナラ。
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