96話 ノルマ
イタズラをして瀕死の重傷を負ったキノコは、ポーションを飲みゆっくりと目を開くと、抱きかかえられていたタコルの腕から起き上がり、俺に礼を言うことなく慌てて駆け出した。
キノコが駆け出した先にはこの街に来てすぐに目撃した、杖を突いた魔族と言い争いをしていた爺さんがいる。
爺さんも先程までのキノコ同様かなりの重傷のようだ。
キノコはすぐに住民からポーションを受け取り、アルマジロ爺さんにゆっくりとポーションを飲ませている。
なぜ爺さんまでも痛めつけられていたんだ? キノコが痛めつけられるのは当然の報いだが、この爺さんも何かイタズラをしたのか?
そんな事はないだろう……多分。
じっとキノコと爺さんを見ていると、調子のいいタコが悪びれた様子なく話しかけてきおる。
「やっぱお前めちゃくちゃ強いな! いや、ホント助かったよ」
「何が助かっただこのタコ野郎! お前たちの所為で俺はとんでもなく恥をかいたのだぞ!」
「で、でもその鍋帽子……ぷっ、に、似合ってるぞ」
――ゴーン!
思いっきりゲンコツをくれてやった。
「っいてぇな何すんだ! 殴ることないだろ!」
「お前が笑うからだ! 誰のせいでこうなったと思っているんだ!」
「オイラがやったんじゃないやい。メルトがやったんだろ!」
「同罪だ!」
俺とタコルが言い争いをしていると、牛に叱られ反省したのかしょんぼりしたメルトと、ポーションを飲み傷が癒えた爺さんが話しかけてきた。
「危ないところを助けていただきなんと礼を言えばいいか」
「さっぎは悪がったな。キノコはあと数時間もすれば自然と取れるから我慢してぐれ!」
数時間だと! あと数時間も鍋を被り続けねばいかんのか?
「取れんのなら仕方ないが、代わりに妖精の都へ連れて行くのだ! いいな!」
メルトは俯き黙っている。この期に及んでまだ俺を妖精の都へ連れていかんと言う気じゃないだろうな!
礼には礼で尽くすのが礼儀であろう! もし断れば……その時は。
「一つ条件があんだ!」
条件だとこの野郎! 条件なんて言える立場か?
しかし、冷静になって考えればコイツがいなければ妖精の都へは行けんのだ。
「条件とはなんだ? 簡単なのにしろよ!」
黙り込んだメルトの様子から察するに、簡単な条件ではないということか?
「いいからさっさと申してみよ」
なぜか爺さんと顔を見合わせておるが、条件とやらに爺さんも関係あるのか?
すると爺さんが話に割り込んできおる。
「この島には現在、ホルムデヒドと言う魔族がやってきておるんじゃが、奴はこの島の者を配下に加えようとしておるんじゃ。だが、この島の者は争い事が嫌いな者が集まりできた島じゃ――」
つまり爺さんの話はこういうことだ。
魔王クルセはここ数百年、魔王ネルネと互の領土についてにらみ合いを続けていたが、クルセは現七大魔王の中で一番の新参者だという事もあり、領土が小さいのだという。
そこで魔王クルセは兵を集め、魔王ネルネの領土を奪い取るという強行手段に出ようとしているらしい。
そんな事情でクルセの部下には兵を集めるノルマが課せられたのだという。
手っ取り早くノルマをクリアする為に、ホルムデヒドという魔族はこの島に住むすべての者を自分の配下にしようとしたのだが、この島の村長的存在のこの爺さんに話をしたら、見事に断られてしまったというわけだ。
そこで先ほどの牛に爺さんを始末させて、島の住人を脅し力ずくで従わせようとしていたらしい。
メルトは叱られていたのではなかったのか。
それにネルネって!
クルセとか言う奴がどの程度の実力者かは知らんが、まず間違いなく頭数を揃えたくらいではアイツには勝てはしない!
魔王になって気が大きくなったのか、喧嘩を売る相手を完全に間違えておるな。
まぁ今はネルネの事はいいとして、ホルムデヒドは今日の日暮れまでに島の者たちが配下にならなければ、この街の者たちを皆殺しにすると言っているらしい。
そこで牛を軽々と倒した俺にホルムデヒドを退治して欲しいと言っているのだが、できれば関わりたくないというのが本音だ。
もしもここでホルムデヒドを倒せば、高確率でクルセとかいう奴に目を付けられることになる、そうなれば面倒事に巻き込まれるかもしれんのだが、断れば妖精の都へ連れて行ってもらえないかもしれない。
妖精の都へは別の行き方があるのかもしれんが、それを探している時間はない。
目先の妖精の都を取れば後に面倒事に巻き込まれるかもしれんが、後の面倒事を避けて別の手を探していれば手遅れになりかねない。
今は確実な目先の妖精の都を取るべきだな。
俺はメルトと爺さんに協力することを伝えると同時に、メルトに必ず俺を妖精の都へ連れて行くことを約束させた。
「感謝いたします」
「わがっだ! この件が片付けばお前を妖精の都へ連れて行ってやる」
しかし、俺がホルムデヒドを倒したらこの島は更にクルセに狙われるんじゃないのか?
まぁ、後の事は俺には関係ないか。
俺たちの会話を聞いていたタコルが突然大声を上げて騒いでいる。
「おい、ミノタウロスの野郎がいなくなってるぞ!」
すぐに牛が倒れ込んでいた辺に顔を向けるが、タコルの言う通り牛の姿が消えている。
間違いなくホルムデヒドの元に報告に行ったのだろうな。
でも待てよ! ホルムデヒドと戦うということは……プリティーな尻の女、確かミゼアと呼ばれていたか。
あの女とも戦うということか?
ヒヒ、悪くないな!
――次回 97話、すべきこと。
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