95話 ボディ
頭に鍋を被った俺はイカレ野郎だと思われないために、できるだけ住人の目を避けながら移動をしていると、多くの者が集まり何かを見物している。
建物の壁からひょっこり顔を出し見てみると、2メートル程のミノタウロスがクソキノコを踏んずけている。
身動きの取れないクソキノコはかなり弱っているのかぐったりしている。
だが、ミノタウロスをよく見てみると納得がいった。
クソキノコを踏みつけているミノタウロスの頭部にはみっともない立派なキノコが生えているのだ。
あのクソキノコはイタズラをしてミノタウロスを怒らせたのだろうな。
当然だな、誰だってあんなみっともない姿にされれば怒って当然だ。
お陰で捕まえる手間が省けた!
クソキノコを踏みつけるミノタウロスの近くには、住民に混じってクソタコの姿もある!
ミノタウロスは甘い! クソキノコだけではなくクソタコも同罪ではないか!
よし、この屈辱を分かち合うミノタウロスに加勢してやるか!
俺はクソタコに悟られ逃げられぬように気配を押し殺し、そっと背後から歩み寄って行く。
クソタコの真後ろに立ち俺の影がクソタコを覆った時、ようやく俺の存在に気づいたタコが振り返り目が合った。
見上げるタコを見下ろすと、タコは死者でも見たかのように青ざめて馬鹿みたいに大口を開けておる。
今さら謝ったところでもう遅い、鍋を被らされた屈辱と、この島の住人に哀れみの目を向けられ続けた俺の怒りは噴火寸前の火山なのだから。
今にも爆発しそうな俺は怒り狂った狂気の眼でタコを一睨し続けてやる。
タコは一歩二歩と後ずさり、今更言い訳を並べておる。
「ま、待ってくれ! 今はお前と揉めている場合じゃないんだ! 見ればわかるだろ? メルトが大変なんだよ!」
俺は後ずさりするタコを追い詰めるように、ドシ、ドシと一歩ずつ大地を踏みしめてはタコに迫ってやる。
「何が大変だ! あのミノタウロスを見ろ!」
タコの後方で相変わらずクソキノコを踏みつける哀れなミノタウロスを指差し、あの牛が怒るのも当然だという事を教えてくれる。
「頭からキノコを生やしたあの姿は、ただの馬鹿ではないか! 叱られるのも当然だ!」
「ちょっ! お前何か勘違いしてないか? 一旦落ち着けよな、なぁ!」
タコをじわりじわりと追い詰めていると、俺に指を指されたミノタウロスが何故か俺に文句を言っている!
「おい貴様! 誰が馬鹿だ! 人間の分際で俺を愚弄するとは万死に値する!」
タコを追い詰めていた俺はピタリと足を止め、キノコ牛に目を向けると、なぜかキノコ牛は俺に敵意を向けている。
なぜ俺に敵意を向けるのだ? 俺とお前は同じ境遇の被害者ではないか!
だが、それを差し引いたとしても、このキノコ牛の態度は気に食わん!
この俺に殺気を込めた敵意を向けてくるとは、なんたる無礼!
「なんだその態度は? いっちょ前に睨みなんぞ利かせやがって! 鍋を頭から被ったイカレ人間が! 貴様から罰を与えてやろうか?」
ゆ、許せん! 人には触れていい事とダメな事があるのだぞ!
誰も好き好んで鍋なんぞ被っておらんわ!
「よかろう! 二匹を懲らしめる前にまずは貴様で憂さ晴らしをしてやろう!」
「ガハハハ! 非力な人間の分際で図に乗った事を後悔させてくれるわ!」
キノコ牛は踏んずけていたクソキノコから足を退けると、這い蹲るクソキノコを蹴り飛ばした。
クソキノコの小さな体は軽々と宙に舞い上がり、飛ぶ力も残っていなかったのか、重力に逆らえず地面へと激しく叩きつけられた。
微かな呻き声を上げるクソキノコの元へ涙目のタコが駆け寄り、触手でクソキノコの体を抱き上げては声を掛けている。
「しっかりしろメルト!」
あのキノコ大丈夫か? 少々やりすぎなのではないか?
あのキノコが死んでしまったら妖精の都に行けなくなるではないか。
とっととキノコ牛に鉄拳制裁を加えてキノコにポーションでも飲ますか。
この街にもポーションくらい売っているだろう。
俺はイキがるキノコ牛に手を伸ばし、クイックイッと指を曲げかかってくるように指示を出す。
「そんなに死に急ぎたいか人間!」
「御託はいい。さっさと来い!」
牛は武器などは持っておらず、顔の周辺で拳を握り締め突っ込んでくると同時に、鋭い右ストレートを放ってきたが、俺は最小限の動きで牛の拳を躱し、忠告してやる。
「おい、ボディがガラ空きだぞ!」
牛に忠告すると透かさず腹部に強烈な右フックをねじ込み、鈍い音を立てた牛の体は膝から崩れ落ち、胃液と血を垂れ流しては悶絶している。
無理もない、手加減してやったが内臓は破裂しておるだろうから、これ以上の戦闘は不可能だろうな!
俺が牛を一撃で仕留めると、何故か牛の周囲を取り囲むように集まっていた住人たちが歓喜を上げている。
「すげー! 何なんだあの人間!」
「頭に鍋を被った変な奴だけど、めちゃくちゃ強いぞ!」
「いいぞー人間!」
「スカっとしたぜ!」
なぜコイツ等はこんなに嬉しそうなんだ?
イタズラをしたキノコが叱られているのを見ていただけじゃなかったのか?
っあ! そうだ! キノコだ!
俺はタコルに抱きかかえられたキノコに駆け寄ったが、流石にこれ以上痛めつける気にはならんな。
死なれたら困るしな。
そこで俺は街の連中にポーションを持っている者はいないか声をかけ、住人からポーションを受け取りキノコに飲ませてやった。
――次回 96話、ノルマ。
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