94話 最近ついてない
俺は一度キノコハウスに戻り、鏡の前で頭部に生えたキノコを力一杯引っ張ってみた。
「っ痛!」
ダメだ! 完全に頭部の皮膚と同化している!
このまま力ずくで引っこ抜いたら、髪も一緒に引っこ抜き天辺だけ禿げてしまう!
それは絶対ダメだ!
もし天辺が禿げた状態で帰ったら、アリアにもリリアーナにもシスにも兵団のみんなにも笑われてしまう!
絶対に嫌だ!
人間に生まれ変わり18年と数ヶ月……最大のピンチだ!
まさかこのような技で窮地に立たされるとは、考えもしなかった!
とにかくあのクソタコとクソキノコをとっ捕まえねば!
しかし、このままでは街に行けん!
何か頭を隠すモノが必要だ!
俺は部屋中をひっくり返し、何か頭を隠せそうなモノを探すが何もない。
いや……正確には帽子があったのだが、小さすぎて入らん!
無理やり被ってみたが……キノコが邪魔して頭がやたらと長く伸びたようになってしまうのだ。
更にみっともなくなるではないか。
他に何かないかと台所に行き、戸棚を片っ端から開けて探すと、鍋がひとつあったのだが……これを頭に被るのか?
試しに鏡の前で鍋を被り確認してみる。
酷く滑稽だ! なんと情けない姿。
しかし、アホみたいに頭からキノコを生やしたマヌケズラよりは、幾分ましな気もしなくはない。
とにかく逃亡したあの二匹を捕まえねば!
例えどこに逃げようと、地の果てまで追いかけてやるからな!
意を決してキノコハウスから出て森を抜け、街に来たのだが……見られておる!
無理もない、なにせ頭に鍋を被った人間が街を歩いているのだ。
そりゃ目を疑い二度見したくもなる。
しかし、少しでも笑ってみろ!
鉄拳制裁をしてくれる!
皆笑わんのは意外と似合っているからか?
「ママあの人間なんで頭にお鍋なんて被っているの?」
「見ちゃいけません! 人間は心が弱いからたまに壊れたりするのよ」
通り過ぎる魔物の親子が俺を頭のおかしな奴だと思っているようだ。
くそったれぇぇえええ!
どいつもこいつもピクリとも笑わんのは俺をイカレ野郎だと思っているからか!
もちろん笑ったら笑ったで制裁を加えてやるが、哀れみの目で俺を見るコイツ等は腹ただしいわ!
これもすべてクソキノコの所為だ!
できるだけ街の者たちの視線を避けながら移動し、二匹の愚か者を探しているのがだ、中々見つからん!
建物の影に隠れるように移動し、建物の影から様子を伺う俺はただの不審者ではないか!
この屈辱忘れはせんぞ!
◆
オイラ達は間抜けなアルトロが鏡を見ている隙に家を飛び出し、街に来ていた。
見た目ばかり気にするアイツはきっと家から出られないはずだ。
アイツが頭を冷やした頃合いを見計らって帰り、謝れば許してくれるだろう。
それまでの間オイラは久しぶりにメルトと遊ぶんだ!
なんて考えながら街をふらついていると、何やら街の中央の案内所辺りが騒がしい。
一体どうしたのだろうと近づいて行くと、先ほど魔族と揉めていたアルマジロの爺さんが筋肉質なミノタウロスに首を掴み上げられたている。
爺さんの顔は殴られて痛めつけられたのか、顔から血を垂れ流している。
街の連中はそんな爺さんを助けようとはせず、遠目から怯えたように様子を伺っているだけだ。
「ロッジのじっちゃん!」
オイラの隣でその光景を目にしたメルトは駆け出し、爺さんの元に走って行ってしまった。
「おい、何しでんだ! ロッジを離せ!」
ミノタウロスはメルトに一瞬目を向けたが相手にする事なく、街の連中を睥睨し威嚇している。
「よく聞けムルセの住人たちよ! これよりここにいる全ての者は、魔王クルセ様の忠実なる部下となるのだ! 直に魔王クルセ様と、時代遅れの魔王ネルネとの大戦が繰り広げられる! お前たちは光栄にも魔王軍の戦士となるのだ!」
「何言っでんだ! ムルセの住人は争いを好まないんだ、戦争なら他所で勝手にやっでくれ! それとロッジを離せ!」
「この愚か者はホルムデヒド様の誘いを断った大罪者だ! 罰を与える必要がある! それに、貴様らへの見せしめにもなるだろう」
なんてこった! とんでもなくやばい時にムルセに来ちゃったじゃないか!
最近オイラとことんついてないな!
それにメルトの奴は何考えてんだ! あんなヤバそうな奴に突っかかるなんて自殺行為だぞ!
「んなことはさせねぇぞ! 俺っちが相手だ」
ばか! 何考えてんだよ!
敵う訳ないだろ!
メルトは手にしていたピコピコハンマーでミノタウロスに飛びかかったが、メルトのハンマーは攻撃力なんて皆無だ。
現にピコピコハンマーで頭部を殴られたミノタウロスは、キノコが生えただけだ。
「なんだこれ? 取れない!」
ミノタウロスは爺さんを投げ捨てて、頭に生えたキノコを引っこ抜こうとしているが、それ時間が経たないと取れないんだよ!
アルトロ同様、侮辱されたと思ったミノタウロスがめちゃくちゃ怒っているじゃないか!
メルトはミノタウロスに殴られ蹴られ、あっという間にボロボロにされてしまった。
メルトはミノタウロスに踏みつけられ、身動きが取れない状態だ!
このままだと確実にメルトは殺されちゃうよ!
だけどオイラが助けに出たところで、どうする事もできないよ!
オイラには戦闘力がないんだ、唯一できる事は相手を待ち伏せて蛸壺迷宮に閉じ込めることだけだ。
だけど、今そんな事をしたってまるで意味がない。
縋る様に街の連中に目をやるが、見てるだけで誰も助けようとはしない。
こうなったらイチかバチか、アイツを巻き込んでやる!
「おい、その足をどけろ! オイラの友達には元七大魔王クロム=エトワールがいるんだぞ! オイラたちをいじめるとクロムが怒るんだぞ!」
オイラを見て、キョトンとした顔をしたミノタウロスが、バカにしたように大笑いをしてやがる。
無理もないか……クロム=エトワールはもう1000年も前に死んでいると云われているんだ。
「嘘をつくならもう少しマシな嘘をつくんだな! 貴様も罰を受けたいのか?」
恐怖で後ずさりしてしまうが、友達を見捨てる訳にはいかない!
だけど……怖いよ。
泣きそうになったオイラの背後から影が覆いかぶさり、後ろを振り返ると……鍋を頭に被った鬼がいた。
オイラはどっちに殺されるんだろう?
本当に最近ついていない……な。
――次回 95話、ボディ。
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