93話 胞子
俺の事を無視して盛り上がる二匹に咳払いをして意識をこちらに向けさせる。
「んだコイツは? 人間じゃねぇが! なんで人間がこんな所にいんだ!」
「コイツはオイラの友達でアルトロって言うんだ! どうしてもメルトを紹介して欲しいって頼まれて連れてきたんだけど……やっぱり人間は嫌いなのか?」
メルトとか言うガキが目を細め俺を睨みつけてきやがる!
タコルの口ぶりからして、相当人間が嫌いなようだな!
「本当は人間なんが家に入れたぐないが、特別に入れでやる。タコルに感謝すんだな!」
「聞いたか! ちゃんとオイラに感謝するんだぞ、お前馬鹿なんだから!」
なんだこのキノコの妖怪とハゲタコの態度は、俺になんたる無礼な物言いだ!
文句を言ってやろうと思ったが、キノコの妖怪の機嫌を損ねたら妖精の都へのゲートとやらを開けて貰えんかもしれん、いじめるのは後にするか。
タコルとメルトの後に続き、前屈みになりながら小さなドアをくぐり、キノコハウスへと入ったのだが、狭い上に家の中までキノコだらけだ!
キノコのテーブルにキノコの椅子、タコルが椅子に座ったのを見て俺もキノコの椅子に腰を下ろすが、座った瞬間にキノコ椅子から胞子が舞い散り、酷く不愉快な気分にさせてくれる。
「ほらよ」
キノコ模様の趣味の悪いマグカップをテーブルに叩きつけるように置くと、椅子に腰掛けたメルトがじっと俺を睨みつけてくる。
一体この俺が何をしたというのだ、不愉快極まりないわ!
「そんで、この人間に俺っちを紹介してどうすんだ?」
「コイツ妖精の都に行きたいらしいんだよ」
「そりゃダメだ! 妖精の都は神聖な場所だ、こんな人間連れてなんで行げない!」
なんだと! ここまで来てやって連れて行けないなんてふざけるなよ!
最悪力ずくでもゲートとやらを開けさせてやるぞ!
「そっか、残念だったな。久々にメルトに会えたことだし、じゃあ帰るか」
タコが席を立ち上がると、俺はタコが死なぬ程度に拳を振り下ろしてやった。
「っ痛!」
「言っておくがタコル、お前は俺を妖精の都まで案内すると約束したんだ、俺が妖精の都に行けなければお前は一生深海には帰れないと思っておけ!」
「はぁ? なんだよその無茶苦茶な話は! そんなのが通用すると思うなよ!」
俺とタコルの会話を聞いていたメルトが今まで以上に眉間にシワを作り、俺に敵意を向けてきおった!
「タコル! ひょっとしてこの人間に脅されているのが? これだがら人間は信用でぎねぇんだ! でも安心しろ、2対1なら俺っちたちの方が有利だ!」
「メルト!」
タコルは席を離れメルトの横に並び立ち、どうやら俺とやり合うようだな。
タコルは仲間がいる事で気が大きくなってしまったのだろう。
瞳を輝かせ俺に勝つ気満々でいやがる、哀れなタコだ!
「よかろう! その哀れな思考を今一度正してくれるわ! どこからでも来るがいい!」
「ちょっと待っでろよ! タンマだがんな。」
メルトは慌てて台所に入り、掛けていたヤカンの火を止め、2階に駆け上がってはドタドタと物音を立てながら戻ってきた。
再びタコルの横に並び立つメルトの手には、ふざけているのかピコピコハンマーが握られている。
「おい、ひょっとしてそれで戦うつもりではなかろうな?」
「あはは、見ろタコル! この人間俺っちにビビってるだ!」
「オイラこいつには色々されたから恨みが溜まってるんだ! 死なない程度に痛めつけてやるぞ!」
こいつ等正気か? それともこの俺を舐めているんじゃなかろうな!
「隙ぎ有りだ!」
メルトは飛び跳ね手にしていたピコピコハンマーを俺の頭部に振り下ろしてきたが、避けるまでもないのでわざと食らってやる。
俺の頭部にピコピコハンマーが直撃すると、ふざけた音を鳴らしたハンマーから胞子が噴出した。
なんだこれは? 痛くも痒くもないが、実に不愉快だ!
俺は腕を組み一撃を入れて喜んでいるメルトとタコルを一睨した。
「舐めとるのかお前ら?」
「お前の頭をよく見てみろ!」
メルトが俺の頭を指差し笑い、それを見てタコルも笑っている。
俺は頭に手をやると、何やら頭に突起物があるのが分かり、俺は壁に掛けられていた鏡で頭部を確認した。
鏡で頭を確認した俺はフツフツと怒りが込み上げてくる。
なぜなら俺の頭部からはキノコが生えているのだ。
これでは俺がバカみたいではないか!
許さん! 断じて許さん!
俺は瞬間移動したかの如く速さで二匹の背後に回り込み、ゲンコツをお見舞いし、二匹を懲らしめてやった。
二匹は顔がパンパンに膨れ上がり、項垂れるように床に座り込んではキノコ椅子にどっしりと座る俺を見上げている。
「悪魔みだいな人間だな」
「巻き込んじゃって悪いなメルト」
「おい、コソコソと話をする暇があったら、俺のこの頭に生えたみっともないキノコを何とかしろ! カッコ悪くて女にモテんだろうが!」
「キノコの所為にしてるけど、元々コイツ全くモテないんだぞ。ついさっきだって女に全く相手にされてなかったんだ」
「意外とかわいそうな奴だな」
「聞こえとるぞ! それより早くキノコを除去しろ! みっともなくて外を歩けんだろう!」
「時間が経ったら自然と取れるようになっでんだ。あんま気にすんな」
「今すぐ取れよ!」
「取れねぇで言ってんだろ!」
取れないだと! ふざけるなよ!
俺は立ち上がり壁に掛けられていた鏡を手に取り、もう一度頭部を確認すると、キノコは先ほどより一回り成長している!
更にみっともないではないか!
怒りで震えそうになる体をグッと堪えて、二匹に目を向けると……二匹の姿がない!
部屋を見渡すと閉まっていたはずのドアが開いている。
逃げやがったなぁああ!
クソガキがぁああ!
俺は怒りのままにキノコハウスを飛び出し辺を見渡すが、二匹の姿はもうない。
きっと街に逃げたのだろう。
すぐに追いかけようとしたが、頭にキノコを生やしたみっともない姿で、女たちがいる街に繰り出すのか?
ダメだ! 恥をかいてしまう。
そうでなくても人間というだけで目立つのに、こんなモノを頭から生やしていたら笑われるに決まっている!
何か対策を取らねば!
――次回 94話、最近ついてない。
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