92話 キノコ
俺は優しく背に手を置き、ゆっくりといやらしく撫で回すようにスベスベのお肌にオイルを塗りこんでいく!
モチモチとしたキメの細かい肌が俺の手に張り付いては、吸盤のように手に吸着してきおる。
しかし、この女の背に刻印が刻まれておるのだが……これは束印ではないか?
「どこの誰か知らんが上手いじゃないか!」
「そ、そうであろう! き、均等に塗る為に尻の方も塗って行くぞ!」
「ああ、頼む」
ひゃっほーい! お許しお頂いたので、遠慮なく尻をモミモミと揉みしだきながらオイルを塗りこんでいく!
柔らかく弾力のあるプリティーなお尻はまさに俺好みだ!
夢中になって尻から脚へなぞるように手を滑らせていると、影が覆いかぶさってきた。
ん? 誰だ? 寝そべる女の正面に、女と同じ薄桃色の髪をした男が女を見下ろし立っている。
襟足は闇のように黒く、冷え切った目をした男は軍服に身を包んでいる。
「ミゼア、ホルムデヒドが呼んでいる。そろそろ行くぞ」
「はぁ~、仕方ないね。」
女は立ち上がり俺に顔を向け、礼を言って男と去っていってしまった。
これからがいいところだったのに……。
跪き呆然とする俺に、生臭い潮風が虚しく吹いている。
そんな俺の虚しさなど知らにぬタコが、少しイラついた口調で文句を垂れている。
「メルトの所に行かないならオイラはもう帰るぞ!」
横目にタコルを見て、俺は力なく溜息を吐き立ち上がった。
「ではそろそろ行くとするか。案内せい」
「なんか随分と元気なくなったなお前」
一番楽しいところでお預けを食らったのだ、元気もなくなるわ。
俺はタコルの案内で浜辺から森林を抜け、島の中央にある小さな街にやって来た。
街の中はやはり様々な種族が行き交っているが、人間の姿はないようだ。
この島はどうやら人間種以外が共に暮らす島のようだ。
だから、人間である俺が珍しいのか、通りすがる者が時折こちらに目を向けてきている。
その視線に敵意は一切感じられず、ただ物珍しさに見ているだけのようだ。
島の街というだけあり、木材を基本とした建物が多く、自然との調和を考えた街づくりになっているのだろう。
「お前の友達のメルトとか言う奴はどこにいるのだ?」
「街の反対側の森に住んでいるよ」
街があるのにわざわざ森に住んでるとは、けったいな奴だな。
メルトとか言う奴が住んでいる森に向かう為、足早に街を移動していたのだが、何やら年老いた怒鳴り声が聞こえてきた。
「帰ってくれ! ここムルセは争いを好まん者達が集まり築かれた街じゃ! 何があってもこの街の者は争いに手を貸す事はない!」
「いいでしょう。その代わり後悔する事になりますよ!」
「脅しても無駄じゃ! 帰ってくれ!」
島の案内所と書かれた建物の前で、アルマジロ風の腰の曲がった魔物が嫌味な黄金の杖を突いた、毛皮の羽織に身を包んだ青白い肌をした魔族と何か揉めているようだ。
杖を突いた男の背後には先程のプリティーな尻をした女と、女を呼びに来た男の姿もある。
男が言っていたホルムデヒドとは、恐らくあのいけ好かない魔族の事だろう。
関わるとめんどくさそうなので、知らん振りをして男たちの横を通り過ぎた。
タコルも俺と同じ気持ちだったのか、男たちの方を一切見ようともせず、早足に立ち去ろうとしている。
「あんまりジロジロ見ない方がいいぞ!」
「なんでだ?」
「あの男の持っていた杖に、クルセ=クレリバの紋様が刻まれていた!」
「クルセ=クレリバ? 誰だそれ?」
タコルは俺の前方を歩きながら深く嘆息しては、呆れたように口にする。
「変な嘘ついた癖にそんな事も知らないのかよ! クルセ=クレリバは現七大魔王の一人だ! あの杖を突いた連中は間違いなく、魔王クルセの部下だ! 関わんない方が身のためだ!」
ほぉ~、俺が転生を完了するまでの1000年の間に新たな魔王が誕生していたのか。
ではもうあのアホ共はおらんのか?
それともクルセとか言う新参者が俺の後釜に就いたのか?
まぁ、どっちでもいいか。もう俺には関係ない事だしな。
タコルの案内で街を抜け、森へと入りしばらく歩くと小さな泉が見えてきた。
泉の周辺は木々が覆い陽の光を遮り少し薄暗い。
薄暗い水辺には光虫が飛び回り幻想的な風景を演出している。
水辺に寄り添うように巨大なキノコが聳え立ち、キノコには木のドアと窓が取り付けられている。
メルヘンで悪趣味なキノコハウスの所為で、せっかくの幻想的空間が台無しだな。
タコルの友人はあのキノコハウスに住んでいるのか?
まぁ、所詮はタコルの友達だ、あんな家に住んでいるくらいだから、きっと変な奴に違いない。
巨大キノコのドアの前に立ち、タコルがドアをノックすると、中から身長1メートルもなさそうなガキが出てきおった。
耳の付いたけったいな帽子をかぶり、上下キノコ柄の白と赤のセットアップを着込み、背中に半透明の四枚羽を生やした悪趣味の塊のような奴だ。
その悪趣味なガキはドアを開けると同時に、タコルを見るや否や瞳を輝かせタコルに抱きついている。
「タコルじゃねーが! どしたんだ急に! だけども俺っちタコルに会えで嬉しいだ!」
「オイラもメルトに会えて嬉しいよ!」
な、何なんだこの奇妙な生き物二匹は!?
気持ち悪いわ! お前らの再会などどうでもいいから、早く俺を妖精の都へ連れて行くのだ!
――次回 93話、胞子。
この作品を少しでも気に入ってくださったら、下の評価ボタンをポチっと押して頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。m(__)m




