90話 アドバイス
俺の横を歩くこのタコは、今なんと言った?
あそこには何もない……確かにそう言いよった!
「タコルよ、お前は妖精の都へ行った事があるのか?」
「一度だけ友達に連れて行ってもらった事があるんだよ。っあ、オイラこっちだからじゃあな」
タコルが去ろうと背を向けた時、俺は逃がさぬように初めてあった日と同じように、左手でタコルの頭を掴み上げた。
「な、何すんだよ!」
「案内せい! 妖精の都とやらまで俺を連れて行くのだ!」
「は? 何言ってんだよ! 嫌に決まってんだろ! オイラは深海に帰るんだから離せよ!」
「友達ではないか」
「都合のいい時だけ友達ヅラしてんじゃねぇーよ! 一人で行けよ!」
「では一度タリスタンに戻り、脱走したタコを友達のポルドに届けに行くか!」
「ちょっ! おま……。友達を売る気かよ!」
「都合のいい時だけ友達ヅラしてんじゃねぇーよ、だったか?」
「…………」
俺は掴んでいたタコの顔をじーっと見つめると、タコは目を逸らし吹けもしない口笛を吹いている。
「本気だからな! 次は脱走できぬよう、8本の触手に鎖を付けるアドバイスをしてやるかの!」
「お、お前本当に性格悪いな!」
「タコにいい顔しても仕方あるまい。で、どうするのだ?」
「あ、あの太っちょのところには帰りたくないよ!」
「では案内せい!」
「でも、オイラ妖精の都への行き方なんてしらないぞ!」
はぁぁあああ!? コイツ行った事あると言ったではないか!
何を今更トボけとるのだ!
「嘘をつくな! 行った事あるのであろう!」
「だから友達に連れて行ってもらったて言っただろ! オイラは魚人族だ、妖精の都へのゲートは開けられないに決まっているだろ! そんな事も知らないのかよ!」
妖精の都へは特殊な行き方でしか行けないという事か?
だとすれば、スノーの父が探し出せなかったのも納得がいくな。
「ではその友達とやらに会いに行くぞ! どこにおるのだ?」
「マジで行くのかよ! セスタリカじゃないから遠いぞ! 歩いていけば何ヶ月も掛かるんだぞ?」
「飛んで行くから問題ない!」
「飛んでくって! お前羽なんかないだろう? 飛空艇でも手に入れるのか?」
俺は背中に少し意識を集中させ、肩甲骨から黒く燃え盛る黒炎の翼を生やし、豪っという音と共に上空へと舞い上がった。
「いやぁあああああ!」
俺に頭を掴まれていたタコルは、突然地上が遠ざかり、雲を突き抜け高度数千メートル上空に達するまでの数秒間、実に楽しそうにはしゃいでおる。
このタコを楽しませる為に飛んだのではないのだが、まぁ喜んでいるのならいいか。
「そんなに喜んでもらえるとは、飛んだ甲斐があるというものだな」
「喜んでねぇーよ! ビビってんだよ! お前感覚おかしいんじゃないのか? てかお前本当に人間かよ! 何者なんだよお前は!?」
俺はそっとタコに顔を近づけ、囁いてやった。
「……マジかよ。冗談じゃねーよ! その名は1000年前に行方をくらませた魔王の名じゃねぇーかよ! でも確かお前、二度死んだって言ってたよな?」
「お前は人ではないから特別に教えてやったのだ! 他言するなよ!」
◆
オイラは今上空数千メートルで化け物みたいな人間に頭を掴まれているんだけど、その人の皮を被った悪魔は薄気味悪い笑みを浮かべて、ありえない事を口にしていた。
この人間が口にしたその名は、嘗て4000年もの長きに渡り、魔族を束ねていたと云われる元七大魔王の名だ。
そいつはある日突然魔大陸にやって来たという。
誰かがそいつに尋ねた、お前はどこから来たと? するとそいつは失われた大陸ムーンからやって来たと云ったらしい。
だがその時代でもムーン大陸は既に1000年前に消えたと云われる謎の大陸だったらしい。
伝承では化け物に滅ぼされたとも云われている。
この人間が口にしたそいつは、歴代魔王の中でもかなりの変わり者だったと伝えられており、権力や力には一切興味はなく、他者に自分の存在を認めさせる事と、何かを求め続けていたと聞く。
だが今から1000年ほど前に、ここに自分の求めるものはなかったと言い残し姿を消したと云われている。
一説にはその魔王は自害したとも、自身の部下である幹部の一人に暗殺されたとも云われている。
現に七大魔王はこれまでに何度も入れ替わっている、オイラが聞いた話だと、この1000年の間にも既に5人の新魔王が誕生したという。
それはつまり、この人間が口にした魔王を含めて5人の魔王が死んだ事を意味しているんだ。
だけど、この人間は消えた魔王の名を口にした。
魔王が何らかの方法で人間になった? そんな事ありえるのだろうか? 仮にこの人間の言葉が真実なら、俺はとんでもない奴に喧嘩を売っていた事になる!
だけど、話で聞いていたその魔王は女好きで残忍な奴だったと云われている。
この人間は確かに女好きだが、そこまで残忍じゃない気がする。
現に敵だったオイラを殺さないで話を聞いてくれたんだ。
コイツはオイラを従わせる為に、脅し文句としてその名を口にしたんだろうか?
だとしたら本当にタチの悪い人間だな。
だけど本当だったとしたら……なんで二度死んでいると言ったんだろう?
意味不明な上にこの人間は嘘つきだが、確かに強い。
とっとと友達のメルトの所に案内をして、縁を切ろう。
コイツに関わるのは危険だ。
だけどメルトは人間嫌いだから大丈夫かな?
まぁ、オイラには関係ないか。
紹介するだけ紹介して、オイラは深海の国に帰ろう。
オイラは禍々しい邪悪な翼を生やした人間にメルトの居場所を伝える事にした。
早く解放されたいから友達を売ったわけじゃないぞ。絶対違うぞ!
「オイラの友達がいるのはここからずっと南にある小さな島、ムルセだ!」
「よし! ではすぐに向かうとするか!」
――次回 91話、浜辺でランデブー。
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