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87話 ウインク

 執事のハーディーが扉をノックし、部屋の扉を開けると、スノーは机の前で難しそうな顔をして書類に目を通している。


「スノー様、アルトロ王子がお見えです」

「……アル! どうしたのです?」


 スノーは突然の俺の訪問に驚き、慌てて書類を机に置いては立ち上がり、手でソファーへ座るように促している。


「さぁ、こちらに掛けてくださいアル」

「突然すまぬな。仕事は良いのか?」

「ええ。書類に目を通すだけですから、それよりも今日はどうされたのです?」


 ソファーに腰を下ろし話をしようとすると、ハーディーが手馴れた様子で紅茶と果実が乗ったタルトを出してくれる。

 甘いものは好きなので嬉しいが、これを食べに来たわけではない。

 しかし、テーブルの前に置かれていると気が散るので、一口でペロリと食べてやる。


 スノーは俺がタルトを食すのを微笑みながら見ている。

 もぐもぐと食べて紅茶を一口飲み、本題に入るとする。


「スノーにひとつ聞きたい! この屋敷にいるメイドは年端もいかない幼子ばかりだが、お前はロリコンなのか?」


 スノーは動揺する事なく、相変わらず笑っている。


「この屋敷にいる者たちは孤児ですよ。魔物や野盗に親を殺され、身寄りのない者たちをこの屋敷で雇っているのです。ちなみに孤児院もあるのですよ」


 なるほどな、ロリコン変態ではなかったか。少し残念だな。

 しかし、孤児院か……。多くの孤児を養って行くのは相当金がかかるのだろうな。


 現にこの部屋は伯爵家の主の書斎とは思えんほど質素なものだ。

 隠してはいるが、セスタリカはパリセミリスとの戦争により経済状況が好ましくないのだろう。


 そんな中、屋敷の維持と孤児院の維持でスノーの懐事情も芳しくないのかもな。

 その上フルク王子の為に頭を下げ続ける日々か、いや……自分の為でもあるのか?


 フルク王子が失脚すればスノーの立場もなくなってしまうだろうしな。


「フフ、話というのは私がロリコンかという事についてですか?」

「まぁそれは冗談じゃ! スノー君に聞きたかったのはサラ=セスタリカに呪いを掛けた魔女についてだ!」


 サラ=セスタリカ、その名を聞いて明らかにスノーの顔つきが変わった。


「恐ろしいお方ですね……アルは。一体どこまでご存知なのですか?」


 俺は昨日のフルク王子との事と、昨夜の夢について簡単にスノーに話した。

 信じてもらえんかもしれんと思っていたが、スノーは真剣に黙って話を聞いていくれていた。


「話は分かりました。サラ様に意識があったというのは驚きですが、アルが見た夢というのは(いざな)いでしょう」

「誘い?」

「はい。私も詳しくは知らないのですが、昔父から聞いた事があります。サラ様は誘いと呼ばれる人技を会得しておられたと! その人技は他者を自身の精神に誘うものだとも聞いています。しかし……サラ様に意識があったとなると、なぜこれまで誰とも誘いを使った接触をしなかったのでしょう? なぜアルトロ王子だったのかは謎ですね……」


 それは恐らく、俺なら自分を殺してくれると思ったからだろうな。

 仮に他の者と接触し、自分に意識がある事がボタニカたちの耳に入れば、ボタニカの怒りは激しさを増し、フルク王子やアリアに危険が迫ると考えたのではないか?


 だからこそ、無関係の俺を選んだのかもしれない。

 それにフルク王子やアリアから俺の話を聞いていたと言っていたから、多少信用されていたのかもしれんな。


「それで聞きたい事は魔女についてなのだが」

「……すみません。サラ様が呪いにより眠りにつかれたのは、今から12年程前の事です。その頃私は12でフルク王子もまだ11と幼く、魔女についてはあまり詳しく知らないのです。三年前に亡くなった父なら知っていたかもしれまないのですが……」


 これは幸先が悪いな。

 スノーが知らないとなれば、魔女を探し出す手立てがない。

 いっその事セノリア王にでも尋ねてみるか?


 俺たちが黙り込み困っていると、スノーの脇に控えていた執事のハーディーがゴホンと咳払いをした。


「そういえば旦那様は生前日記を付けておられましたな! 日記は確か地下室に保管しておりましたかな?」


 トボけた顔をした爺さんが、スノーにウインクをして貴重な情報を教えてくれている。

 俺とスノーは顔を見合わせ笑って、すぐにソファーから立ち上がった。


「地下に行きましょうアル!」

「うむ!」


 ハーディーに先導されながら俺たちは屋敷の地下へと場所を移した。

 地下というだけあり、やはりカビ臭く肌寒い。


 殺風景な地下室には滅多に人が来ないのか、埃をかぶった本棚が一本置かれている。

 俺たちは埃まみれの本棚からそれぞれ本を手に取り、パラパラとめくっては目を通していく。


 ページをめくる度に埃が舞い鬱陶しいのだが、そんな文句も言ってられない。

 この本の……日記の中に魔女に繋がる手がかりがあるかもしれないんだ。


 日記は全部で100冊を超えているが、俺たちは一冊一冊目を通していく。


「スノー様、アルトロ王子、これを!」


 本のめくる音だけが響いていた地下室に、渋いハーディーの声が響き、俺とスノーはハーディーが手にする日記を覗き込んだ。


 ――私は妹のサラに掛けられた呪いを解く為、魔女ナルガの行方を追った。――


 どうやらハーディーが手にした本が当たりのようだ。

 俺とスノーは魔女ナルガという言葉を見て頬が緩み、興奮を抑えられなかった。スノーの父が残した本に、サラに呪いを掛けたナルガの詳細が記されているというだけで心が高ぶるのだ。


「魔女の名はナルガと言うようですな!」

「でかしたぞハーディー!」

「続きを読みましょう!」

――次回 88話、王と妃。

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是非お読みください!
モンスターボールを投げたらノーコン過ぎて女勇者を捕まえてしまった件。
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