表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/152

82話 ポカポカ

 アリアの手をモミモミしながら歩いていると、すぐに香ばしい焼きたてのパンの香りが漂ってきた。


 手を繋いだままパン屋の扉を開けると、呼び鈴の代わりに取り付けられていた鈴の音がカランカランと店内に鳴り響き、エプロン姿のおばさんが元気よく出迎えてくれる。


「いっらっしゃい!」


 パン屋の女亭主はアリアを見ると少し驚いていたが、すぐに何でもない素振りをしてくれた。

 この国のお姫様であるアリアが来店した事に驚いていたんだろう。


 だけど、お忍びだと悟り、気づかぬ振りをしてくれている。


「シュガーパンを二つ貰えるか?」

「す、すぐに御用意いたしますね!」


 紙に包まれた出来たてのシュガーパンを受け取り、代金を支払って店を出て、近くの噴水広場の石段に手拭いをサッと敷いた。


「ここに座って食べよう!」

「うん」


 二人で噴水を見ながら、出来たてのシュガーパンを頬張り、俺はアリアの顔を見た。


「どうだ! 旨いだろ?」

「甘くて香ばしくてとても美味しいわ! それに、こんな風に外で食事をしたのなんて初めてよ!」


 嬉しそうなアリアの顔を見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。


「ずっとこの光景が続くといいのにな……」


 街を見渡したアリアが寂しそうに呟いた。

 戦争中だという事を忘れてしまう程、街は賑わい、行き交う人々は幸せそうに穏やかな表情を見せている。


 だけど、この光景は仮初だ。直にまた男たちは戦場に戻ってしまうのだ。

 一体何人、無事に家族の元へ戻って来れるのだろうな。


 俺に似合わぬ事を考えていると、噴水広場でボールを蹴って遊んでいる子供たちの蹴ったボールが、アリアに向かって飛んできた。


 俺は咄嗟に右手でアリアを抱き寄せ、左手で飛んできたボールを掴み取った。


「ごめんなさい! ボールこっちに投げて!」


 なんと危ないガキだ! しかし、グッジョブ!

 俺は子供たちにボールを投げ返し、抱き寄せていたアリアの体に左手も添えてみる。


 すると甘く優しい香りが包み込み、辺りが花畑に変わったような錯覚に包まれる。

 た、堪らん! 俺は理性が吹き飛びそうになるのを堪えて、アリアの背中を指でなぞってみる。


「っあ!」


 ううううぅぅぅぅ! 絶好調!

 なんだ今の色っぽい声は!

 俺は調子に乗ってもう一度、背中に指を走らせた。


「っん!」


 再びアリアが色声を上げるのだが、今度はアリアの表情を見逃さぬように横目で確認する。

 アリアは耳まで真っ赤に染め上げ、瞳をギュッと閉じている。


 堪らん堪らん! シュガーパンよりも甘いこの一時は、俺の脳内にエロス成分を多量に分泌し始める!


 俺は天を見上げ落ち着かせるように、口からポッポーと興奮の蒸気を噴出させる。

 その光景を不思議な顔で見ている先程の子供たち。


「おい、アイツ口から煙出してるぞ!」

「変態煙男だな」

「あたし大人になってもあんな変態だけは絶対嫌」


 何とでも言うがいい、ガキにはこの魅力はわからんのだ!


「アルトロ王子! もう大丈夫だから!」


 子供たちの声を聞き、恥ずかしそうに離すように言ってくるが、嫌じゃ嫌じゃ離しとうないぞ!

 離したくはないが、しつこいと嫌われてしまうので、仕方なく離すとアリアはそっぽ向いてソワソワしている。


 俺はいらん事を言った子供たちを鬼の形相で睨みつけ、子供たちは逃げるように走り去ってしまった。

 あのガキどもの顔は忘れんぞ! 奴らが大人になったら必ず邪魔をしに行ってやる!


「し、しかし危ない子供達だな、アリアにボールが当たっていたら大変だった!」

「アルトロ王子のお陰で助かりました」

「何を言う! 言ったであろう! アリアの為ならばどんな危険があろうと俺は臆す事なく飛び込むのだ!」


 アリアは更に顔を赤くして照れておるのか、噴水広場の端を指差して話を変えよった!


「あ、あそこで占いをやっているみたいよ! 行ってみましょう!」


 アリアが指差す方向には、確かに椅子に腰掛けた婆さんが水晶玉を置いて座っている。

 占いなんぞ信用できんが、アリアがやりたいならいいだろう。


「婆さん、占ってもらえるか?」

「では、水晶玉に手を置いてください」


 アリアが婆さんに言われた通り水晶に右手を置くと、水晶玉が輝きを放ち出した。

 俺は目を凝らし婆さんを見ると、婆さんの体は魔力の波動で包み込まれている。

 この婆さん魔道士だな。


 婆さんはアリアの手が置かれた水晶を両手で翳し、水晶玉を覗き込んでいる。


「2通りの運命が視える、ひとつの運命は残酷な死! だけど、小さな光を握り締める貴方が視える、その光は貴方の残酷な運命を飲み込む程の光……」


 なんじゃそりゃ、これだから占いというのは信用できん。

 要は生きるか死ぬかではないか! 当然の事を言いやがって!


 だが、婆さんの言葉を聞いたアリアは真剣に聞いている。

 アリアは純粋だな!


「アルトロ王子も占ってもらったら?」

「アリアがそう言うなら、占ってもらうかの!」


 俺はアリアと同じように水晶玉に手を置いた。

 婆さんは先ほどと同じように両手で水晶を翳すと、アリアの時は綺麗な半透明な輝きを放っていたのに、俺が手を置く水晶玉は黒くどんよりとした禍々しさを放っている。


 婆さんは目を細め水晶玉を覗き込むと、驚いたように目を見開いている。


「なんだ……これは!? 怨念? 魂そのものが呪われておる! それに三つの歩みが視える! 一つは嘆き、もう一つは覇道、もう一つは……わからん! とにかく不吉じゃ!」


 最後の言葉を婆さんが叫ぶと、水晶玉はひび割れてしまった。

 婆さんの言葉を呆然と聞いていたアリアに、婆さんは訴えかけている。


「すぐにこの者と縁を切るんじゃアリア姫! このモノは人などではない、人の皮を被った悪意の塊じゃ!」


 アリアが姫だと知っていたようだな。

 この街の住人なら当然か、しかし気に食わん!

 何が悪意の塊だ! 適当な事言いやがって!

 こんなものに金など払う必要もない!


「アリア帰ろう! こんなのはインチキだ!」


 アリアは不安そうな顔で俺を見つめている。

 俺が……怖いのか?

 アリアはすぐに婆さんに向き直し礼を言っている。


「占っていただきありがとうございます。でも、アルトロ王子は優しい人ですよ! それに私を何度も危険から救い出してくれました。縁を切るなんて嫌です!」


 ああ、またこれだ。

 心がポカポカする。


 アリアは俺を見ては微笑んだ。


「そろそろ帰りましょう、アルトロ王子!」

「そうだな!」


 婆さんは去りゆく俺たちを見つめながら、俯いていた。

――次回 83話、むっつり王子。

この作品を少しでも気に入ってくださったら、下の評価ボタンをポチっと押して頂けると嬉しいです!

よろしくお願いします。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
投稿開始し!
一話だけでも……!
是非お読みください!
モンスターボールを投げたらノーコン過ぎて女勇者を捕まえてしまった件。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ