81話 乱れる呼吸
アリアと二人で外出できるとは、マジでついておる!
やはり世界は俺を中心に回っているからすべて上手くいくのだ!
アリアの部屋を出て、外へ行くため城内を歩いているのだが、アリアは少し恥ずかしそうに俺の斜め後ろを歩いている。
できれば俺の横を歩いて欲しいのだが……そうだ!
俺は不自然にならぬよう口笛を吹きながら徐々に歩く速度を落とし、アリアの横に然りげ無く移動する。
賢い!
俺は横目でアリアの手を確認する。
一度触れたアリアのすべすべの手の感触が忘れられん。
しかし、いきなり手を握ったらさすがに驚くかもしれん。
何かいい方法はないかと考えていたら、前方からやかましい声が響き渡ってくる。
目を凝らし長い廊下の先を見据えると、全力疾走のタコがポルドに追いかけられている。
「おい! 助けてくれ、この太っちょを何とかしてくれ!」
クソッ、これからアリアと楽しいデートだというのに、なぜタコの世話をせねばならん! この疫病タコが!
タコルは俺の背後に回り込み、怯えた様子で身を隠している。
そのタコルをドシドシと物音を立て、ぜぇぜぇと肩で息をするポルドが追いついてきたようだ。
ポルドは膝に手を置きながら、汗まみれで苦しそうなのに、何故か瞳を輝かせ嬉しそうだ!
「アルトロ王子っ…… タコルちゃんをこっちに……渡してくれないか!」
「ふ、ふざけんな! オイラは物でもペットでもないんだ! 魚人族をペットにしようなんて頭おかしいんじゃないのか?」
そう、ポルドが中々自国に帰らないのはこれのせいだ!
ポルドはタコルをペットにするまでセスタリカから離れないと言い張っているのだ。
最も、その事で一番頭を抱えているのはセノリア王だろう。
ポルドが帰ってくれなければ街に呼び戻した者たちを、再び戦場に送り出す事ができないのだから。
しかし、タコルの言うことも一理ある、タコルが魚人族なのか疑問ではあるが、っていうか人ではないだろう、タコだし。
そんな事はいいとして、意思ある者をペットにするという事は、言い換えれば奴隷にすると言っているようなものだ。
奴隷制度はこの辺りでは禁止されている。
「まぁ、落ち着くのだポルドよ。ペットにするのではなく、友達になったら良いではないか! それならタコルも問題なかろう?」
「あ、あんまり友達にもなりたくないけどな! ペットよりはマシだ!」
「う~ん、仕方ない! 友達として一生面倒見てやるよ!」
こいつ本当にわかっているのか? わかってないな。
俺の後ろに隠れるタコルを、腰を落とし両手を伸ばして捕まえようとしているしな。
このままだとデートに行けそうにないので、足元に隠れるタコを然りげ無く後ろ足で蹴り飛ばした。
「走って行ってしまったぞ!」
「っあ! 待てー!」
ポルドはタコルを追いかけて行ってしまった。
これでようやくデート再開だな!
「本当に騒がしい連中だ!」
アリアは口元に手を当てクスクスと笑っている。
アリアが楽しそうなので良しとするか!
「さぁ、街にデー……散歩に行こう!」
「うん!」
俺はまた邪魔が入ってしまわぬように、アリアを急かし足早に城を後にした。
王都タリスタンの街並みは、初めてここへ来た時とは違い、出払っていた男たちが帰って来たことで活気づいている。
閑古鳥状態だった露店も人でごった返し、子供たちも駆けずり回って遊んでいる。
賑わう街の光景が嬉しかったのか、アリアの口元が少し楽しげだ。
そんなアリアを見ていると、俺も嬉しくなるのだが、露店と露店の間の細い路地の隙間で、子供が悪さをしたのか母親が叱りつけている。
「そんな悪さばかりしていると、墓穴のムクロが食べに来るわよ!」
親子の会話を聞いていると、なんとも言えない複雑な気持ちになった。
そんな俺の気持ちなど知るはずのないアリアは、また楽しそうに笑っている。
「そういえば私も小さい頃、悪戯すると良くお母様に、墓穴のムクロが食べに来るって言われたな。アルトロ王子は言われなかった?」
「あ、ああ。俺は母を知らんからな。俺が生まれてすぐに母は死んだのだ!」
アリアは聞いてはいけない事を聞いてしまったのかと、気まずそうな顔を見せた。
「……ごめんなさい」
「気にする事はない、俺はそんな事をこれっぽっちも気にしていないからな!」
「……そっか。それなら良かった」
そんなどうでもいい事でアリアが悲しむ事はないのだ!
それでも気にしてしまったのか、場を盛り上げようとアリアが話を振ってくれる。
「アルトロ王子は墓穴のムクロの話を信じる?」
「……」
「ひょっとして、墓穴のムクロの話を知らないの?」
……やめてくれ。
そんな話は聞きたくない!
俯き、呼吸が乱れた俺に気づいたアリアが肩に手を置き、優しく声を掛けてくれる。
「大丈夫? アルトロ王子。汗凄いよ?」
「……大丈夫だ。それより向こうに美味しいパン屋があるのだ、この間ポルドと食べたシュガーパンは絶品だったぞ! アリアにも食べさせてやりたい!」
「シュガーパン! 甘いものは私も好きよ!」
「では食べに行こう!」
俺は然りげ無くアリアの手を握り、人で溢れた露店通りを横切った。
やらしい意味で手を繋いだのではない、逸れてしまわないように手を取ったのだ。
きっとアリアも理解してくれていたと思う。
だけど、相変わらずスベスベだ! ヒヒ。
――次回 82話、ポカポカ。
この作品を少しでも気に入ってくださったら、下の評価ボタンをポチっと押して頂けると嬉しいです!
3章まで読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。m(__)m




