79話 疫病神
抱きしめていた二人を離し、じっとアリアを見つめて考える。
今……妙なイントネーションで僕って言わなかったか?
するとアリアは立ち上がり、膝を突いて呆然としている俺の肩を二度叩き、下品に笑っている。
「いや~ほんま助かったわ! てっきり僕自殺でもせなアカンのちゃうかって、内心めっちゃビビてたんやから!」
俺はすぐに状況を理解すると同時に、怒りがこみ上げ肩が震える。
ゆっくり立ち上がり、アリア……じゃなく、ルーベルトを睨みつけた。
「お前ルーベルトだな! ふざけんなよ! 俺とアリアの感動の再会を邪魔しやがって!」
「そないな無茶なこと言わんといてや! 精神入れ替わっとるんやから、そらそうなるやろ!」
気を利かしてタイミングよく解除しろよ!
俺はすぐにルーベルトの姿をしたアリアに顔を向け、ダンスフロアを駆けてアリアを抱きしめてやった。
「心配したのだぞ、アリア」
「っあ! もう技解いて戻りましたから、また僕ですよ!」
すぐに抱きしめていた体を突き放し、思いっきり頭を殴ってやった!
「っ痛! 何しはるんですか? 酷すぎますわ!」
「どっちがじゃ! お前ワザとしとるだろ!」
「っあ! バレました?」
このボケ! 舐めやがって!
それよりもアリアだ!
俺は今度こそ本物のアリアへ体を向け、アリアを見ると!
今まで貴族どもと一緒に隠れていたセストが、アリアを抱きしめておる!
「無事でなによりだよ、アリア!」
いやぁぁぁああああ!
お前は何もしとらんだろうが! 自分の身が可愛くて隠れていただけだろ!
それなのに、美味しいところを持って行きやがって!
しかも何を堂々と抱きしめおる! 許さん!
俺が鼻息荒く右の肩に左手を乗せ、グルグルと肩を回しながらダンスフロアを進み、アリアの元へ行こうとしていると、アリアがこちらに顔を向けている。
アリアはセストから離れ、ゆっくりと俺に歩み寄ってくる。
「怪我は……ありませんか? アルトロ王子?」
なんだこれは? 瞳を潤ませるアリアに見つめられると、胸の辺りがドキドキする!
まるで何かの呪いに掛けられたように、心臓が爆発しそうだ!
「あ……ああ、俺は大丈夫だ! アリアは平気か?」
「はい。平気です!」
「そうか……それは良かった」
なんだ、このぎこちない会話は!
次に話す言葉が思いつかん!
俺とアリアはただ……見つめ合う事しかできなかった。
本当は抱きしめたかった、力一杯抱きしめて、心配したのだと伝えたかった。
なのに……何もできん。見つめるだけで精一杯だ。
そんな二人の時間を邪魔するように、ペタペタと音を鳴らした奴が文句を言ってくる。
「おい、お前! 友達を捨て駒にしようとするとはどういうつもりだ!」
コイツの存在をすっかり忘れていた。
しかし、捨て駒にするとは言ったけど、実際コイツは何もしていないではないか!
「場合によってはそうすると言ったが、結局何もなかっただろ?」
「ふざけんな! オイラはずっといつ自分が捨て駒に使われるかわからない中、恐怖と戦っていたんだぞ! オイラの心はもうボロボロだぞ!」
器用に6本の触手で立ち、2本の触手で腕を組むタコがブチギレておる!
「ちょうど良い! そこにマインドポーションがあるから使うといい!」
「そういう問題じゃねぇーんだよ! お前頭悪いだろ! 心が傷ついたって言ってんだよ!」
心が傷つくってどう言う意味だ? 精神が疲労したという事だろ?
というか……。
「そもそもお前は敵なんだ、生かしてやっているだけ感謝しろ! それに今大事な場面なんだ、空気読めよタコすけ!」
「いつまで過去を引きずってんだ! 小さい奴だな! オイラみたいにでかいタコになれ! それに大事な場面て、鼻の下伸ばしてるだけじゃないか!」
相変わらずなんと言う無礼なタコだ! 信じられん!
タコ揚げボールにして食ってやろうかと思っていると、ポルドやフルク王子たちも皆集まって来てしまったではないか。
「ずっと気になっていたんだが、この愛らしいタコはアルトロ王子の仲間なのか?」
はぁ? ポルドがタコルを愛らしいと熱烈な視線を向けておる。
ポルドの感性はおかしいんじゃないのか?
ポルドの発言を受け、タコも調子に乗っている。
「ほら見ろ! 普通の奴はオイラを愛らしいと思うんだ!」
いや、どう考えても普通ではないだろ!
現にポルド以外の者は皆、言葉を話すタコに若干引いておる。
「ポルド王子よ、このタコの一体どこが愛らしいというのだ!」
「フォルムだ!」
迷うことなく笑顔で答えよった! ありえん!
更にポルド王子は信じられない言葉を口にする。
「いらないのなら貰ってもいいか?」
「はぁ? 夜食にでも食うのか?」
「そんな事する訳ないだろ! ペットにするんだ!」
「……」
言葉を失ったのは俺だけじゃない、俺とアリアを中心に取り囲んでいる全ての者が思考停止状態だ。
「お互いに……話し合って好きにしてくれ」
「そうか、感謝する!」
っは! こんなことをしている場合じゃない、アリアだ!
アリアと先ほどの続きをしようと思ったのだが、フレイがアリアに抱きつき、続きはできそうにない。
すべて邪魔をしたタコのせいだ!
本当にこのタコは疫病神だ!
怒りと憎悪でタコを睨みつけていると、会場の入口から複数の足音が聞こえる。
どうやらアーロンたちが駆けつけてきたようだ!
外で結界を張っていた連中が引いたようだな。
会場の入口で足を止め、状況を確認しているアーロンたちも、既に事が終わったことに気づいたようで、安堵していた。
こうして、アリアの18歳を記念した舞踏会は幕を閉じたのだが、奴らの狙いはなんだったのだろう?
奴らの目的を阻止することはできたのだろうか?
それに、せっかくのアリアの誕生舞踏会なのに、フルク王子以外の二人の兄は出席しなかったのだな。
まぁ、なにはともあれ、アリアもリリアーナも無事だったから良いではないか!
――次回 80話、オッケー。
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