77話 殺人鬼
俺は会場で光によって投影されたスクリーンを食い入るように見ていた。
映し出されたスクリーンの中ではアリアとルーベルトがオデコを合わせ、今にも口づけを交わしてしまいそうなほど接近していた。
その光景を見て拳を握り、力を込めてしまう。
なんと言うハレンチな技だ!
なぜわざわざデコを合わさねばならんのだ!
後で文句言ってやるからな!
腹ただしく思いながらもスクリーンを見ていると、アリアとルーベルトの互の位置が入れ替わり、俺はすぐに盤上に目を向けた。
盤上で向き合うアリアとルーベルトの駒がゆっくりと形を変え、ルーベルトの駒がアリアの形をした駒へと変化している。
ヒヒ、ダメだ笑いが止まらん!
俺と同じようにスクリーンを食い入るように見つめていた魚人は、何が行われたのかも理解できず、戯言を言っている。
「なにがゲーム終了だ! 何も起こらんだろうが! やはりただのペテンか!」
哀れな魚だ。自ら作り出したゲームとやらの最大の欠点にも気付かんとはな。
俺はゆっくりと立ち上がり、魚人を見下ろし一睨した。
「おい、クソ魚! 今から貴様を処刑する!」
魚人は片膝を立て座ったまま、相変わらずの馬鹿面で笑っている。
「儂を処刑? 血迷ったか? 儂を殺せばアリアは死ぬぞ!」
「そもそも俺が自害したら駒になった奴らは解放されるんだろ? なのにお前が死ねばアリアが死ぬと言うことが意味不明だ! 辻褄が合わん!」
魚人は片膝を立てた膝を叩きながら笑い、また新しいルールを口にする。
「それがゲームマスターの特権だよ! このゲームのルールは儂だからな!」
魚人の言葉を聞き、近くでゲームのゆくへを見守っていたフルク王子もスノーも、慌てて俺に落ち着くよう言っている。
「落ち着くんだ義弟! そいつの言葉が真実なら、アリアが死んでしまう!」
「馬鹿なことはおやめ下さい!」
二人の言葉を聞いていたポルドはゆっくりと立ち上がり、盤上を見つめながら声を出した。
「安心しろ、その心配はない!」
ポルドの言葉に納得の行かないフルク王子は怒鳴り声を上げた。
「心配ないって、どういう事だ! 妹の命が懸かっているんだぞ!」
フルク王子の心配も最もだが、今は堪えてもらう。
俺はフルク王子に少し黙ってくれという意思を込め、フルク王子に手を向けた。
「コイツを殺しても問題ない理由を今から説明する」
「儂を殺しても問題ない理由だと? そんなものある訳ないわ!」
「盤上をよく見ろ!」
「はぁ?」
魚人は俺に促されるままに盤上に目をやり、すぐに俺を見直した。
「盤上がなんだという? 何もないではないか?」
「お前のキングは誰だ?」
魚人は再び盤上を見ながら答えた。
「そんなもの決まってる! アリ……アじゃ……ない? 馬鹿な! ありえん! コイツはお前の駒だろう!? なんで入れ替わっている!?」
驚き何度も食い入るように盤上の駒を確認する魚人。
魚人の言葉と慌てた様子に、フルク王子とスノーが盤上に駆け寄り、盤上を食い入るように見ている。
「アリアと騎士ルーベルトの駒が入れ替わっている!?」
「一体これはどういう事なのです、アル!?」
驚く二人と間抜けな魚人に説明してやる。
「これはルーベルトの人技、精神転移による効果だ! ルーベルトの人技は自身の精神と他者の精神を入れ替えるというものだ。精神世界で精神が入れ替わったらどうなる? 何らかの制約や呪いの類により束縛されていた精神は、束縛されていた対象を入れ替えるということだ! つまりこの場合、アリアは俺と繋がりを得て、ルーベルトは俺との繋がりを絶たれ、魚人と繋がるということだ!」
魚人は慌てて立ち上がり、この俺に汚い指を向けてきやがる。
「インチキだ! こんなものは反則だ!」
魚人の言葉を鼻で笑ったポルドが、このゲームの一番の欠点を指摘する。
「お前のゲームは欠点だらけなんだよ!」
「欠点などあるかぁ!」
「一番の欠点はゲーム内、つまり精神世界で人技が扱えるということだ! そもそも強力な人技を有する者なら、宝箱なんて取る必要がないんだ! 武器なんていらないんだよ! さらにお前は致命的なミスを犯した、それはこの中にいる全ての者を駒にしてもいいとした事だ、そのせいでセスタリカの最強の騎士たちが、アルトロ王子の駒になってしまった! 結果、お前が人質に取ったアリアを開放できる者がゲーム内に紛れ込んでしまった」
ポルドの指摘を受け、狼狽える魚人へ更にダメ出しをしてやる!
「更に付け加えるなら意思の疎通、これも必要ないな! そもそも意思の疎通ができなければ俺がルーベルトと会話をする事ができず、俺はルーベルトの能力を知り得なかったんだ!」
とはいえ、コイツを殺したらルーベルトを本当に殺してしまうことになる。
ルーベルトにはああ言ったが、俺やアリアの為に命を懸けてくれている者を見殺しにするのは……やはり気が引ける。
全身の毛穴という毛穴から汗を垂れ流し、ようやく追い詰められている事に気づいた魚人が、辺を見渡し逃げる準備をしているようだが、不可能だ!
俺とポルドの言葉を聞いていたフルク王子が、会場に残っていた騎士たちに命令を出しているからな。
「この魚人を絶対に逃がすな! 取り囲め!」
フルク王子に従い一斉に騎士たちが剣を抜き、魚人を取り囲んでは剣先を突きつけている。
さてと、今からこのクソ魚人の心をへし折り、この馬鹿げた技を解除させるか。
俺は騎士たちに取り囲まれている魚人に近づき、ボキボキと手を鳴らしては威嚇し、殺人鬼のような笑を見せつけてやる。
「覚悟……できてんだろうな!」
魚人は呼吸の仕方でも忘れたのか、ハフハフ言ってやがる。
さぁ、本当のゲームを始めよう。
――次回 78話、俺がルール。
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