75話 ダッシュ
流石に4話投稿はキツいので、明日からは又、朝7時と夜19時の2話投稿に戻させていただきます。
ご了承ください。
目の前の魚人は面白いくらい混乱しているのがわかる。
必死に盤上を睨みつけ考えているようだが、焦りすぎて顎先からポタポタと汗が垂れておる!
「だから早くしろよジジイ! どうせ双方6だろ?」
魚人は鋭い眼光で俺を睨みつけ、サイコロを手に取り投げたのだが、赤が3、青が1、動揺して手元が狂ったみたいだ!
まさかの凡ミスに固まる魚人、そんな魚人を見て俺らは馬鹿みたいに声を張り上げ、魚人を指差し笑ってやった。
するとその様子を見ていたフルク王子もスノーも騎士たちも、俺たちの背後にいる貴族たちも、魚人の固まった姿が面白かったのか、張り詰めた会場が爆笑に包まれた!
するとポルドが透かさず魚人を苛立たせる一言を口にする。
「なんだよその顔! みんなを笑わせて何がしたいんだよ!」
大勢に笑われ怒りと羞恥心で震える魚人。
俺は盤上を見て思う、この魚人のミスは致命的だ!
仮に今まで通り双方6を出していれば、中央の草原に位置してある駒を、6マス進め2対2の戦闘にすることができたのに、出たのは行動数3に駒数1だ。
西の湖に配置してある駒は、アリアの駒と黒ずくめの駒が横に並んでいる状態だ。
もちろん西の駒を動かすという選択肢もある。
中央の駒のどちらかを3マス後方へ移動させることも可能だ!
だが仮に中央の駒を一つ動かしてしまえば、どの道二つ並んでいる駒を引き離すことになる。
次の俺のターンで、赤6青2が出ればどの道2対1の構図になる。
だから選択肢は湖のアリアの駒か、もうひとつの駒を動かすしかないのだ。
しかし俺の方の湖の駒は、騎士団長マグルとルーベルトが横に並んでいる、そして2マス前方にはアリアたちの駒が並んでいる。
つまり、アリアか黒ずくめのどちらかを動かせば、アリアが一人になるということだ。
魚人も少し考え、盤上の西側に手を伸ばそうとしたのだが、俺は透かさず魚人へ忠告をしてやる。
「アリアを一人にしてしまえば、次の俺の番でサイの目が運良ければ……俺の上がりだな!」
「はぁ?」
魚人は俺の言葉で伸ばしていた手がピタリと止まった。
ゆっくりと俺とポルドに顔を向け、目を見開ける魚人に、悪魔のような笑を見せつけ魚人の心を揺さぶる!
「っあ! 本当だ! 次で運が良ければ終わるなアルトロ王子!」
「だろ? ポルド王子! 案外楽勝だったな!」
魚人は慌てて盤上を何度も確認し、戸惑っている!
だが、俺たちの言っている事は事実だ!
アリアが一人になり、騎士ルーベルトがアリアと接触した時、俺たちがこのふざけたゲームを終わらせる時だ。
実はもう詰んでおる!
だから俺は二人の騎士を、アリアがいる西の湖に向かわせていたのだ。
魚人は頭に血管を浮かばせながら、裏返った声で怒りを上げている。
「さっきから訳のわからん嘘をつくなぁ! そうやって儂を惑わせるのが狙いなんだろう! 見え見えだ愚か者が! そんな姑息な手に引っかかるか!」
魚人は何かを振り切ったように、アリアの横に並ぶ黒ずくめの駒を手に取り、3マス後方へと動かした。
だがその瞬間、俺が行動数2、4、6の何れかを出したらルーベルトとアリアが敵に邪魔されることなく、接触を果たすことになる。
俺は盤上に手を伸ばしダイスを手に取ると、運命のダイスを転がした。
カタカタと音を鳴らし、ゆっくりとダイスが止まる。
出た目は、赤2青2のゾロだ!
俺の勝ちだ!
俺は迷わず西側の駒、ルーベルトをアリアの正面に置き、ルーベルトの横にマグルを並べた。
アリア、ルーベルト、マグル、三つの駒は繋がり、フィールドも繋がった。
俺は透かさずルーベルトとマグルに意思の疎通を行った!
◆
ひょっとしたら……僕の命は今日で終わるかもしれへん。
せやけど……騎士としては最高の誉やないか!
アルトロ王子が僕を駒に選んでくれたんも、きっと運命やったんや!
名誉という名の下で死ねるなら、それもまた一興やないか!
あかん、なんかおもろなってきたわ!
なんて考えとったら、また景色が変わっていきよるわ。
流石にもう見飽きたわ!
『聞こえるか? ルーベルト』
ボケっと移ろう景色を見とったら、なんやまた前代未聞のクズ王子さんの声が聞こえよるわ。
……そないな言い方したらあかんな。
他国のお姫様の為、命を懸けて戦ってくれてるお人に対して、いくらなんでも失礼過ぎたわ。
『ちゃんと聞こえてますよ、アルトロ王子!』
『アリアと……繋がった。アリアは……前方にいる』
言葉を詰まらせ、躊躇っとんのがようわかるわ。
せやけど、僕は騎士やで! 王の剣にも盾にもなるんや!
他国の王子様が気遣う事なんて何もないんや。
せやから、そないな悲しそうな声……やめてえや。
こっちまで悲しなってまうやん。
僕はアリア様の元に走りながら、アルトロ王子に元気よう応えたる。
セスタリカの騎士として、王族に気を使わすなんてあかんからな!
それはセスタリカのすべての騎士の恥となる。
僕の大好きな騎士団のみんなに、恥じかかすんわ嫌やっ!
『聞こえますか王子?』
『……ああ』
『女の前ではいつもハイテンションやって聞いとりますけど……僕にもハイテンションでお願いしますわ! 僕ジメジメしたん苦手やから!』
『……』
まぁ……そら黙り決め込んでまうか。
『そうかハイテンションで良いのだな! てっきりお前が死んでしまうかもわからんから、トーンを落として悲しみを演出してみたのだが、不要だったみたいだな』
はぁ? なんやこの王子……めっちゃおもろいやんけ!
人が死ぬかもしれんのに演出って!
僕が死ぬことなんて全然気にしてないみたいやん!
『僕が死ぬかもしれんのに、清々しいですね王子は?』
チクリと嫌味言ったたら、悪びれる様子もなく言いよる王子は確かにクズやな!
『お前の事全然知らんからな! 知り合いが死ねば悲しいが、そうでない者が死んでも然程悲しくなかろう?』
まぁ確かに……それは一理あるな!
『なんかわからんけど、僕王子のこと好きやわ!』
『俺は男に好かれても嬉しくないぞ!』
あかん、笑ってまうわ!
ほんまスゴ過ぎるわ、この王子!
『ほなら、アリア様の元までかっ飛ばしますよ!』
『おう! ダッシュで行くのだ!』
――次回 76話、お膳立て。
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