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69話 駒

 フルク王子の叫びを聞き、我に帰った俺は殺意の衝動に従うままに魚人へと突っ込み、首を刎ねてやろうと手を伸ばした時――


「儂を殺せばこの女も死ぬぞ!」


 俺の手は魚人の首元1センチ手前で止まった。

 魚人は俺の手が止まった事を確認すると、二ターっと笑い、俺を見下し目を細めた。


「さぁ、ゲームを始めよう! ア・ル・ト・ロ」


 挑発したように俺の名を口にした魚人は、会場に響き渡る声量で笑っている。

 一頻り笑ったあと、固まる俺の横を通り、会場の中央に盤上を置き、盤上の前で片膝を立て座った。


 魚人は首を俺に向け、嘲笑うように俺に正面に座れと命令している。


「はよ座らんか! そんなところで固まっていても誰も救えんぞ!」


 俺は伸ばしていた手を引っ込め、ゆっくりと体勢を戻し、魚人の後頭部を睨みつけながら歩き、盤上が置かれた魚人の対面に座った。


 俺が着席したのを確認すると、また嫌な笑みを浮かべ、ゲームについて語りだした。


「先ほど言ったように、5つの駒をこの会場にいる者の中から選択するんだ! 駒を選択したら心の中で一駒だけ思い浮かべ、キングに指定する。キングが殺られたり、駒が全滅しても負けだ。ここまではわかったか?」


 俺は無表情のまま魚人を睨みつけ、うわ言のように返事をした。


「ああ」

「ちなみにゲーム内で死んだ駒は現実でも死ぬ。この儂とのゲームに敗北すればもちろんお前さんも死ぬ。まずは盤上に手を翳し参加すると言うんだ! それでお前さんが正式にプレーヤーになる、一度プレーヤーになったらゲームが終わるまでゲームを降りることは不可能となる。さぁ早く手を翳せ!」


 この魚人の命令に従うのは癪だが、アリアを人質に取られている以上従わざるおえない。

 魚人に言われた通り、盤上に手を翳し意思を言葉にする。


「参加する」


 盤上に手を翳し参加を表明すると、俺の体は一瞬発光し、何らかの呪いに似た制約を掛けられたのだろう。


「次は5つの駒をこの場所にいる者たちの中から指定するんだ」


 首を回し会場を見渡すと、俺と魚人の遣り取りを聞いていた騎士たちが、自分を駒にしてほしいと進言してきた。

 フレイもすぐに立ち上がり、自分を使ってくれと願い出てきた。


 フレイだけじゃない、リリアーナもシスも、フルク王子もスノーも、皆自分を駒にしてくれと言っている。


 だが駒になれば、この盤上で死ねば、この魚人の話が事実なら死ぬのだぞ!

 どんなゲームなのかもまだわからない。


 それでもアリアの為、俺に命を預けるのか?

 俺は彼らを殺してしまうかもしれん。

 張り詰めた時に中、俺は胡座を掻きそっと天を仰ぎ、瞳を閉ざした。


 1分程だろうか、瞳を閉じ考えていたのは。

 俺は最も信頼できる者を最初に選び、キングに指定した。


「……リリアーナ!」


 俺が彼女の名を呼ぶと、リリアーナは支えていたアリアの体をシスに預け、迷わず一歩踏み出した。


「それでいいのよ、アルトロ! あなたが最も信頼できるのはあたしとシスなんだから! だけどシスはメイドさんだから、シスの分まであたしが頑張るわ!」

「……リリアーナ」


 シスは自分の無力さを嘆くように、悔しそうに俯いてリリアーナの名を口にしていた。

 俺は透き通る瞳の奥に潜むリリアーナの決意を見つめ、彼女を駒に指定した。


「リリアーナ! 俺の駒になれ!」


 アリア同様、リリアーナの体は燐光し、魂のような光が俺の手元に来ると、リリアーナの形をした駒へと姿を変えた。


 俺はリリアーナの駒を左手で優しく持ち、悔しさで右手を握りしめていた。


「お願いです、アルトロ王子! 私をあなたの駒にして下さい!」


 駒になったリリアーナを見つめていると、フレイが真っ青な顔で声を上げた。

 フレイはアリアの騎士なのだ、彼女の気持ちを汲み取れば断ることもできないし、断る理由もない。


 俺はフレイに頷き、宣言した。


「フレイ、俺の駒になれ」


 フレイもまた駒となった。

 左手の中にある二つの駒を見ながら、俺は騎士たちの中から残りの2駒を選び抜き、駒へと変えた。


 一人は騎士団の団長でマグルと言うオールバックの男、もう一人はマグルの近くにいた青白い髪で目の細い男。

 独特な言葉遣いをする男だったが、俺の直感がコイツだと告げていた。

 セスタリカ騎士団の情報は何もなかった、だから直感に頼る以外なかったのだ。


 オールバックの男、マグルが騎士団団長とわかったのは自ら宣言し、自分を選べと言ってきたからだ。

 最も実力があると思われる団長を選択するのは間違いではないだろう。


 残り最後の一駒はもう決めていた。

 だが、最後の一駒を巡りフルク王子とスノーが自分がなると言い合いをしている。

 そんな二人には申し訳ないが、俺は言う。


「フルク王子もスノー君もすまんな! 今回は遠慮してもらえるか!」

「……そんな」

「なぜです、アル?」


 俺は二人に最後の一駒について説明する。


「最後の一駒は、いわゆる捨て駒だ! まだどんなゲームかもわからん以上捨て駒が必要になるかもしれん! あらゆる状況を踏まえて、死んでもいい者を選択する!」


 死んでもいいと言う言葉を聞き、二人は驚くと同時に納得がいったように頷いている。


「しかし、死んでもいい者などおるのか義弟?」

「敵を駒にする手もありますが、信用できませんしね」

「心配するな! 一匹おる!」

「「一匹!?」」


 俺は会場の入口付近で様子を伺っていたタコルへ視線を向けると、タコルは俺と目線が合うや否や、真っ青になって固まってしまった。

 すぐに自分が捨て駒にされると気づいたタコルは、顔を横に振り、涙を飛ばしながら訴えてきおる。


「何考えてんだよオメェー! 冗談じゃねぇーよ! 他のにしろよ、なんでオイラなんだよ!」

「理由は簡単だ! お前が死んでも誰も悲しまん!」

「……」


 俺の言葉がショックだったのか、タコルはポカーンと時が止まってしまった。

 絶望に固まるタコルには申し訳ないが、話を続ける。


「だが安心しろ、お前は単なる保険だ! ゲーム内容によってはお前の出番はないかもしれんのだ。ゲーム内容がわからん以上これは仕方ないことだ。諦めろ!」

「ふざけんなよお前! 借金背負わせたり、オイラの命を軽率に扱ったり、タコの命をなんだと思ってるんだ!」


 そんなもん知らん、恩は恩で返すのが礼儀であろう。

 命を助けてやったのだから、命を懸けるのもまた礼儀だ。

 ガタガタとうるさいので、さっさと駒に変えてやる。


「タコル俺の駒になれ!」

「いやぁぁぁぁあああああ――」


 哀れなタコが絶叫しながら歪な駒へと姿を変えよったわ!

 しかし、これで準備は整った!

 ゲームとやらに勝ち、目の前であくびをしておるこの魚人を、必ず殺してやる!

――次回 70話、嘘か誠か。

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追伸 戦いが数話続くので、バトル回をあまり好まない方もいるかもしれないので、更新頻度を上げて対応しようと思います。

お付き合い下さると嬉しいです。

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一話だけでも……!
是非お読みください!
モンスターボールを投げたらノーコン過ぎて女勇者を捕まえてしまった件。
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