66話 ブラックジョーク
私は自分がわからなかった。
大好きなセストから貰ったレッドパールが千切れてバラバラになってしまったのに、ポルド王子からいただいた髪飾りも壊れてしまったのに、そんな事より花が、月華が踏みにじられる方が悲しかったの。
どうして……アルトロ王子から貰った花をこれほど愛しく、大切に想うのだろう、私は彼に惹かれているの?
フレイは言っていたわ、私は意地を張ってるだけなのだと。
誰かを好きになったら一途でいなければいけないものなのだと、そう思い込んでいるのだと。
でも今、目の前で屈んで優しく私に声をかけてくれるアルトロ王子を、私の誕生日に毎年花を贈ってくれると言ってくれたアルトロ王子を、愛しいと思ってしまう、この感情はなに?
危険を顧みず、何度も助けに来てくれて、私を気にかけ大勢の前で恥をかくことも厭わない、そんな彼を私はこれまで無下に扱っていたのに、それなのに、彼は変わることなく優しく接してくれる。
私は……どうしたいのだろう?
彼が好き? 嫌い? わからない。
わからないけど……嫌いじゃない。
私が彼の顔を見ると、優しく微笑んで頭を撫でてくれる。
同時に顔が急激に熱くなり、鼓動が高鳴りを覚える、そんな感覚が私の全身を包んだの。
◆
俺はアリアの頭を触り、先ほど魚人に踏まれたアリアの頭に怪我がないか確かめると、アリアはなぜか耳まで真っ赤になって、俯いてしまった。
本来なら、慈愛の接吻でアリアが怪我をしていようがなかろうが回復させたいのだが、今それをしたら余計嫌われてしまうので、グッと堪えるように視線を落とすと、アリアの胸の谷間が俺を釘付けにしてくる。
それほど胸があるとは思えんかったが、意外と立派ではないか!
ヒヒ、いかん! いつものいやらしい笑が出てしまう!
こんな非常時にパイオツを見ていたと知られたら、軽蔑されてしまうではないか!
見たい! だが今は我慢して拳を握り締め立ち上がるのだ。
クッソー!
立ち上がり真っ暗な天井を見上げながら、震えるように我慢していると、フレイたちの声が聞こえる。
「すごい気迫ですね! アルトロ王子」
「当然よ! 私たちを襲った敵が憎いのよ!」
「敵への怒りに身を震わせていますね!」
な、なにか勘違いしているようだが、事実を教える必要はないな。
むしろ知られたくはない!
三人が勘違いで盛り上がる中、ペタペタと気の抜けた足音なのか手音なのかわからん音を立てながら、床を歩き魚人の遺体を確認して、驚くタコがいる。
「スゲー! ジジムをこんなにあっさり殺っちまうとは! バケモンかよ!」
タコルが半開きの口で俺を見ては驚いている。
そんなタコルに気が付いた女性陣が、まるで汚物でも見たかのように悲鳴混じりに喚いている。
「な、なんなのよ! この変な気色の悪い生き物!」
「魚人の仲間ですか? 容赦はしませんよ!」
「ニュルニュルしていて気持ち悪いですね」
リリアーナは透かさずタコルから距離を取り、シスはリリアーナの背後に隠れるように身を潜め、フレイは殺す気満々でタコルに剣を構えている。
タコルはフレイに剣を向けられ焦ったのか、涙目になりながら二本の触手を前に突き出し、俺に助けを求めている。
「おい! 見てないで助けてくれよ! オイラたち仲間だろ!」
タコルが必死に俺に助けを求める姿を見て、三人は俺に顔を向け、どういう事だという顔をしている。
しかし、タコルも調子のいいタコだな。
誰も仲間になった覚えなどないのだが。
まぁ、敵意はないみたいだし、一応助けてやるか。
「ああ、そのタコはさっき下の階で知り合ったのだ! なんでもそこで死んでいる魚人に脅されて、利用されていたらしくてな。殺す価値すらないのでなんとなく生かしているのだが、気に食わなければ、殺して良いぞ!」
俺の言葉を頷きながら聞いていたタコルは、最後の発言を聞き、目ん玉を飛び出させながら驚いている。
器用な奴だな!
「えぇぇ! 何言ってんだよお前! 頭おかしいんじゃないのか!?」
「ヒヒヒ、冗談だ、ブラックジョークというやつだ! 悪かったな!」
「冗談になってねぇーよ! 状況考えて言えよ! 友達が殺されるところだったんだぞ!」
何度も言うが、仲間でもなければ友達になった覚えもないのだ。
タコルの中では既に俺は友達になっているらしいが。
俺とタコの遣り取りを見て聞いていたフレイは、タコが敵ではないとわかり、安堵したのか溜息を吐きながら、剣を鞘へと収めた。
タコルもフレイが剣を収めたのを確認し、余程焦ったのか、ツルッと光る頭部に流れる冷や汗を触手で拭い、嘆息している。
リリアーナとシスも警戒は解いたようだが、歪なタコルの見た目が苦手なのか、顔を引きつらせている。
「なるほど。アルトロ王子のペットでしたか、これはとんだ失礼を、危うくアルトロ王子のペットを斬り捨てるところでした」
「ペットじゃねぇーよ! ねぇーちゃんちゃんとオイラの話聞いてたか? どこをどう聞けばペットになるんだよ!」
タコルの言う通りだ!
こんな気色の悪いのが俺のペットなわけないわ!
こんなのがペットなら、俺のセンスと品性がおかしいと誤解されてしまうではないか!
そんな事より、早いこと会場に戻らねばな。
フルク王子たちもアリアの無事を早く知りたいだろうし、何より敵の狙いがわからん以上、会場の状況も気になるしな。
――次回 67話、お前の所為だ!
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