65話 踏みにじられて、咲く花
「リリアーナ! フレイ!」
俺は廊下の先で魚人と対峙する二人に聞こえるように声を張り上げ叫んだ。
リリアーナとフレイはもちろん、アリアとシスもすぐに俺へ視線を向けて来た。
同時に気色の悪い魚人も俺へ顔を向けてきたのだが、魚人はすぐに俺が左手で掴んでいるタコルに視線を向け、歯を食いしばり、鋭い牙を見せて怒り狂っている。
「てめぇータコル! なに通してんだボケがぁ! たった一匹の人間すら足止めできねぇーのか、この役たたずがぁ! 後でぶち殺してやるからなぁ、覚えてろ!」
タコルは目の前の魚人が苦手なのか、泣き止んでいたのに、また目を潤ませて俺に文句を言ってきた。
「だから言ったんだ! 責任とってちゃんとジジムを倒してくれよ! じゃないとオイラがジジムに殺されちゃうよ!」
左手で鷲掴みにするタコルを冷ややかな目で見ながら、めんどくさいタコだなと思うのだが、初めから目の前の魚人を生かして置くつもりもない。
「アルトロなんでここに!?」
タコルを見ていると、リリアーナがよく通る綺麗な声を響かせ、驚いている。
もちろん、アリアとフレイを助けるために来たのだが、リリアーナとシス二人のことをすっかり忘れていたなんて……言えるはずがない。
「も、もちろん、お前たち四人を助ける為に来たのだ!」
助けに来たと言った言葉が嬉しかったのか、四人の表情がパッと明るくなったのだが、僅かな気の緩みを見逃さなかった魚人は、リリアーナとフレイの間をすり抜け、アリアに襲いかかった。
「もらったぁぁあああ!」
「そうはさせません!」
魚人に抜かれたフレイだったが、透かさず魚人に追いつき、アリアに体を当て横へ回避させ、魚人の鋭く伸びた刃物のような爪を刀身で受け止めた。
横へ弾き飛ばされたアリアは、弾き飛ばされた衝撃で手に握りしめていた月華を手放してしまい、フレイと魚人の足元へと月華は落ち、フレイと競り合っている魚人が月華を踏みつけた。
月華が踏みつけられたのを見たアリアは、今にも泣きそうな顔になりながら叫んでいた。
「だめぇぇええ!」
叫ぶと同時にアリアは魚人の足元にしがみつき、月華を必死に拾い上げようとしている。
突然大声を上げ、足元にしがみついてきたアリアの頭を踏みつけては、怒鳴り声を上げる魚人。
「何しやがんだ、コノヤロー! 邪魔だ、どけぇ!」
「アリア様!」
踏みつけられた拍子に、アリアの首に付けられていたレッドパールが千切れては飛び散り、綺麗な髪飾りも床に落ちて、壊れてしまった。
アリアの頭を踏みつける魚人を睨みつけ、怒りの声を上げて力一杯押し返しては、アリアの元から魚人を突き放すフレイ。
アリアはボロボロになった月華を、まるで宝物でも拾い上げように手に取り、胸の前で月華を抱きしめて涙を流している。
俺はその光景を目にして、固まってしまった。
どうして……わからない。
わからないんだ。大好きなセストから貰ったレッドパールも、ポルドから貰った綺麗な髪飾りも、壊れてしまったのに、そんな事には目もくれず、俺があげた月華を大切に握り締めるアリアが……わからない。
だけどまただ、なんとも言い難い感情が俺の中に流れ込んでは溢れていく。
これはなんだ……この感情をなんと言う?
この国に来てから、何度目だ?
人間特有の病に犯されたとでも言うのか?
わからないけど、同時に目の前でフレイと競り合う魚人に対し、怒りが内側から外側へと溢れ出してくる。
気がつくと俺は、叫んでいた。
「くそがぁぁぁあああああ!」
俺は左手で掴んでいたタコを放り投げ、フレイと魚人の元へ光速で駆け抜け、宙を舞い、憎き魚人の横顔に強烈な蹴りを叩き込んでいた。
魚人は派手な音を立て、壁に叩きつけられると同時に壁が崩れ、朦朧とした意識で俺を見上げている。
俺の怒りに満ちた鬼の形相を見て、フレイたちは凍りついたように固まっている。
俺は崩れた壁にもたれ掛かる魚人の上に乗り、何度も、何度も拳を振り下ろした。
俺の拳が振り下ろされる度に、城は激しく揺れ、天井からはポロポロと内壁が崩れ落ちていた。
頭が真っ白になり、正しく状況が把握できていなかったのか、ゆっくりと振り上げられた俺の腕を誰かが掴み、微かに声が聞こえる。
「――でる、もう死んでるわよ、アルトロ!」
掴まれた腕の方へ振り向くと、リリアーナが俺の腕を抱え込み、瞳を潤ませている。
再びゆっくりと魚人へ顔を向けると、魚人の顔面は消し飛び、失くなっていた。
呆然と顔の失くなった魚人を見ていると、フレイが恐る恐る声をかけてくる。
「ア、アルトロ王子、それ以上やられると……城が崩れてしまいます……」
我に返り辺を見渡すと、リリアーナ、フレイ、シスの三人が完全にドン引きしている。
すぐに立ち上がりアリアへ目を向けると、アリアは相変わらず月華を握り締め、肩を震わせている。
俺はゆっくりとアリアへと近づき、座り込むアリアと目線が合わさるように屈み、そっと声をかけた。
「……大丈夫か? 痛くはないか?」
アリアはゆっくりと顔を上げ、俺の目を見ると、申し訳なさそうにすぐに俯いてしまった。
「……ごめんなさい」
月華を握り締めるアリアの手を握り、俺は嬉しかったと素直に伝えた。
「なにを謝る必要があるのだ? 俺のやった花を大切にしてくれた、その気持ちだけで十分だ。そうだ! アリアの誕生日が来る度に、毎年花を贈ろう! いつかアリアの部屋を花で埋めてみせるぞ!」
俯いていたアリアが顔を上げ、瞳に涙を溜め込んだまま、笑った。
「ありがとう……アルトロ」
その笑顔は、他の誰でもない、俺だけに向けられた笑顔だった。
――次回 66話、ブラックジョーク。
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