64話 バラエティ
俺に頭を掴まれて、手なのか足なのかわからない触手をバタバタとさせながら、喚き散らすタコをひと捻りにしてやろうと思ったのだが……なんか弱い者イジメしているような罪悪感に苛まれてしまうのだ。
きっとコイツが人型だったりしたら容赦はしなかったのだが、泣き叫び命乞いをする、ペットのような見た目のタコを殺すのは気が引ける。
俺は掴んでいた手を内側へ向け、タコの顔をまじまじと見たのだが、物凄い勢いでポタポタと床に涙と鼻水を垂らしている。
タコは俺と目が合うと、今まで以上に声を張り上げ喚き散らす。
「いやぁぁぁあああああ! やぁぁめぇぇぇてぇぇええええ!」
まだ何もしておらんのだが……。
タコは八本の触手を器用にクロスさせ、訳のわからないことを叫んでいる。
「エンガチョ、エンガチョー! エンガチョバリア! もうバリアしたがじゃ……っぶれちゃダメなんだじょ!」
なんだその奇妙な呪文は?
初めて聞く呪文に周囲を警戒するが……なにもおきん。
余りにも何も起きないので、じーっとタコを見つめると、タコは頬を膨らませ何かを吹き出した。
タコは俺の顔面に目掛けて、尖らせた口から黒い液体を吹き出したのだが、俺はそれをヒュっと首を傾げ躱し、液体のとんだ後方へ目をやると、液体が付着した床が微かに溶けている。
溶解液か、コノヤロー!
せっかく命までは取らないでいてやろうと思っていたのに、よりによってこの俺に唾を飛ばしてくるとは、なんたる無礼!
頭にきたので掴んでいたタコに文句を言ってやる!
「何をする! 汚いであろう! せっかく命は見逃してやろうと思ったのに!」
「っえ! ウソ!? あぁぁ、今のは悪気があったわけじゃないんです! 愛らしいオイラを見逃してぇぇ!」
なにが愛らしいだ! 気味が悪いの間違いであろう!
タコは8本の触手を擦り合わせ、瞳を潤ませ上目遣いで媚びてきておる!
「オイラは脅されて仕方なくやっただけなんだ! 本当は物凄くいい子なんだぞ! 信じてくれ!」
「いい子は自分でいい子なんて言わんだろ! それに脅されたって誰にだ? 今襲ってきている奴らは何者なのだ? 答えよ!」
「そんなの知らないよ! オイラは魚人族のジジムに協力しなかったら殺すって言われて、仕方なく協力したんだ!」
魚人族? 間違いなくパリセミリス絡みだろうな。
しかし、鬼、竜ときて今度は魚かぁ。
随分とバラエティ豊かな連中だな。
他種族を従えるとなれば、それなりの大物という事なんだろうな。
「で、そのジジムとか言う奴の目的はなんだ?」
「だから知らないってば! オイラはここへやって来る奴を、魔技『蛸壺迷宮』で閉じ込めていればいいって言われただけなんだ!」
蛸壺迷宮? 先ほどのムカつく卑怯な技か!
このタコは捨て駒の足止め係というわけか。
現在も俺に頭を掴まれ何もできないところを見る限り、戦闘力は皆無だな。
「まぁ信じてやろう。それでお前名前は?」
「……タコル」
「よしではタコル、俺はこの上の階にいる女を助けに行くから、お前もついてこい!」
「えぇ! 裏切った事がジジムにバレたら、オイラ殺されちゃうよ!」
「安心しろ、そのジジムとか言う奴はここへ来てるのであろう? ならどの道そいつは俺が殺すから問題はない!」
タコルは黙り込んでじっと俺を見つめ考えているのだが、コイツに選択権はない。
別に逃がしてもいいのだが、またジジムとか言う奴に脅されて邪魔をされれば面倒だしな。
「考えているがお前に選択権はないぞ」
「えぇ! じゃあなんで聞いたんだよ!」
「聞いたのではない! 命令しただけだ!」
「性格の悪い人間だな! ろくな死に方しないぞ!」
「安心せい、既に二度ほど自ら命を絶っておる」
「はぁ? お前何者なんだよ!」
これ以上、タコルと話をして時間を潰すわけにもいかんな。
敵の狙いがわからん以上、さっさとアリアとフレイを連れて会場に戻らねば。
俺はタコルの頭を掴んだまま、四階へと向かい黒焦げの廊下を走り出した。
「行くぞタコル!」
「せめてその持ち方はやめてくれよ!」
タコルが細かいことを気にしているが、無視だ!
俺は廊下を駆け抜け、四階へと続く階段を一気に駆け上がっていく。
四階の廊下にたどり着き、真直ぐ延びた薄暗い廊下の先へ目をやると、アリアを背後に庇う形でフレイとリリアーナが、緑色の肌にトサカのような頭で、目玉がギョロっと飛び出たような半魚人と戦っている。
二人の背後で戦闘を見守るアリアの傍らには、寄り添うようにシスもいる。
すっかり忘れていた、リリアーナとシスの二人が、俺が泊まっていた部屋で休息を取っている事を。
しかし、フレイは剣を両手に構えているが、リリアーナは丸腰じゃないか!
そういえば、城に入る際の警備が厳しく、リリアーナの鞭は城へ持ち込めなかったんだ。
丸腰で魚人とやり合うとは、相変わらずリリアーナは無茶をする。
とにかく、四人を助けねば!
――次回 65話、踏みにじられて、咲く花。
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