60話 芽生え
俺はすぐにセノリア王とフルク王子に進言する。
「アリアはここにいない! すぐにアリアの元に人を向かわせるべきだ!」
俺の言葉を聞いたセノリア王はそれはできないと首を横に振っている。
なぜだ!? アリアが……娘が心配ではないのか!
俺はフルク王子に顔を向けるのだが、フルク王子も王同様、首を横に振っている。
そこへ今までどこにいたのか、スノーがランタン片手にゆっくりと近づき話に加わってきた。
「アルトロ王子の心配もわかるのですが、ご覧下さい!」
スノーは俺にこの光景を見て、察しろと言わんばかりに手を会場に突き出している。
「今この会場にはこの国の貴族だけだはなく、各国の王族もおられるのです。彼らに何かあっては取り返しのつかないことになります。なので今すべき事は、この会場に兵を集め、誰一人死傷者を出さぬように守りを固めることです」
俺はスノーの言葉を聞き、セノリア王とフルク王子に視線を向けると、二人はその通りだと言うように黙り込んでいる。
確かにスノーの言っていることは正しい。
敵は城を結界で包み込み、外部からの応援を断っているのだ。
今回のアリアの舞踏会に伴い、城内の警備より、城外の警備や街の警備に人員を当てていたのだ。
今城内にいる兵や騎士の数などしれている、その中でここにいるすべての者を守り抜かなればいけないんだ。
先ほどの黒ずくめが敵の主力だとは考えられない。
つまり、敵の主力がここに襲い来るかもしれないという事だ。
そうなれば多かれ少なかれ被害は避けられないかもしれない。
そんな中、アリアの元に人員を割く余裕などないのだろう。
でもそれならアリアはどうなるのだ!
アリアの元にはフレイが付いているが、それでもやはり心配だ。
俺はセノリア王に体を向け直し、王の考えは十分理解したと伝えた上で、自らの意思を伝えることにした。
「王の考えは十分理解した。この場にいる者たちを優先的に守ることは確かにセスタリカの今後に必要なことだろう。だが俺は客としてここセスタリカへ来たわけではない、俺は援軍としてここへやって来たのだ! 俺がアリアの元へ向かうことは構わんのだろ?」
セノリア王は俺がアリアの元へ向かうことを初めから計算に入れていたのか、笑ったセノリア王が頷いた。
「あぁ構わない。フルクやフレイからもアルトロ王子の強さについては報告を受けている、それに先ほどの無駄のない動きは見事であった! 流石は我が友、ゼノア王が送り込んできた息子だけはある! 今この城を襲ってきている賊などに遅れは取らんだろう! 娘を頼むぞアルトロ王子!」
父上を褒めてくれているが、父上は俺の強さなど知らんのだが……まぁいい。
セノリア王の許可も出た事だし、いっちょ暴れてやるか!
「娘の……アリアの事は生涯俺に任せるといい! 必ず守り抜いてみせるぞ!」
「先ほど婚約を破棄した者のセリフとは思えんな! 頼もしい限りだ!」
破棄などしておらん! 延期しただけだ!
いまはそんなことを言っている場合ではないな、アリアの元へ急がねば!
セノリア王との話も済み、会場の出入り口に向かって歩きだそうとした時、フルク王子が「妹を……アリアを頼む」と神妙な顔で言ってきおる。
なんだかんだ言ってフルク王子はアリアを大切に想っているのだな。
「任せろ!」
一言だけフルク王子に声をかけ、そのフルク王子の後ろで黙って一礼しているスノーにも頷き応えてやる。
会場には既に多くの兵や騎士が集まり、パニックを起こしかけていた貴族たちに「もう心配いりません、愚かな賊は我々が始末致しますので、大船に乗ったつもりで舞踏会をお楽しみください!」と声をかけ、貴族たちも意地かプライドか、賊に臆しては恥だと言わんばかりの態度で、平静を装い始めておる。
こういう場面では貴族の見栄の張り合いも意外と役に立つな。
俺は見栄を張る貴族たちの隙間を縫いながら進んでいると、ポルドとセスト王子が側近に取り囲まれながら、近づいては話しかけてきた。
「アリアの元に行くのか?」
「ああ」
ポルドはそれだけ言うと、真剣な表情で黙って俺の顔を見ているだけだった。
俺がポルドの言葉に返事をすると、一瞬セスト王子が目を細め、すぐに俺とアリアの無事を願う言葉を口にした。
「気をつけるんだ、賊は既に城内に入り込んでいるかもしれん! 私もアリアの元へ駆けつけてやりたいが、私がここを動いてしまえば多くの者に迷惑がかかってしまうだろう。アリアの事はアルトロ王子に任せよう、頼んだよ!」
「頼まれずともアリアは俺が守る!」
側近の者たちに周囲を取り囲まれている上に、立場上ここから動くことのできない二人も、アリアの元へ駆けつけたかったのか?
二人に背を向け立ち去ろうとした時、ポルドが背後から大声で意外すぎる言葉を口にした。
「アルトロ王子! あなたを誤解していたようだ、必ず無事にアリアと帰って来い! そして一緒に飯を食おう!」
意外すぎたポルドの言葉にビックリして振り返ると、ポルドは右手を突き出し、グゥっと親指を突き立てている。
思わず目を見開きポルドを凝視すると、カッと熱い何かが込み上げてくる。
そんなポルドを見て思う、誤解していたのは俺の方かもしれん。
コイツは案外いい奴なのかもしれん!
俺は気がつくと、笑顔でポルドに向かい頷いていた。
男にこんな笑顔を無意識で見せたのは、きっと初めてだった。
こいつとは本当に友達になれるかもしれん。
俺はポルドに緩みきった顔のまま返事をする。
「約束だぞ! ポルド王子!」
「あぁ、男の約束だ! アルトロ王子!」
俺たちは互いに頷き笑った、戦場になりつつあるこの場所で、芽生え始めた友情が嬉しかったのかもしれんな。
――次回 61話、舌打ち。
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