58話 嘘
両手で優しく手に取った花を顔に近づけては、香りを確かめるアリアのすぐ近くで、ポルドが真顔で失礼なことを言い放ちやがった。
「なんだ、その汚い花?」
俺が一生懸命探し出して摘んできた花を汚いだと!
この小デブ本当に殺してやろうか!
俺がポルドを睨みつけると同時に、フレイがアリアへ歩み寄り、アリアが手に持つ花に視線を向けて優しく微笑んでいる。
「月華ですね! 素敵です、アルトロ王子!」
アリアもセスト王子も、汚いと馬鹿にしたポルドもフレイの言葉を聞いて首を傾げている。
アリアは月華を知らなかったみたいで、手にする花についてフレイに尋ねている。
「月華? 有名なの、このお花?」
「とても貴重なお花ですよ! 月華は枯れることがなく、月夜の晩に月光に照らされる度に花開き、まるで妖精が宿っているように輝くんです! 花言葉は『いつもあなたを見守っている』探すのに苦労されたんじゃないですか? アルトロ王子!」
フレイはまるで俺を応援してくれるように花について語っては、俺に微笑み話を振ってくれる。
フレイの説明もあり貴重な花だと知ったアリアは静かに俺を見つめている。
そんなアリアに俺は胸を張り、堂々と男らしく口にする。
「アリアの為なら苦労などない! 少しでもアリアが微笑んでくれるのならなんだってするぞ!」
言ってやった! 今のは決まったであろう!
チラッとアリアを見ると恥ずかしそうに頬を染めては俯いている。
あれ? 今までと少しアリアの反応が違うが、気のせいか?
セストが目の前にいるから猫を被っているのか?
頬を赤く染めたアリアの姿を確認したフルク王子が、何かを企んだように微笑み、会場にいる全ての者に見えるように、両手を広げ声を張り上げた。
「お集まりの皆様方に良きご報告がございます! 我が妹であるアリア=セスタリカは、ここに居られるアイーンバルゼンの王子、アルトロ=メイル=マーディアル王子と、正式に婚約をしたことをご報告させていただきます!」
フルク王子が高らかに俺とアリアの婚約を発表すると、会場に集まった多くの者が歓声と響めきを上げ、会場は一気に祝福ムードに包まれた。
アリアは突然の兄フルク王子の発言に顔を青く染め上げては、フルク王子に顔を向け、すぐに正面にいるセスト王子へと向き直した。
セスト王子はフルク王子の発言を受け、会場の者と同じように手を叩いては、満面の笑をアリアに向けておる。
セスト王子の心からの祝福を見てしまったアリアの瞳には、今にも悲しみがこぼれ落ちてしまいそうだった。
フルク王子は一体何を考えているんだ。
確かにアリアが俺のモノになるのは好ましい……でもそうじゃないんだ。
そんな顔をさせてまで俺のモノにしたいとは、今の俺は思わないんだ。
少し苛立ちを覚えながらフルク王子へ顔を向けると、満面の笑で会場にいる者に手を振っている。
アリアは儚げに俯き、月華を胸の前で両手に握り締めたその手が、微かに震えている。
そんなアリアを見て俺は決意する。
大丈夫だアリア、俺はお前の月華となろう!
だからそんな悲しい表情はしないでくれ。
俺は深く深呼吸し、息を整える。
大丈夫、女に恥をかかせるのは最低な男のすることだ!
俺はクズだが、女を悲しませたりはしないのだ。
俺は大きく空気を吸い込み、吐き出すと同時に大声を上げた。
「その件については俺から訂正したい!」
俺の声が響き渡ると、一気に静まり返る会場。
フルク王子はビックリして俺へ振り返り、突然何を言い出すのかと固まっている。
泣き出しそうな顔で俯いていたアリアも、驚き顔を上げ、俺へ視線を向けている。
アリアと目が合った俺は、大丈夫だとアリアに頷き、話を続けた。
「実は恥ずかしいことなのだが、婚約は俺の勘違いだったようなのだ! というのも、俺がアリアにプロポーズしたのは今から10年以上前の幼い頃の事で、そんな昔のことをもちろんアリアは覚えていなかったのだが、勘違いし続けた俺がこの国に来て、フルク王子にアリアと婚約したと言ってしまったのだ。そのせいでフルク王子も勘違いしてしまったのだ!」
フルク王子が何を言っているという顔をしているが、すまんが俺の下手な嘘に付き合ってもらうぞ!
お前が勝手なことをするから悪いのだ!
「ところがアリアとアリアの父上であられるセノリア王はそんな話は聞いていないと言い、アリアに昔のプロポーズの話をしたら、アリア本人もそんな昔のことは覚えていなかったし……酷く怒られてしまった! フルク王子にも誤解を解くため話さなければならなかったのだが、いやぁ~恥ずかしくて中々言い出せなくてな! 本当に申し訳ない!」
俺の話を遠くから、豪華な椅子に座り聞いていたセノリア王は笑い、フルク王子は肩を落とし、フレイは相変わらず優しく微笑んでいた。
アリアは少しだけ肩が震えておった。
会場にいた者たちも「なんだ勘違いかぁ」「アイーンバルゼンの第三王子だからな」と呆れて笑っておる。
これで良かったのだ。
だが、俺がアリアを諦めた訳ではない。
今すぐではなくとも、いつか必ずアリアのハートは俺が射止めると運命で決まっておるのだ。その時までしばしの辛抱だ。
フレイはアリアの様子を気遣い、アリアの肩に腕を回し「一度お化粧を直しに行きましょうか、アリア様」とアリアを連れて会場を後にした。
――次回 59話、喝!
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