57話 一輪
「失礼な奴だと思っていたが、料理人と料理に対しては紳士的なようだな、アルトロ王子!」
ポルド王子の言葉を聞き、金髪イケメンが顔を向けて話しかけてくる。
「君がアイーンバルゼンの第三王子、アルトロ王子か! 自己紹介が遅れて申し訳ない、私はファゼェル国第一王子、セスト=ストレア=パンルミテと申す。よろしく頼むよアルトロ王子!」
セストだと!?
俺は突然のセスト登場にビックリしてしまい、思わず目を見開きセストを二度見してしまった。
そんな俺の行動が不可解だったのか、セストは首を傾げている。
「私の顔になにか付いているかい? アルトロ王子」
いかん! 不意のセスト登場にオーバーリアクションをしてしまい、セストに変に思われてしまった!
俺とした事がこのような事で動揺してしまうとは、情けない。
「いや、お主の……セスト王子の食べているパイが余りにも美味そうだったのでな、つい何を食べているのかと見てしまったのだ。すまんな」
セーフ! なんとか誤魔化せたぞ。
敵に悟られてはのちのち不利になるからな。
アリアは絶対に渡さんぞ!
セスト王子は何も疑っていない様子で、それどころかご丁寧に食していた物を指差し教えてくれておる。
「あぁ、このミートパイだよ! とても香ばしくて美味しいよ」
セストの美味しいという言葉を聞き、食い意地の張ったポルドがミートパイに手を伸ばし、口へと運んだ。
「うん、これは美味い! というかどれも美味いな!」
セスト王子に聞いてしまった手前、食わないわけにもいかないので一応ミートパイを食しているのだが、何やら後ろの貴族たちが騒がしく、振り返ってみると。
アリアの髪と同じ鮮やかな赤を基調としたドレスに身を包んだアリアが、会場へと続く階段をゆっくりと下りてきている。
アリアが裾を踏まないように侍女の一人が裾を手に持ち、フレイがアリアの後方をゆっくりと歩き、フルク王子がアリアの手を取りエスコートしている。
少し緊張した表情のアリアだが、その姿はとても美しく、俺はつい息をすることさえ忘れてしまう程だった。
階段を下りるアリアがこちらを見て恥ずかしそうに笑っている。
俺は嬉しくなって手を振ろうとしたその時、俺のすぐ近くにセストがいたことを思い出した。
アリアは俺に微笑んだのではなく、俺のすぐ近くにいたセストに微笑んだのだろう。
だがそれでもいい、やはり笑顔のアリアはとても可愛いのだ。
それにあんな風に笑ったアリアを見たのは初めてなんだ!
俺の知らないアリアの表情が見れただけで、俺はすごく嬉しいのだ!
小さなことを気にしても仕方のないことだ、愛する者がハッピーならそれでいいじゃないか!
愛する者の幸せを望めぬような男に、俺はなりたくなどない。
階段を下り、会場に降り立ったアリアに貴族たちの歓喜の声が場を包んだ。
皆口々にとても美しいと絶賛しておる。
俺は自分が褒められているみたいな気がしてとても気分が良かった。
階段を下りたアリアは真っ先に俺……じゃなく、セストの元に歩み寄ってくる。
「どう? セスト! この日のために新調したドレスなのよ! 似合うかしら?」
「似合っているに決まっておろう! とても美しいぞアリア! そうであろうセスト王子よ?」
セストが答える前に答えてやったわ! こういうのは早い者勝ちじゃ!
褒められて嬉しくない女はおらんからな!
しかしアリアには俺の言葉が聞こえておらんのか、セストだけを見つめておる。
「アルトロ王子の言う通り、とても美しく似合っているよアリア!」
「嬉しいわ!」
俺の言葉をなぞっただけではないかコイツ!
それなのにそんなに喜びおって、アリアのアホ!
「確かに美しいな! ドレスがアリアの髪の色と合わせているのがポイントだな」
まだ小デブのポルドの方がマシだな!
しかしセストが早くも仕掛けてきおった!
セストは近くに控えていた男に目で合図を出すと、男は透かさず高価な箱を取り出し、セストに差し出している。
セストは箱を開け、中身を取り出しアリアへ見せて、自慢げに語っておる。
「これはレッドパールだよ。大人になったアリアに似合うと思って用意したんだ」
「とても素敵だわ! 付けてもいいかしら?」
「もちろんだよ! 付けてあげよう」
くそったれ! 何が付けてあげようだ!
そうやってアリアの肌に触れようとするむっつりスケベのド変態野郎が!
アリアも気安く肌を触れさせおって!
姫としての自覚が足りんのじゃないか!
すると今度はポルドまでもプレゼント攻撃を仕掛けてきおった!
ポルドは誇らしげに髪飾りをアリアへと差し出しておる。
「とても素敵です、ポルド王子! 大切にしますね!」
「気に入って貰えてなによりだ!」
何が気に入って貰えてよかっただ!
お前が作ったわけじゃないだろうが!
どいつもこいつも金にモノを言わせやがって!
俺だって見てろよ!
「アリア! これは俺からだ!」
俺は隠し持っていた一輪の花をアリアへ差し出した。
これは昨日俺が摘んできた花だ。お前らのように高価なものではないが、俺が心を込めて摘んだ花だ!
俺の差し出した花を見て、アリアが一瞬微笑んだように見えた。
「ありがとう……嬉しい」
――次回 58話、嘘。
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