51話 誓い
な、なんだ? アリアが国を出て行くとはどういう事だ!
アリアの声を聞いて慌てた様子で廊下を駆け、勢いよく扉を開けて部屋の中に入っていくフレイ。
フレイの後に続いてゆっくりと部屋へ入ると、アリアとフルク王子がまた言い合いをしているようだ。
「お兄様は私の幸せよりも、国の……ご自分の立場をお考えになっているだけです!」
「私は自分の立場など考えておらぬ! ただこの国を、セスタリカの未来を思って言っているだけだ! 国に住む者たちのことを考えず、わがままを言っているのはアリアの方だろ!」
「幸せになる事がわがままだとおっしゃるのですか――」
二人の口喧嘩を見て、嘆息しては額に手を当て、肩を落とすフレイ。
気落ちしているフレイの背後を通り、部屋の中央に設置された長方形のテーブルに腰を掛ける。
「アリア様もフルク王子もおやめ下さい! アルトロ王子がお見えですよ!」
アリアとの口喧嘩に夢中になり過ぎて、俺が部屋のテーブルに腰を下ろしていたことにも気づかなかったようだ。
「おぉ! いつの間に来ていたのだ義弟よ! ほらフレイ、すぐに我が義弟にあったかいお茶をお出しするのだ!」
もうすっかり俺を義弟だと思っているなフルク王子は。
だがアリア本人には、その言葉は油だったようだぞ。
怒りで顔を歪めておるわ!
「私の騎士をメイドか何かと勘違いしないでもらえますか? お兄様!」
アリアの一言でフルク王子はアリアを睨みつけ、また二人の間に火花が飛び散っている。
一体いつまでやるつもりだ、この兄妹は。
「まぁ、取り敢えず座って話をしようじゃないか。何か話があって俺を呼びつけたのだろう、フルク王子?」
フルク王子は深呼吸して息を整えてから椅子に腰を掛け、そのフルク王子の姿を確認して、アリアも不満そうな態度ではあるが、ゆっくりと席についた。
探りを入れても仕方ないので、単刀直入に話を切り出す。
「で、話というのはなんなのだ?」
フルク王子はテーブルに肘を突き、手を組んで、穢れなき眼で俺の目を見つめながら話を切り出した。
「義弟であるアルトロには、一度私と共に王都タリスタンに行って欲しいのだ!」
なぜ俺がタリスタンに行かねばならんのだ?
タリスタンにはセスタリカに来た初日の王への謁見以来、行ってはおらんが、あそこには何もなかったぞ!
今回のオスターでの事を報告に行くとしても、既に馬を走らせているのではないのか?
わざわざ俺が報告に出向く必要もないだろう。
それなのになぜ俺が行かねばならんのだ?
「別に構わんが、俺がタリスタンに出向く理由はなんなのだ?」
フルク王子は組んでいた手の上に顎を置き、優しい微笑みを向けてくるのだが、俺にはその微笑みが少し不気味に見えた。
「実は来週はアリアの18歳の誕生日なんだよ! そこでタリスタンにあるセスタリカ城で、アリアの18歳を記念した舞踏会が開かれるんだが、婚約者であるアルトロがこの国にいるのに、参加しないわけにはいかないだろう?」
なるほど! それはビックイベントではないか!
アリアの記念すべきバースデーを祝うのは当然だな。
しかし、アリアは不機嫌が増しておる。
婚約者である俺がアリアの18歳を記念するバースデーに参加するということは、そこに集まった多くの者に、俺が婚約者だと知られるということだ。
それをアリアは拒んでおるのか。
「だから、何度も言うように今年は開かないと言っているでしょ! それに戦争中にそんな事をしている暇はないはずです!」
それは違うな。
戦争中だからこそ、舞踏会を開きセスタリカは安泰だというところ見せる必要があるのだ。
それに18は成人になる大切な年だ、一国の姫の成人の年に誕生祭が開かれなければ、セスタリカの現状は好ましくないと判断されかねない。
そこで舞踏会を開催し、他国にセスタリカの現状は好ましいと思わせることが国を繁栄させる上でも必要となってくるだろう。
そうしなければ、貿易などにも少なからず影響が出ることは容易に想像がつく。
他国に弱みを見せるということは、それだけ敵を作り、セスタリカを更なる窮地へと追いやってしまう事になるのだ。
その事を十分に理解しているからこそ、フルク王子も一歩も引くことはないのだろう。
「戦争中だからこそ、開催する必要があると何度も言っているだろう! 例え俺が開催しなくてもいいと言ったところで、父上がお許しになるわけないだろう! それに恐らく、既に招待状は多くの者の手に渡っている。今更舞踏会は中止です、など言えるわけがない!」
まさに正論だな。だがその正論は頭で理解できても、アリアの心がそれを拒むのだろう。
原因はやはり俺か。
アリアを見ていると少しだけかわいそうな気もするな。
現に今も、テーブルの下に隠している拳を震わせている。
俺はアリアが欲しい、それは確かだ。
だが、心を縛り付け、傷つけてまで俺のものにしようとも思っていないのだ。
なにより俺は、女を悲しませたくはないのだ。
「心配するなアリアよ! 婚約の事も何もかも、俺は決して口にはせん。お前の気持ちを一番に優先し、行動することを誓うぞ! この言葉に嘘や偽りはない! アルトロ=メイル=マーディアルの名に誓おう!」
アリアは俯いたまま、小さく頷くだけだったが、少しは安心したようだ。
話が一段落すると、フレイが香ばしい紅茶を運んできてくれた。
それからしばらくフルク王子と談笑し、紅茶を飲み、俺は屋敷を後にした。
――次回 52話、姿見。
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