48話 ポジティブ
魔神の肉体が完全に消滅すると、部屋にフルク王子の歓喜が響き渡り、先程まで衰弱していたとは思えぬ程に、喜びに満ちている。
「すごい! 凄すぎるぞアルトロ王子!」
素直に俺を称えてくれるフルク王子は、アリアに顔を向け、予想外の言葉を口にする!
「良かったなアリア! 婚約者のアルトロ王子は、この国を救う英雄となる人物かもしれんぞ!」
婚約者!?
どういう事だ!?
俺とアリアがいつ婚約したというのだ!
もちろんアリアを妻にすることは俺も嫌ではない、むしろ好ましい!
しかし婚約なんて聞いてはおらん!
それに、兄であるフルク王子に俺のことを婚約者と言われたアリア本人は、全然嬉しそうではない!
むしろ嫌がっておらんか?
「お兄様! 私はアルトロ王子と婚約などした覚えがございません! それに、私には既に心に決めた御方がおります!」
アリアの言葉を聞いたフルク王子は、少し不機嫌な表情でアリアに詰め寄っておる!
「失礼だぞアリア! アルトロ王子の前でそのようなことを口にするなど! アルトロ王子は婚約者であるお前を助けるため、アイーンバルゼンより駆けつけてくれたのだぞ! お前はそれを分かっているのか!」
兄フルク王子の言葉に下唇を噛み締め、俯いてしまったアリア。
そんなアリアを心配そうに見守っているフレイのすぐ近くで、こっそり部屋から抜け出そうとする忍び足のアイン。
「コソコソと一体どこへ逃げるつもりだ、アイン?」
俺の声に反応し、慌てて取り繕うアイン。
「なんのことですかアルトロ王子! いや~しかしホント助かったぜ、あのまま奴らに捕まってしまっていては、フルク王子を救出することができなかっただけに! いや~アルトロ王子がいてホント助かったさ!」
なんて調子のいいやつなんだこいつ!
まぁ嫌いではないがな!
しかしコイツが裏切り者であることは変えようのない事実だ!
嫌いじゃないだけに少し残念だ。
主であるフルク王子の前で、化けの皮を剥いでやろうと思ったのだが、その必要は無いようだ。
「アイン……もうよせ。お前が俺を裏切り、敵に寝返っていたことはなんとなくだが俺にはわかる。……幼い頃からの付き合いだ」
フルク王子は知っていたのか、友であり、自身の騎士であるアインが敵だということを。
それを知った上であのように笑うのだな……。
フルク王子の悲しげな笑顔を見たアインは肩を落とし、項垂れその場に座り込んでしまった。
今にも泣き出しそうなアイン。
いくら後悔したところで、大切な人を裏切った事実は消えたりしないのだ。
人は脆い、どれほどの信念を持つ者であっても、自身の想像を遥かに超える何かに遭遇した時、いとも容易くそれは崩れ去るのだ。
もちろん同情の余地はある。
アインは恐らく何者かと接触し、勇敢だった騎士の心を折られたのだろう。
恐怖は人を支配し狂わせるのだ。
フルク王子のあの笑顔を見てしまい、取り返しのつかない過ちと、後悔にプライドも消え去り声を上げるアイン。
「ずまな゛い……ほん゛どうにすまない゛」
フルク王子はアインへと歩み寄り、腰を落としアインの肩へそっと手を置いた。
「今日までご苦労であった。処罰を無くすことはできないが、刑を軽くしてもらえるよう、私からも父上に進言しよう。」
フルク王子……いい奴過ぎるだろ!
自分は死にかけたというのに、友の過ちを許し気遣うか。
このような者がセスタリカの王に就いたら、良き国になるだろうな。
まぁ、俺と同じ第三王子には無理か。
それよりも!
アリアが俺の婚約者ということの方が気になる!
そこで、ゴホンと一つ咳払いをして、注目を集めてから聞いてみる!
「その、アリアが俺の婚約者とはどういう事なのだ?」
婚約者という言葉に反応したアリアが、すぐに否定を口にする。
「それはお父様たちが勝手に決めた事です! そんなものは無効に決まっています! 変に期待でも持たれたら迷惑よ!」
アリアの態度が気に食わなかったのか、フルク王子が立ち上がり、アリアにお説教をしている。
「お前は何も分かっていない! ここでお前とアルトロ王子の婚約の話が破棄されてなかったことになったら、アルトロ王子は自国に帰られてしまうじゃないか! そうなったら誰がこの国を救うのだ!」
「国のために私は犠牲にならなくてはいけないと言うの! 好きな人とさえ結ばれてはいけないというの!? 冗談じゃないわ!」
「政略結婚などどこの国でも当然のことだ! もう少し姫としての自覚を持つんだな!」
俺が目の前にいるのに、フルク王子はサラっとえげつない事を口にするな!
それにこの兄弟喧嘩、そろそろ止めないとフルク王子の体力も持たんだろ!
「婚約の件は確かに父上たちが決めたことだ、今は気にすることでもない! それよりもここを早く出て、仲間たちと合流がしたい!」
二人の口喧嘩はなんとか収まったのだが、二人とも全然納得していないようだな。
ヒーロー作戦は見事に大失敗で終わってしまったが、まぁ失敗知らずの俺にとっては、貴重な体験が出来たと前向きに考えるか。
何事もポジティブが一番だ!
――次回 49話、声。
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