46話 駄々っ子
俺はもっとアリアが喜んでくれると思っていたのに、やはり世界が俺の思い通りにならなくなってきておる。
少し落ち込む俺の後方で、驚きと歓喜の声を上げて素直に俺を絶賛してくれるフレイ。
「す、凄すぎです! アルトロ王子!」
そうだよ。
これだよ、この反応だよ!
これが正しい反応なのだぞアリア!
女は素直が一番いいのだ!
素直に褒められると男は喜び、その度に力を増していくというものだ!
その点、フレイはちゃんとわかっておるの!
ますます気に入ったわ!
危うくネガティブという名の魔物に取り込まれるところであった!
ネガティブ男など女ウケが悪いに決まっておるわ!
俺には合わぬものだ!
気を取り直し、残った死刑囚ノルバストに顔を向けると、ノルバストの顔はさっきまで確かに驚愕に目を丸くしていたのに、今は神妙な面持ちで俺を見ている。
ノルバストはそっと頷き口を開いた。
「なるほど、ただのクズではなかったというわけか。 だがお前では俺には勝てんぞ!」
ノルバストのこの自信、やはりあれを所持しておるな!
だがそれは愚策だぞ!
ノルバストの言葉に皆息を飲んでいる。
ノルバストは拳を握り締め、俺に突き出し微笑んでいる。
「これが何かわかるか? アルトロ=メイル=マーディアル!」
ノルバストの突き出した中指にはめられた石の指輪。
間違いない、魔神石だ!
魔神石とは魔神の魂の一部を封印した石のことだ。
魔神石は身につけているだけで、魔神の魔気を直接体に触れていることになる、そのため常人が身につければ、間違いなく魔気に当てられ狂人と化し、自我を失う。
だがノルバストは自我を保っておる。
ノルバストは見た目によらず、強靭な精神力の持ち主ということなのだろう。
しかし魔神石は身につけているだけではこれといった効果はない。
魔神石の真の力を解き放つには、石とひとつになるしかない。
それはつまり、魔神の魂の一部を喰らうということだ。
一部とはいえ、人間が魔神の魂なんぞ喰らえば、逆に喰われるのがオチだ!
早い話が自ら供物になるということだ。
コイツはそれを分かっているのか?
恐らくは知らないのであろう。
ノルバストに魔神石を授けた何者かが、こやつを生贄に捧げ、魔神を復活させようと企んだのだろう。
魔神石のような特殊なものを所有している時点で、ノルバストに魔神石を授けた者が魔族という可能性は高い。
ノルバスト程度の者に魔神石を授けるということは、複数の魔神石を所持している可能性がある。
だとすれば、人間に複数の魔神石を管理などできるはずがない!
複数の魔神石を人間が管理なんてしたら、確実に狂人と化すか、廃人と化すかのどちらかだ!
やはりパリセミリスは既に魔族の手に堕ちているのだろうな!
魔神石について何も知らないのか、ノルバストが指輪を見せつけながら高笑いを上げている。
「これは魔神石と言ってな、選ばれし者だけが所有することを許され、その者を上位の存在へと変える力を秘めた聖なる石だ! 貴様に見せてやろう、神にも等しい力というものを!」
ノルバストは高らかに宣言し、突き出していた拳を口元に向け、中指に光る指輪の石を歯で引き抜き、歯で石を咥えて見せつけるように微笑んだ!
嬉しそうに自らの肉体と魂を供物に捧げるコイツは、もはや滑稽だな。
コイツに真実を教えてやる義理もない。
ただ残念なのは、コイツを俺自身の手で処刑し損ねたということくらいだな。
まぁその分の憂さ晴らしは、コイツの肉体を供物に現れた雑魚で我慢してやろう!
さぁ、自ら魂の救済すらない無へと旅立つがいい!
さらばだ前代未聞の阿呆よ!
ノルバストは満面の笑顔で咥えていた魔神石をゴクリと飲み込みおった!
ノルバストの行動に、アイン以外のアリア、フルク王子、フレイの三人は固唾を呑んでいる。
魔神石を飲み込んだ直後、ノルバストは自らの首を掻き毟り、悶え苦しみ始めた!
「っぁああ……ぁぁああぐぁあああぐぁ!」
その光景を見てフレイはたまらず口を開いた!
「な、なんなんです! あれは!?」
フレイが驚くのも無理はない。
悶え苦しむノルバストの体は、ブチブチと音を立てながら風船を膨らましたように、見る見る膨れ上がっていくのだ。
ノルバスト自身、最期の時を迎えようやく自覚したのか、おろおろ声でうわ言のように助けを求めている。
「だず……げでぇ、じゃれ……が」
助けてくれとぬかしおるノルバストが、誰に助けを求めているのかは知らんが、往生際の悪いノルバストに事実を教えてやる。
「誰も助けたりせん! 諦めて早く死ね! 人間時には諦めも必要だ!」
「じょん……な゛、ち゛やだ」
おぉ! これは俺も得意な駄々っ子攻撃ではないか!
最近は駄々っ子する相手がおらんの、兄様や姉様は元気にしておるかな?
しかし随分と長いことかかるな!
この隙に殺してしまうぞ! 早くしろ!
なんて思ったのも束の間、どうやらノルバストの魂は完全に消滅したようだ!
そして目の前には、まん丸と膨れ上がり紫色の皮膚をした、醜い見た目の魔神が姿を現しおった!
――次回 47話、いただきます。
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