45話 どうしてそんな顔をする?
ノルバストとドウンに俺の言葉は届いていないのか、ビックリし過ぎて思考が停止してしまったのか、固まっている。
ノルバストもドウンも俺の足元のひび割れた床を見て、ゆっくりと視線を上げ、俺の顔を見ては相変わらずのマヌケズラで鼻水を垂らしている。
縄で体を縛られ自由を奪われているアリアもフルク王子も、この俺を見て固まってしまっている。
二人と同じように捕まっているアインは、ノルバストとドウン同様に青ざめている。
味方のはずの俺が強ければ、何か不都合でもあるのだろうか?
なんて皮肉を込めてチラッとアインに視線を向けると、アインは一瞬ビクッと体を震わせた。
そのアインの反応からもわかるように、やはり疚しいことがあるのだろう。
だがコイツの処罰は後回しだ。
今はマヌケズラのこの二人の死刑囚の、死刑執行が先だな!
マヌケズラの二人の死刑囚は、ようやくスカスカの脳みそが活動を再開したのか、執行人である俺に向かって大慌ての様子で喚いている。
「な、なんだ貴様!? なにをした! なぜ兵の首が一斉に刎ね落とされた!? それにどうやって床を……ありえん!」
「と、トリックですよ! こやつは何かトリックを仕掛けていたのでございますよ、ノルバスト様! でなければこんなクズ王子に、このようなことができるとは思えません!」
ノルバスト以上にドウンは阿呆だな!
トリックを仕掛けるも何も、この部屋に今やってきた俺に、どうやったらそんなトリックのネタを仕込む時間があったというのだ!
まともな考えもできぬ程に混乱しているのだろうな。
雑魚以下だな。
ギャギャと喚き散らすマヌケ二人に、トリックなんてないことを教えてやるか。
「トリックってなんだよ! アホだろお前ら! それにもうわかっていると思うけど、追い詰められているのは俺たちじゃなく、お前らだからな!」
死刑囚が異議ありと大声で反論しているが、本来なら死刑囚が異議を唱えることなど許されんのだぞ!
「うそだぁぁあああ! 間違いなくトリックに決まっている! 他の者の目はごまかせても、私やノルバスト様の目は誤魔化しきれぬぞ! トリックを使い、相手を屈服させるのがお前の狙いなのは見え見えだ! そんな見え透いた手に引っかかる私やノルバスト様ではないわ!」
あくまでトリックと言い張る死刑囚に、現実を教えてやろう!
まぁ現実を知る時、コイツの自我も肉体も消滅しておるがな!
「良かろう! それではお前から処刑してやろう!」
「ほざくなペテン師が!」
俺は軽く腰を落とし、拳を握り締め、両手を顔の前で構え、ファイティングポーズを決める。
俺のファイティングポーズがあまりにかっこよかったのか、驚いている死刑囚ドウン!
「な、なんのつもりだ!」
「なに簡単なことよ、ここからお前に俺の右ストレートをくれてやろうと思ってな!」
俺の言葉に笑っているマヌケが、横のマヌケに同意を求めている。
「聞きましたかノルバスト様! あのクズはこの距離から私を殴るとおっしゃっております! トリックを使い腕を伸ばすとでもいうのでしょうか、ぷっ。馬鹿馬鹿しい!」
「……」
「ノルバスト様?」
ノルバストは既に笑ってなどいない、真剣な表情のままドウンに視線を向け、すぐに俺へ視線を戻した。
ドウンより少しはましか。
恐らくノルバストは俺が全身に纏う闘気を感じ取ったのだろう。
そもそもドウンはこの街の領主というだけで、戦闘力が皆無なのに対し、ノルバストはパリセミリスから送り込まれた兵士でもあるのだ。
ドウンとノルバストでは、実力差が天と地ほど離れているのだ。
まぁ俺からしたら大差ないのだが。
「おいドウン! ごちゃごちゃ言ってないで歯を食いしばれ!」
ドウンは微かに震え始めている。
きっとノルバストの態度を見て、何かを察したのだろう。
察したところで俺の右ストレートからは逃れられない!
俺は腰を軽くひねり、拳に闘気乗せ、十数メートル先にいるドウンに軽めの右ストレートを放った。
「まってく――」
俺の右ストレートから放たれた風圧という名の波動は、ドウンの上半身を吹き飛ばし、ドウンが立っていた後方の壁を木っ端微塵に粉砕した。
放たれた拳の速さに、すべての音が遅れて響き始める。
死刑囚ドウンの上半身が破裂し、屋敷の壁が消し飛ぶ音も1秒ほど遅れて響き始め、反響した。
今日この僅かな間で、この場にいる者たちはいったい何度驚愕に目を丸くするのだろうな。
その瞳に絶望しか写していなかったフルク王子の瞳にも生気が戻り、しっかりと俺を見て囁いたフルク王子の声は、静まり返った部屋に確かに聞こえた。
「……救世主だ! 彼こそがこの国を、滅びゆくセスタリカを救う救世主だ!」
涙を流し始めたフルク王子を、息を飲み見つめるアリア。
アリアもゆっくりと俺に顔を向けるが、その表情はどこか冴えない気がする。
そしてゆっくりと視線を落とし、悲しそうに俯いてしまった。
俺にはその理由がわからなかった。
ただそんなアリアを見ると、なぜか胸の辺りが少しだけ苦しかったのだ。
――次回 46話、駄々っ子。
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