44話 ミジンコ
部屋に駆け込んできた兵は迷うことなく、俺とフレイを取り囲む形で武器を構えている。
用意周到に計画されていたように手際のいい兵たち。
もう間違いなく初めから仕組まれていたのだろう。
武器を構える兵たちの隙間からアリアを見ると、悲壮な顔をしている。
兵を呼んだドウンもノルバストも相変わらず笑っている。
俺の背後にいたフレイは、兵が部屋に入ると同時に透かさず漆黒の剣を抜き取り構えている。
その顔は緊張した様子で額からは汗が流れている。
俺たちが兵に囲まれた様子を見て、高笑いするドウンが誇らしげに口にする。
「どうですかな? クズ王子様。私のプレゼントは気に入ってくださいましたかな? おやおや、表情があまり優れぬようですが、私のプレゼントはお気に召しませんでしたか? っぷ」
表情があまり優れないって、別になんにも変えとらんがな!
この死刑囚の目には都合良く見えているのだろう、めでたい奴だな。
ドウンに同調するように、ノルバストもめでたいことを言い始めておるわ。
「安心しろ! お前は色々と使い道があるから命までは取らん! だが脱走したそこの女はここで死んでもらうとする! これは今後お前が脱走しようなんて考えを起こさないための戒めとする!」
ノルバストの言葉を聞いたアリアの表情は青ざめ、体力を消耗した体に力を込めて叫んでいる。
「逃げなさいフレイ! 私のことは放っておいてあなたは逃げるの! 私のことは大丈夫だから! 私とフルクお兄様には利用価値があるから、こいつらは私たちをすぐには殺さない! 生きていれば必ず、お父様たちやセスト王子がきっと私たちを助けに来てくれるわ! 希望はあるの! だからフレイは逃げて!」
アリアは必死に叫んでいるのだが……アリアには俺が見えていないのだろうか?
フレイの心配ばかりで俺のことなどミジンコ程も気にかけておらん!
それどころかまたセストだ!
ここまで助けに来た俺よりも、セストとかいう奴だの方がいいというのか!
なんでだ! こんなのおかしいだろ!
俺の予定とは違いすぎる!
いくらなんでもガン無視は酷すぎないか!
それともまだアリアを助け出せていないからか?
アリアを救出したらヒーロー大作戦は成功するのか?
だけど一言くらい声をかけてくれてもいいじゃないか!
確かにアリアにとっても、フレイは特別な存在だということはココル村の時からわかっていた。
けど、俺だってここまで来たんだぞ!
馬で三日もかけて来たんだぞ!
言葉をかけてくれるどころか俺の顔すら見ていない。
こんな仕打ち酷すぎるだろ!
俺はアリアに嫌われていたのか?
そんなわけない! あるはずない!
あっていいわけないだろう!
俺は王子だぞ! 元魔王だぞ!
これまでだっていつでも、世界は俺のために存在していたんだ!
俺は特別な存在なんだ!
そうだ!
アリアを助け出せばうまくいくはずだ!
俺は一瞬混乱しかけていたんだが、そんな俺のことなどつゆ知らづ、フレイもアリアに向かって叫んでいる。
「アリア様! 私は逃げたりなどいたしません! あなたの、アリアの騎士になると決めたあの日から、私はあなたを守ると決めた! アリアのためならこの身など惜しくはない! 私は気高きアリア=セスタリカの騎士なのですから!」
フレイの言葉に涙を流すアリアは、もう何も言えなくなってしまったのだろう。
騎士であるフレイに対し、これ以上逃げろということは、フレイの騎士としての誇りを傷つけてしまうことにもなるのだから。
そんな彼女たち二人の会話を聞いたノルバストは、嘲笑いながら口にする。
「なにが気高きアリア=セスタリカの騎士だ。笑わせるな! 女の分際で騎士を名乗るとは身の程をわきまえろ! それにゴミのようなこの女のどこが気高い! 無様に泣いているだけだろ! くだらん」
「おっしゃる通りでございますノルバスト様! 女に騎士を名乗らすなどセスタリカも地に落ちたものです。見切りをつけて正解でしたよ」
調子よくノルバストの言葉にごまをするドウンが、時代遅れなことを抜かしておる。
死刑囚二人の言葉に怒りを必死に抑えているフレイ。
そんなフレイに強気な態度でドウンが言い放つ。
「なんだその目は! もういい! さっさと殺してしまえ!」
ドウンの命令に従い、30人近い兵が今にも俺たち二人に襲いかかろうとしている。
俺はそんな兵たちに警告する!
「よく聞け兵たちよ! 今すぐ武器を収めた者の命までは奪わん! しかし武器を収めぬ者はこの場で死ぬと思え!」
俺の言葉に耳を傾ける兵などおらず、俺の言葉を聞いたドウンが兵を急かしている。
「イカれているなあのクズ王子は! この状況でよくもまぁ言えたものです。早くやってしまえ!」
急かさせた兵たちが、一斉に武器を突き出し襲い来る。
そんな兵たちに少しは同情もするが、襲い来るものに優しくするような俺ではない。
「……俺の加速」
俺は小さく呟き人技を発動させた。
――次の瞬間、この部屋で生きている全ての者が驚愕する。
兵を急かせたドウンもノルバストも目を見開き、口を大きく開け驚愕している。
二人だけではない、俺の背後にいたフレイもアリアもフルク王子も、そして小賢しい演技をしているアインも、皆目を丸くさせ固まっている。
なぜなら俺たちに武器を突きつけ向かってきた兵たちの首が、一斉に刎ね落ちたのだ!
俺は少し右手に付いた血を払うように軽く手を振り、右足で軽く地面を踏みつけ屋敷を揺らし、床を軽く破壊してから、二人の死刑囚に死刑執行を伝えた。
「覚悟はできてんだろうな? 殺すぞ!」
――次回 45話、どうしてそんな顔をする?
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