43話 俺裁判
確かに扉の中から魔の気配がするのだが、なにか違う。
この気配は純粋な魔族の者の気配ではない。
異質な魔の気配。
心当たりはひとつあるのだが。
仮に俺が考えていることが正しければ、愚かだとしか思えぬ行為。
そしてそれを授けた者がいるのなら、パリセミリスの背後にはそれなりに力を有する魔族が潜んでいるのは間違いない。
真実は目の前の扉の先にあることは間違いない。
行くとするか!
扉の前に立ち、ギュッと拳を握り締め、大切な主であるアリアへの想いを募らせるフレイの覚悟を確かめる。
「フレイよ! 覚悟は出来ておるな?」
真剣な表情で振り返ったフレイが頷き応える。
「はい! この中にアリア様がいるのです、躊躇ってなどいられません! たとえこの命に代えても必ずお救い致します!」
良い心がけだが、お前の身は俺が保証しよう、フレイ!
俺は覚悟を口にしたフレイに頷き、ゆっくりと扉の前に立ち、両扉に両手を伸ばし、フレイに言葉をかける。
「では行くぞ!」
俺は一言フレイに声をかけると、両手に力を込め扉を押し開けた。
扉の中はかなり広く、ここで戦闘が起こることを予め予期していたのか、部屋の中は物が少ない。
すぐに部屋の奥へ目をやると、真っ先に縄で体を縛られ、自由を奪われたアリアの姿が視界に飛び込んできた。
アリアはここ数日あまり食事を与えられていなかったのか、或は与えられても食べなかったのか、美しいアリアの顔はやつれている。
アリアの近くにはアリア同様、捕らえられていたフルク王子と思われる、20代前半の赤茶色の髪の美青年がいる。
フルク王子と思われる人物は、上半身裸で遠目からでもひと目でわかるほど、体中に傷があり、見るからに危険なほど衰弱している。
そのフルク王子の隣にはアインが同じように縛られている。
俺が用を足しに行くと言ってからしばらくして屋敷に来たのだろう。
アインの他には共に屋敷に潜入する筈だったレジスタンスの姿は見当たらない。
アインと共にここへ来ていたのなら、既に殺されたということなんだろう。
ただ、捕まっているアインはどう見ても無傷だということ!
抵抗せずに投降し捕まったとしたら、なぜ他のレジスタンスはいないのだろうな!
まぁもうどうでもいい!
そして彼らの側には二人の男がいる。
一人は痩せた40代程の気弱そうな見た目の貴族。
おそらくコイツがこの街オスターの領主、ドウン=ドバンだろう。
その横には高価な衣服に身を包み、両手の指に趣味の悪い指輪を何個もはめた小太りの成金が立っている。
勢い良く扉を開けた時、俺の背後にいたフレイもすぐにこの光景を視界に捉え、切羽詰ったような声で大声を上げた。
「アリア様ー!」
フレイの声が部屋中に響き渡り、辛そうに項垂れていたアリアが顔を上げ、こちらを見た!
アリアだけではない、この部屋にいる全ての者が一斉にこちらに視線を向けてきた。
アリアは目を見開き何かを口にしていたが、声が小さくてここからでは距離がありすぎてよく聞こえない。
フルク王子と思われる人物も虚ろな目でこちらを見ているのだが、その瞳にはもう絶望しか写ってはいないのだろう。
フレイの声の残響が部屋から消えると、小太りの成金が嬉しそうに満面の笑で話しかけてきた。
「ハハハハ、ようこそアイーンバルゼンの第三王子、アルトロ=メイル=マーディアル王子! 心からお待ちしておりましたよ!」
よほど俺がここへやってきたことが嬉しいのか、上機嫌の小太りはこちらが聞いてもいないのに自ら自己紹介を始めた。
「この俺……ではなく、私はパリセミリス国のノルバスト=ザラダバルと申す者でございます。以後お見知り置きをクズ王子! おっとこれは失礼! つい本音が出てしまいました!」
なにがそんなに愉快なのかは知らんが笑っておる。
ノルバストと名乗る者の横にいる気弱そうなおっさんも一緒になって笑っておる。
余程ノルバストの発言が面白かったのか、ドウンらしき気弱そうなオッサンは指で涙を拭いながら話し出した。
「いやいや本音というものはついうっかり口から出てしまうものですからな。仕方のないことですよノルバスト様! っあ! これは失礼を! 自己紹介がまだでございましたね。私はこの街の領主を務めさせていただいております、ドウン=ドバンと申します、クズ王子様! っぷ」
「「ワハハハハハハ」」
本当に何がそんなに愉快なのか、二人して目に涙を浮かべ腹を抱えて笑っておる。
俺はこれまでも多くの貴族たちに馬鹿にされてきたのだが、それはあくまで影で言われてきただけで、ここまで面と向かって言われるとさすがにムカつくな!
こいつらは問答無用で死罪だな!
この判決をこいつらが不服の申し立てをし控訴したとしても、即却下だ!
誰がなんと言おうと却下じゃ!
俺裁判ではもはや判決は覆らん!
それに、やはりあのノルバストとか言う奴からは魔を感じおるわ!
俺の後ろに立つフレイもアリアのいたいけな姿を目にし、ブチギレておる。
さて、処刑執行と行くかの!
俺が一歩足を踏み出すと、ドウンがまた話しかけてきおる。
「おっとお待ちをクズ王子様! 私からのプレゼントがございます! 受け取って頂けますかな?」
ドウンはそう言うと二度手を叩き、それを合図に部屋の右側の扉から兵が30人程駆け込んできた!
――次回 44話、ミジンコ。
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