41話 守るもの
フレイの言葉を聞いた口ひげオヤジは怒りで顔を引きつらせている。
「俺がクズにも変態のお前にも勝てないだとぉお! 身の程をわきまえぬ小娘がぁ! すぐにこの剣の錆にしてくれるわぁ!」
口ひげオヤジは右手に持つ剣を顔の横で構え、階段から勢い良く飛び跳ね、フレイの頭上から剣を振るった!
対するフレイは動じることなく、俺が貸してやった漆黒の剣を素早く抜き、両手で剣を握りしめ正当派と呼ぶべき構えで口ひげオヤジの襲い来る剣を、美しいき漆黒の刀身で受け止めた。
屋敷に刃が衝突し合う音が響き渡り、同時に衝撃波が室内の大気を振動させた。
少し離れたところから二人を見ていた俺の髪を靡かせる風が心地よく、俺の全身を通り抜けていく。
風が俺を吹き抜けた直後――
激しい剣の打ち合いが始まった。
耳につく鉄のぶつかり合う音を何度も響かせながら、刃と刃が擦れ合い生じる摩擦から生まれた火花を撒き散らしながら、お互いに一歩も引くことなく打ち合っている。
ここから見る限りお互いにまだ全力は出してはいないと見える。
互の力を測り合っているのだろう。
「少しはやるようではないかぁ!」
「言ったはずです、あなたでは私に勝てないと!」
互いに一歩も引かぬ剣の応酬の中、二人の言葉による応酬も始まった。
「まだ言うかぁあ、小娘ぇええ!」
「何度でも言って差し上げますよ! あなた如きではアルトロ王子はもちろん、私にすら敵わないとね!」
「なにがアルトロ王子だぁ! あのようなクズにご執心とはな! そのカッコから察するに、噂通り女好きの腑抜けに調教でもされたか! この変態娘がぁあ!」
「っな! 調教だと!? アルトロ王子は常に紳士でおられる! 噂など所詮噂でしかない! 噂を鵜呑みにする程度の低い者にはアルトロ王子の偉大さなど知り得るはずがない!」
フレイの言葉を聞いていて少し気まずさを感じるのも事実だが、少し調教してみいたいなぁと思ったのも事実だ!
そんな事は口が裂けてもこの場では言えないだろう。
この状況でそんなことが言える阿呆という名の猛者がいるのなら、是非会ってみたいものだな。
きっとそいつとは親友になれるだろう!
だが今はそんなことを考えている場合ではない。
それくらいの常識は備えている。
なので今はフレイを見守ることにする。
二人は剣の応酬をやめ、互いに後方へと飛び、体制を立て直している。
しかしその間も二人の口喧嘩は終わる気配がない。
口ひげオヤジは後方へ飛んですぐに嘲笑うような皮肉な笑い声を上げ、瞬時に眉間にシワを寄せては声を荒げた。
「偉大だと!? 笑わせるな! 自国の貴族や一部の平民にすら見下されている前代未聞のクズ王子が偉大だと! 頭おかしいんじゃないのか? 噂では平民だろうが侍女であろうが、見境なしの猿だというではないか!」
「アルトロ王子はあなたのように人を地位や権力で見定めたりしないだけです! それに王族なら側室くらい居るのが当然というもの! それを何も知らない者たちが勝手なことを言っているだけです!」
「お前はセスタリカの人間であろう? なのにここまであのクズを庇うところを見ると、やはり飼いならされた変態だな!」
「もういいです。あなたと話をするだけ時間の無駄です。さっさと全力できなさい! 全力のあなたを完膚無きまでに叩きのめしてあげます!」
フレイの強気の態度に完全に本気になったのか、口ひげオヤジの体からはこれまで以上の闘気が溢れ出している!
だがそれはフレイも同じだ。
口ひげオヤジの怒りの籠った闘気とは違い、フレイの闘気は穏やかな波のように優しい闘気だ。
互いに剣を構え、お互いの必殺の一撃。
人技がいつ繰り出されてもいいように全神経を集中させている。
先に動いたのは口ひげオヤジの方だ!
口ひげオヤジは剣を構え闘気を練り上げ、声高らかに人技の名を叫んだ!
「人技! 死刺44手!」
口ひげオヤジは手に持つ剣を床に突き刺すと、フレイの周囲から44本の剣先が出現し、フレイへと44本の剣先が襲いかかった!
剣先がフレイに届くよりも先に、フレイも人技を繰り出した!
「人技! 水流要塞!」
フレイが剣を胸元で両手に持ち、祈るような構えで人技を口にすると、フレイの周囲に円形状に水が流れ、一気に屋敷の天井付近まで水が噴き上がり、フレイの姿が水の壁で見えなくなってしまった!
同時にフレイに目掛けて床から突き抜けてきた刃が水の要塞に阻まれた。
闘気によって具現化された44の剣先は水の要塞に弾かれては折れ、次々と折れた刀身が床に転がり消滅していく。
まさにその名の通り要塞である。
恐らく、このフレイの人技は主であるアリアを守るという想いが形になったモノだろう。
そうでなければ攻撃を捨て防御に特化した人技を、剣士であり騎士であるフレイが会得することはなかっただろう。
それほどアリアを想っているということなんだろう。
口ひげオヤジは必殺の人技をいとも容易く塞がれたことで明らかに動揺している。
水の要塞の中で口ひげオヤジの様子を伺うフレイがこの機を逃しはしないだろう。
そう思った次の瞬間――
水の要塞から勢い良く飛び出したフレイが、口ひげオヤジの動揺した僅かな隙を突き、駆け抜けながら首を刎ねた!
口ひげオヤジの首が呆気なく床へ転がり、フレイは振り返り俺の方に体を向け、サッと羽織を後ろに払い、漆黒の刀身を腰の鞘へと収めた。
その姿はとても美しく、見た目とは違い気品を感じさせておる。
――次回 42話、40段。
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