40話 ニヤついたのはなんで?
胸を晴れと心の中でフレイに問いかけるのだが。
どうやらフレイ自身は今のファッションがお気に召さないようで、恥ずかしさと怒りで涙目になりながら必死に訴えかけている。
「私だって好きでこんなカッコをしているのではない!」
好きでそんなカッコをしても良いのだぞフレイ。
それこそが誰もが最も失いがちで一番大切な個性となるのだから。
それなのに目の前のアホは何も分かっておらず、頭でっかちに自身の意見を押し付けてきおる。
他者に自分の意見を押し付けてもいいのは俺のような王子様だけだということを全く理解しておらんな。
「好きでそのようなカッコはしていないだと? まるで低俗な輩が憲兵に捕まった時のいいわけだな! この変態めが!」
な、なんと!?
それを本人に直接言うとは、こやつはマナーを知らんのか!
人にも魔族にも言っていいこととダメなことくらいあるであろう!
それをこのアホズラは面と向かって言いおって!
それは決して強さではないぞ、無礼というものだ!
他人の性癖を笑う者は後に、ベッドの上での行為を茶会で貴婦人たちに笑われるのだぞ!
こやつはそんなことも知らんのか!
ほら見ろ、なにやら俺の右後方から物凄い殺気と闘気を感じるではないか!
振り返り、確認することすらしたくはないが念のため見てみるか。
そう思い右に首を回し後方を確認すると!
フレイの髪はゆらゆらとうねり、全身を怒りと憎しみの炎で包み込んでいるではないか!
足を肩幅まで広げ拳を握り締め、溢れ出た闘気で羽織の裾が浮き上がり、うつむいていた顔をゆっくりと上げるフレイ。
その目は、完全にキレておる。
ブチギレておる!
まるでかつて俺が喧嘩し、戦いの果で互を認めたあの時のドラゴンと同じ目をしておる。
フレイを見ていると昔を少し思い出してしまったが、目の前の口ひげオヤジはそんな呑気な事を言ってはおれんぞ!
「アルトロ王子!」
ほら来た!
触らぬフレイに祟りなしじゃ!
「どうした?」
フレイの言葉に返答すると、フレイは一歩前へ踏み出し囁くように言ってきおる。
「あの貴族もどきのヒゲ男、私がやっても構いませんか?」
どう見ても……無理と言える雰囲気ではなかろう。
さすがの俺でもそんなこと言えんわ!
「構わん! だが気をつけろよフレイ! 恐らく敵がこちらの動きを知って送り込んできた刺客だ! フレイの実力を十分に理解した上でのあれだ!」
「わかっています!」
「では、暴れてこい!」
フレイは俺の真横に立ち、しっかりと俺の顔を確認し頷いた。
「はい! 行って参ります!」
フレイが前に出てくると、口ひげオヤジは呆れたように両手の掌を天井に向け、両肩を少し上げ首を横に振っている。
「やはり変態女が出てくるのだな! 女に戦わせ自分は安全圏で見物とは本当に情けない。それでも男か! まぁ所詮はアイーンバルゼンのクズ王子、自分では何もできない非力な輩だ! 王子に生まれていなければどこかの路地裏で野垂れ死んでいたことだろう!」
口ひげオヤジの言葉を聞きさらに怒りが募ったのか、フレイの闘気は勢いを増した!
フレイは左腰に提げた剣に左手を添え、口ひげオヤジを睨みつけ怒りを声に出す。
「黙りなさい! それ以上のアルトロ王子への侮辱は、例え神がお許しになっても私が許しません! それにあなたのような小物にアルトロ王子が出るまでもありません!」
「なんだとこの変態小娘! この俺が小物だとぉ!? 名家に生まれコネで騎士になった女が何を抜かすかぁ! すぐに貴様を八つ裂きにし臆病者のクズ王子をいたぶってくれるわぁ!」
口ひげオヤジの下品な言葉を浴びても、見た目とは裏腹に凛と気品溢れる佇まいのまま動じることなく物申すフレイ。
「例え私に勝てたところで万に一つ、あなたが誇り高きアイーンバルゼンの第三王子、アルトロ王子に勝つことなどありえない! それに、あなたは私にすら勝てないのですから!」
俺はフレイの言葉に少しだけ口角が上がってしまう。
これまで俺は多くの者たちに前代未聞のクズと呼ばれることはあったものの、この俺を誇り高き王子と口にしたのはお前が初めてだ、フレイ!
魔王時代も、輪廻転生を使い人として生きている今も、自分勝手な俺に皆ほとほと愛想を尽かしていただろう。
それでも良かった。
それが俺なのだから、何度転生しようともこの俺の魂を変えることなどできる者などいないと思っていた。
なのに、この胸の暖かさはなんなのだ?
体の奥底から湧き上がってくるこの感情はなんだ?
なんでこんなにもニヤついてしまうのだ?
俺がニヤつくとき、それはいつも自分の欲求を満たす時だったはずなのに、なぜ俺は今ニヤついている?
俺は今いやらしいことなど考えていないのに。
なぜ喜んでいる!
喜ぶ? 喜んでいるのか俺は?
何気ないただの一言に、なんの価値もない言葉にこれほど心を焦がすのか?
これを……この感情をなんという?
人としてまだ18年しか生きておらん俺にはわからん。
だが悪くない。
この感情は悪くない。
いつの時代も満たされることの無かった俺を、この時代で人の世で手にすることができるのか?
今はまだわからん。
だがセスタリカに、この国にヒントは隠されているのかもしれんな。
しかし今は見届けさせてもらうぞフレイ!
お前のその勇姿を!
――次回 41話、守るもの。
この作品を少しでも気に入って下さったら下の評価ボタンをポチっと押してくださると嬉しいです!
いつも本当にありがとうございますm(__)m




