39話 胸を晴れ!
俺とフレイは地下から薄暗い階段を上り屋敷の長い廊下を見渡すが、不気味なくらい屋敷は静まり返り敵の姿も相変わらず確認することができない。
さすがにこの状況に違和感を感じたのか、長い廊下の先を見つめるフレイが小さな声で話しかけてくる。
「妙ですね! 屋敷内の見張りはおろか、使用人の人影すらありません」
「ああ、まるで俺たちを誘っているようだな!」
フレイはコクりと頷き先を急ごうと促してきおる。
「アリア様とフルク王子の身が心配です! 先を急ぎましょう!」
俺はフレイの顔を見て頷き、小走りで駆け出しては俺の後方をつかず離れずついてきているフレイに顔を向ける。
フレイは俺の漆黒の剣が揺れぬように、左手で柄の部分を握りながら走っているのだが、俺がかけてやった羽織がはだけて、一歩足を前へと踏み出すたびにフレイの豊満な胸が上下に揺れ、俺の目を釘付けにしおる。
フレイの奴はわざとやっておるんじゃないだろうな!
俺に敢えて自慢の胸を見せつけ……まさか!
これが噂に聞く露出狂というやつか!
間違いないわ!
こやつは、フレイは正真正銘の変態じゃ!
たばかりおったな、たばかりおったなこのド変態が!
この俺の斜め上を行くとは流石は女狐フレイだけのことはあるわ!
俺はまんまと狐につままれたということか!
いずれはベッドの上でも俺を化かすつもりか、堪らん!
とはいえ確かに羽織の前を閉めてしまえば動きにくいし、いざ剣を抜くとき羽織に引っかかり僅かな隙が命取りになりかねないがの。
だが何度見ても見事なバデーだの。
恥じる様子もなく堂々としていられるわけじゃ。
これが貧相な者なら恥ずかしくて閉めてしまうわ!
ゆっくりと駆けながらフレイのナイスバデーに見とれておると、フレイは少し首を傾げ、どうかしたのかと言った顔で俺を見ている。
少しガン見し過ぎたか!
だが誤魔化すのは得意なのだ!
「体の方はもうすっかりいいみたいだな!」
「はい! アルトロ王子のおかげで万全の体調でアリア様を助けだすことができます! しかしアルトロ王子があのような特殊な技をお持ちとは知りませんでした!」
フレイの俺を見る目はもはや憧れと尊敬の念に溢れておるわ。
まぁ無理もないか。
フレイは恐らくそれなりの名家の出であろう。
それに加え女でありながら騎士にまでなった者だ。
これまでピンチに陥ることもなかったのだろう。
恐らくは人生初めてのピンチに陥り、死をも覚悟していた時に颯爽と俺が現れ、いとも容易く助け出したのだ。
まさに俺という名のヒーロー作戦なんだが、若干……いやかなり予定とは違うがこれはこれで悪くないわ!
「心配するなよフレイ! お前に何かあれば俺が助けてやる、傷ついたとて何度でも口づけを交わせば良いのだ!」
前を見据え走っていたフレイだが、突然顔を真っ赤にし俯いてしまいおった!
だがしっかりと俺の言葉に返事をしておる。
「……はい! その時はお願いします!」
俺たちが小走りで屋敷内を駆けて行くと、人が横並びで数人歩ける程の大きな階段が前方に見えた。
「フレイ、階段を上がり二階へ行くぞ!」
「はい!」
フレイに階段を駆け上がり2階へ向かうことを伝へ階段に一歩足をかけた時、地震のような激しい揺れを感じ、突如目の前に何かが降ってきて、俺とフレイは透かさず後方へと身を躱した。
目を凝らし、降ってきた何かに目をやると、そこには一人の男が腰を深く落とし、階段に両手で剣を突き刺していた。
男は透かさず俺たち二人に鋭い視線を向け、落としていた腰を上げ、突き刺していた剣を抜き取り右手に持つと、クルッと剣を一回転させた。
「ほ~、今のを躱すとは中々、女ばかりにうつつを抜かし剣の稽古もろくにしないクズ王子と聞いていたが、少しはできるようだな」
突如降って出てきた口ひげオヤジが偉そうにクルッと上に曲がったヒゲを人差し指と親指で摘みながら、この俺に上から目線で話しかけてきやがった!
目の前にいる口ひげオヤジは、俺が嫌いな貴族たちのような胸元がヒラヒラしたシャツに身を包み、真っ赤なコサージュを胸に飾った悪趣味なジャケットを羽織ている。
おまけにズボンは気持ち悪いくらいピチピチの白パンときた。
センスの悪さに吐き気すら感じるわ!
自らのセンスの無さに気づかぬアホにいかにダサいか教えてやるか!
「突然降って来たと思ったらなんだよそのダサいカッコは! 家を出る前にちゃんと鏡で確認したんだろうな? 敵なら敵でもう少し強そうな服装を選べよな! 見た目が雑魚過ぎると戦う意欲すら沸かんだろうが! バカタレ!」
俺の言葉が意外すぎたのか、口ひげオヤジは「っへ?」というようなマヌケツラを晒したかと思えば、突然高らかに笑いやがった。
「ハハハハ、噂通り少し頭の方がおかしいみたいだな! それに美の感性が乏しい者にはこのファッショナブルなセンスと着こなしがわからんみたいだな。それに私のファッションチェックをする前に、連れの女のファッションセンスを指摘した方が良いのではないかな?」
「な、なんだと!」
侮辱されたフレイが身を乗り出し反論しようとしているが、よすのだフレイ、ある意味正論だ!
コイツは一本取られたな。
だがこのフレイの露出狂ファッションを理解出来んとは、やはりセンスがない。
俺は斜め後ろにいたフレイの全身を改めて確認し、フレイは男に指摘され赤面し怒っているが、やはり今のフレイのファッションはキュートでセクシー!
俺好みだ!
この今のフレイのファッションが嫌いな男はおるのか?
否、いないであろう。
恥じることはないのだフレイ、むしろそのファッションを着こなせる者はそうそうおらぬ、胸を晴れ!
――次回 40話、ニヤついたのはなんで?
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