35話 解き放つ心
屋敷の中にもやはり人影がない。
広い廊下の先まで目を凝らすが、見張りらしき兵もいなければ、これだけ広い屋敷にもかかわらずメイドや執事、使用人の姿さえ見当たらない。
これほど広い屋敷なのに使用人のひとりもいないなんてあるのか?
まぁいい。
アインの言っていたことを信用するなら、屋敷の地下牢にアリアは捕らえられているはずだ。
まずは屋敷の地下へ続く階段を探すことが先決だな。
俺は屋敷内を慌てることなくゆっくりと歩き、ひと部屋ずつ確認していくことにする。
侵入した窓から一番近い部屋の扉を開け、中を確認する。
ここはどうやら書斎のようだ。
書斎なんて興味がないので部屋に入ることなく扉を閉め移動する。
どこかの部屋にアリアがいるかもしれないから、念のため片っ端から扉を開き確認するが、やはりいない。
延びた廊下を進み屋敷内を探索していると、地下に続く階段を発見した!
見つけた!
アインの話が事実ならアリアはこの下にいるはずだ!
久々に胸が高鳴る!
ついにヒーローがアリアの元へとたどり着いたんだ。
俺を見た瞬間に涙を浮かべ、俺の胸に飛び込んでくるアリアの姿が容易く想像できる!
薄暗く地下へと続く階段を俺は下りて行く。
暗くて足元がはっきりしないので壁に手を当てながら、ゆっくりと一段一段足を踏み出す。
階段を下りた先に扉があり、俺は慎重に扉を開けると中から人の声が聞こえた。
「痛いかぁ? いいざまだな小娘!」
「こんなことをしても……私が祖国の、仲間の情報をお前たちに売ったりはしない」
「もう数日この調子だ、殺してもいいんじゃないか?」
扉を開けた先から聞き覚えのある声がする。
フレイの声だ!
他に2名、男の声がする。
慎重に敵に気づかれないように扉の中に入り、地下の部屋に目をやると、地下室は広く、左右には鉄格子の牢獄が複数存在する。
地下室の最奥部には明かりが灯り。
声がするのは明かりの灯る奥くからだ。
声と同時に何かを叩くバシッという鋭い音も聞こえる。
俺は忍び足で明かりの灯る奥まで近づき、壁に身を隠し中の様子を伺った。
壁から顔を少し出し部屋の光景を見たとき、俺は思わず眉を顰め目を細めてしまった。
なぜならそこには下着姿で両手に鎖を巻きつけられ、天井から吊るされているフレイの姿があったからだ!
フレイは項垂れ虚ろな目をしている。
体には夥しい傷と、時間が経ち黒ずんだ血がいたいけなフレイの体にこびりついている。
フレイの吊るされている足元にも無数の血痕があり、自白剤を使用したのか注射器などが散乱している。
フレイの側には白髪で長髪のやせ細った男が、手に革製の鞭を握り締め立っている。
少し離れた場所にはもう一人、椅子の背もたれを正面にして座り、上半身裸でマスクを着用した体格のいい男がいる。
男の近くの壁には斧が立てかけられている。
白髪の男はフレイの背中に鞭を打ち込んでは微笑んでいる。
「さぁ答えろ! セスタリカへ援軍に来たのはアイーンバルゼンのクズ王子だけか? 他にもいるのではないか?」
「……ハァハァ」
「だからもう俺に殺させろよ!」
「ダメだ! この女はこのまま私のペットとしてここで生き続けるのだからな!」
白髪のジジイはフレイをペットにすると言いながらフレイの豊満な乳房を揉んでニヤついている。
その光景を見ていると俺の中で何かが込み上げてくる。
なぜこんなクズに俺がクズ呼ばわりされねばいかんのだ!
頭に来るな!
それに女狐フレイも一応俺のパラダイス計画に入っているパラダイスの住人だぞ。
人の女に汚い手で気安く触れやがって!
俺だってまだ揉んでいないのに!
許せん!
文句言ってやる!
俺は身を潜めていた壁から姿を現し、堂々と腕を組み大声で文句を言ってやった!
「おいそこのクズ野郎! その汚い手を離せ! 今すぐ触るのを止めよ!」
俺の声に驚き一斉に二人の男が汚い顔を俺に向けてくる。
フレイもゆっくりと顔を上げ、俺の姿を確認し目を見開き驚いている。
「な、なんだお前! どうやってここへ来た!」
白髪のジジイが驚きフレイの胸から手をどけ、俺に気安く話しかけてきやがった。
同時に俺の姿を確認したフレイが声を上げる。
「アルトロ王子! なぜここにいるのです!」
「王子!?」
「アルトロ!?」
フレイの言葉を聞き二人の男が驚くと同時に笑を浮かべている。
「コイツがアイーンバルゼンのクズ王子かぁ!」
「クズ王子がわざわざ自ら捕らえられに来たのかぁ? 馬鹿な奴だ!」
二人の男の言葉を聞き、フレイは慌てた様子で声を荒げた。
「なぜここにいるのですアルトロ王子! 早く逃げて下さい!」
逃げる? この俺が?
なぜ逃げねばならんのだ!
「なぜ俺が逃げぬばならん! それにそんな姿のお前を置いてここを立ち去るわけにもいかんだろう!」
「私のことはいいから逃げてください! あなたにもし何かあればセスタリカとアイーンバルゼンの仲にも亀裂が生じます! 私のことなど構わず逃げてくださいアルトロ王子!」
必死に痛みを堪え声を上げるフレイ。
自分のことより国を想うか、見上げた女だな!
ますます助けたくなっぞ、フレイ!
「フレイ! お前はこの俺に、アイーンバルゼンの誇り高き第三王子に、女性を見捨て逃げろと申すか! そなたの瞳は何を見ている! 俺がそんな腰抜けに見えると申すかぁ?」
俺の言葉に瞳を潤ませ、唇を噛み締めている。
「……アルトロ王子」
小さく囁かれたその声を聞き、俺は言う。
「国を想い、姫を想い、自分のことはどうでもいいと申すか? 自分を大切にできぬ者に、国も姫も守れはしない! 感情を晒し本当の気持ちを申してみよ、フレイ!」
項垂れるフレイの瞳から流れ落ちる大量の雫、俺の言葉を噛み締め顔を上げ、俺に向かってフレイは泣き叫ぶ!
「だずげで……だずげでぐださい゛! アルトロおうじぃぃぃいいい!」
フレイの解き放たれた感情を受け止め、俺はフレイに優しく微笑んだ。
「当然だ! そのためにここに来た!」
――次回 36話、死罪。
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