34話 阿呆と疑惑
――街の北側、建物の二階の部屋で待機していた俺やアインたち。
ドウンの屋敷が見渡せる部屋の窓からセドリックが「始まった」と言ってから既に30分が過ぎようとしていた。
窓からそっと街を見渡すと、大勢の兵が街の南を目指し移動しているのがよくわかる。
アーロンたちが派手に暴れているのだろう。
俺はこの30分程ただじっと待機していたのだが、もういい加減退屈だ!
たかだか2000の兵の誘導になぜ俺がこんなしょぼい部屋で待機せねばならんのだ!
俺のアリアはすぐそこにおるのだぞ!
俺という名のヒーローの到着を待っているのだ。
そうだ! きっとアリアは俺が颯爽と助けに現れると感激に涙を浮かべ、『きっとあなたが、私のアルトロ王子が助けに来てくださると信じておりました』なんて俺に抱きつき自らこの俺に抱かれたいと進言するはずだ!
そして今日の晩にはアリアはこの俺の腕の中で歓喜の声を上げておるに違いない。
ヒヒヒヒ! いかん、笑いが止まらん。
俺の悪い癖だな!
俺がニヤついていることが気になったのか、アインにセドリックとルナが俺を見ている。
「おい、アルトロ王子はどうかしちまったのか?」
「いや……まぁ問題ない! 気にしないでくれ」
「どうせやらしいことでも考えていたんですよ。吹き飛ばしますよ!」
相変わらずちびっ子ツインテールは俺に手厳しいな。
待てよ! ひょっとして!
焼いておるのかルナは!
俺はルナの顔を見つめると、ルナはイヤンと恥ずかしがり顔を逸らしおった!
「っふん!」
仕方ない、近々ルナのことを抱いてやるとするか!
しかしそれならそうと自分から来ればいいものを。
まだお子ちゃまだからどうすればいいかわからんのだな、よし。
俺が手とり足取り教えてやろう!
しかし今はアリアだ!
アリア程の美女は早々お目にかかれん!
そのためにはこのアリア救出に失敗は許されない。
ましてや他の者に美味しいところを持っていかれるわけにもいかん!
すまぬなアイン!
出し抜かせてもらう! ヒヒ。
俺はセドリックとルナにアインたちを出し抜くため伝える。
「セドリック、ルナ。俺は大事な作戦前に用を足しておく!」
「お手洗いは一階だよアル」
「緊張感のない王子ですね」
俺たちの会話を聞き、アインもレジスタンスの連中も誰も疑うことなく俺は部屋を出ることに成功する。
部屋を出てすぐ階段を下り、便所に行くと見せかけて建物の裏口に面した窓から脱出する!
愚か者どもめ!
修行が足らんのだ!
さぁ今行くぞアリアよ!
ヒーローの登場に胸を焦がすがいい!
俺は裏手からこっそりと建物の死角になっているポイントを容易く見つけ出し、賢く強い俺は屋敷の裏手まで回るのだ!
裏手まで回ればセドリックの奴が窓から覗き込んでいても見つかる心配もない。
アインの阿呆どもがアリアの救出に来た時にはすでにアリアは俺の腕の中というわけだ。
この俺の完璧すぎる計画に狂いはないのだ。
俺は屋敷の裏手の石造りの塀をよじ登り、いとも簡単に屋敷の敷地内への侵入に成功した!
塀を飛び降り敷地内を見渡したとき、違和感を感じる。
なぜ裏手には見張りが誰もおらんのだ?
建物の窓から屋敷を確認した時には確かに見張りがかなりいた。
なのに建物から見えない裏手にはなぜ誰もおらん?
これではあの建物から俺たちが屋敷を監視していることを知っていたみたいじゃないか!
だとしたら裏手にだって見張りを付けるはずだ。
気づかれていないと錯覚させるため、建物から見える位置に兵を設置した?
ではなぜ裏口には誰もいない?
俺たちを屋敷の中へ誘い込むため?
なんのためだ?
俺たちに勝つ勝算があるから!
仮にもし敵に情報が漏れていたとしたら狙いは……俺か?
アイーンバルゼンの第三王子である俺を捕らえたいのか?
なぜ? 決まってる。
セスタリカの侵略に成功した次にはアイーンバルゼンを落とすためだ。
考え過ぎか?
わからん、だが確実にレジスタンスの中に裏切り者が潜んでいる。
だがアインではないだろう。
でもおかしくないか?
この街に来てすぐにレジスタンスと協力関係を気づき、モノの2、3日でこの状況だ!
誰に都合がいい、俺だ!
そもそもアリアはなぜこの街に来てすぐにレジスタンスとコンタクトを取らなかった。
いや、とっていたとしたら?
このわけのわからない陽動作戦を考えたのはアインだ!
敵を南側に引き付ける、違う。
俺を単独にするための作戦だ。
そう考えれば納得できる。
だとすればアーロンたちを分散させ倒す算段もついているということか!
まぁアーロンなら問題ないだろう。
なにせあのフゼン兄様が認め選んだ男だ、問題ない!
もし仮に俺の考えが正しければ黒幕はアインか!
だが勘違いということもある、敵が単なる阿呆かもしれん。
まぁ直に分かることだ。
もしも俺を誘い込んだのなら、愚策だな!
八つ裂きにしてやる!
俺は敵が阿呆だという可能性も視野にいれ、身を潜めながら慎重に屋敷の窓に手を掛けると、窓の鍵が開いている。
ますます不自然だな。
だが俺はその窓から屋敷内に侵入した。
――次回 35話、解き放つ心。
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