33話 扇子と微笑み
俺はビュトルの正面からバカ正直に突っ込むことはせず、左側に弧を描くように駆け出した。
ビュトルは腕を組み、微動だにすることなく首だけを回し俺を見ている。
「随分余裕だなビュトル!」
「アーロンと言ったな。まずは俺から腰の剣を抜かせて見せよ!」
なるほど、まだ自分と対等に戦う相手ではないと判断されているのか!
その傲慢をすぐにとっぱらってやるさぁ!
「行くぞビュトルゥゥゥ!」
俺はビュトルの周りを円状に走るのを止め、急ブレーキをかけ砂埃を巻き上げながら方向を変えビュトルに突っ込んだ!
真っ直ぐに斬りかかった俺の剣筋を見極め、ビュトルは腕を組むのをやめ後方へ後ろ向きで移動しながら俺の剣を躱している。
速い! 俺の剣をこうも簡単に見切り寸前で躱すとはコイツ!
かなり手強い!
俺の剣を躱しながらビュトルは話しかけてくる。
「人間にしてはいい太刀筋だな! さすがに掴みきれん」
「逃げ回るだけか、ビュトル!」
「それもそうだな!」
俺の言葉に反応し、剣を避けながらビュトルが人差し指を突き出してきた。
ビュトルの突き出された指先に赤き魔力が集ま合っていく。
こんな魔力の塊を直接受けるのはさすがに不味いな。
ビュトルの指先から魔力の塊が放たれる僅か0.3秒前に、俺はビュトルの背後へと回避する。
「千歩!」
「ん?」
ビュトルは俺の残像に魔力の塊を放ち、俺が一瞬で背後に回ったことに目を見開き驚いている。
俺は透かさずビュトルの背後から剣を振るった!
ビュトルは慌てて腰の剣を手に取り、俺の刃を寸前で食い止めた!
俺が一瞬で背後に回ったことと、自らに剣を抜かせたことに驚くビュトルに俺は語りかける。
「どうやら第一関門は突破かな? それとようやくまともな表情になったじゃないか、ビュトル!」
「なにをした? 今のは人技か?」
疑問を投げかけてくるビュトルに俺は素直に応えてやる。
「人技なんて大層なもんじゃない。ただの足運びの一つさ!」
「面白い! 本気で相手をしてやる、アーロン!」
競り合っているビュトルの剣に力が込められ、俺の剣を押し返した。
俺は後方へステップをしながら距離を取る。
無表情だったビュトルの顔からは笑みが溢れ、その体からは凄まじい魔気が発せられている!
笑ったビュトルが嬉しそうに口を開いた。
「楽しもうアーロン!」
「望むところだ!」
ビュトルは突っ込み剣を振るい、俺もビュトルの剣を受けては剣を振るい、俺たちの剣の応酬によって火花が飛び散り、鉄がぶつかり合う爆音が鳴り響く。
俺たちの戦いを離れた所で見ていたゼンとリリアーナは驚愕に固まっていた。
「よく今のを防いだな! 見事だアーロン!」
「お前も見事だビュトル!」
俺たちは互の剣を讃え合っていたのだが、ビュトルは言う。
「だが残念だ、楽しい時間ももう終わりだ!」
「どういう意味だ?」
「サヨナラということだ!」
ビュトルはそう言うと後方へ飛び、全身に魔気を纏い剣を構えた。
「楽しませてくれたお礼だ! 俺の全力で止めを刺してやる」
全力? まさか!
魔技か? 一体どんな魔技だ!
これほどの使い手の魔技だ、生半可なモノではないことはわかる。
俺は全神経をビュトルに集中させた。
例えどんな技でも対応できるように。
「ではいくぞ! 魔技! 秘境魔剣!」
「なんだ、これは?」
俺とビュトルの周囲に鏡? のような破片が宙に舞っている。
キラキラと輝きを放つその破片から次の瞬間、剣先が出現し俺の体を斬りつけた!
「っい!」
ビュトルに目をやるとビュトルの振るった剣先が消え、宙に舞う破片から剣先が襲い来る!
「アーロン、終わりだ! 俺の秘境魔剣は無数に散らばった破片のいずれかから俺の剣がお前に襲いかかる! 人の動体視力ではそれを見極め回避することは不可能だ! 死ね、アーロン!」
ビュトルは目にも止まらに速度で剣を振るい、俺の体は四方から切り刻まれた!
気がつくと俺は地面に倒れ込んでいた。
微かな意識の中ゼンとリリアーナの声が聞こえる。
「アァァァロン!」
「いやぁぁあああ!」
倒れ込んだ俺の元にゆっくりと近づくビュトル。
ビュトルの足元を視界が捉える。
ゆっくりと上を見上げるとビュトルは悲しそうに俺を見下ろしている。
「実に楽しかったぞアーロン。もうゆっくりと休め」
ビュトルが剣先を俺へと向けたとき、俺は最後の力を込め叫んだ!
「人技! 獣道!」
「っん?」
人技が発動し、俺の体は巨大化すると同時に衣服が裂け、黒い毛が全身を包み込み俺は獣と化した。
俺はすぐに天高く跳躍し、クルクルっと回り四本足で着地した。
俺はすぐに地面に突いていた手をどけ、腰を上げて立ち上がった。
俺の身長は本来180程だが、獣化することで体長は230程になる。
獣化は24時間に一度しか発動できないが、発動するとそれまでの傷を瞬時に完治させる。
また獣化することで身体能力などが著しく向上する。
俺は驚愕するビュトルに先ほどのビュトルの言葉を返す。
「ビュトル、終わりだ! この姿になった俺にお前は勝てん!」
「な、なにを!」
ビュトルは再び剣を構え魔技を繰り出す。
「魔技! 秘境魔剣!」
無数に宙に舞う破片の中からビュトルの振るった刃が俺に襲い来るが。
俺はそれを躱し、手放してしまった剣の元へ四足で走り込み、剣を拾い上げた。
剣を握りビュトルの元へ走り込み、ビュトルを斬りつける。
「っうぅ!」
「もう終わりだビュトル!」
俺はビュトルの上半身を切り裂き、ビュトルはその場に膝を突いた。
「な、なぜだ。なぜ人間如きに!」
確かにビュトルは強かった、だがビュトルの魔技は接近戦には不向きだ。
この姿になった俺は最早人ではない。
ビュトルに剣を向け止めを刺そうとした時、ビュトルの影から頭部に龍の角を二本生やした女が現れた。
「ビュトル、帰りますよ!」
「だが……」
「ここはもういいのです。行きますよ! それではごきげんよう!」
なんだコイツ!
目元が赤く、口元に扇子を当てた竜人は俺ににこやかに微笑みかけると、ビュトルを連れて影の中に姿をくらました!
止めを刺し損ねたが、伏兵がいたことに全く気づけなかった。
だが今は俺もゼンもリリアーナも三人とも無事だということを喜ぼう。
俺は二人の元に駆け寄ると、二人は口を開け固まっていた。
「アーロン、あんた本当に人間か?」
「なんなのよその姿!」
説明している時間が惜しいので二人に敵を倒すよう促す。
「それよりも残っているパリセミリスを倒し、アルの元へ急ぐぞ!」
「あ、ああ!」
「そ、そうね!」
俺が行くまで、無事でいてくれよアル!
――次回 34話、阿呆と疑惑。
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