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32話 ビュトル

 ポブとスネークが命を懸けて知らせてくれた魔族の情報を無駄にするわけにはいかない。


 南西の方はゼンとリリアーナの二人がいるが、スネークとポブの判断は正しいと言えるだろう。

 大規模な戦闘経験のない二人はこの長丁場の戦闘に、恐らくかなり疲労しているはずだ。


 そんな状態での魔族との戦闘は無謀とも言える。

 もちろん魔族といってもすべての魔族が戦闘に特化しているわけではない。

 中には力の弱い魔族も存在する。


 だが今回は別だ!

 ポブの話によると魔族は人型であることと、額から角を生やしていたと言っていたが、もしそれが事実ならかなり不味い!


 もしもパリセミリス側についている魔族が俺の想像する魔族なら脅威だ!

 人とさほど変わらぬ見た目に角の生えた魔族、可能性の一つとして考えられるのは、鬼人族だ!


 鬼人族は戦闘民族だ!

 並の者では到底手に負えるような相手じゃない。

 アルの話によればゼンとリリアーナは人技を会得しているということだが、アルの話だと二人の人技は対複数戦に特化しているということだ。


 もちろん別の人技を隠し持っている可能性もあるが、仮にアルの話す人技しか会得していなかった場合、二人の人技は間違いなく通用しないだろう。


 相手がもし鬼人族だったなら、相手は生まれた時から戦闘訓練を日々受けてきた正真正銘の化け物だ。

 その上身体能力も生まれ持った素質も人間とは比べ物にならない。


 二人がうまく逃げていたならいいのだが。

 とにかく急ごう、二人が危険だ!


 俺は走る速度を上げ、南西に向かう道の先を塞ぐパリセミリス兵へ斬り込み進んだ。


「ここは通さんぞ! 化け物めがぁぁああ!」


 俺の行く手に斧を振りかぶる男が道を塞いで何やら叫んでいるが、化け物を飼っているのはお前たちの方だろう!


「押し通ぉぉぉぉるぅ!」


 俺は正面から駆け抜けると同時に、男の振りかぶった斧を真上に跳躍し躱すと、男の頭上から剣先を突き刺し目もくれず再び駆け出した!


 目の前の光景を目の当たりにしたパリセミリスの兵は俺に恐れをなし、道を開けていく。


 兵たちが俺を避けるように出来た道を俺は猛スピードで駆け抜ける。

 南西に続く大通りを抜けると目的のモノが見えてきた!


 地面に膝を突き血まみれで動けぬリリアーナと、魔族に顔を掴まれ跪くゼンの姿だ!

 二人はまだ生きている!


 だがゼンの顔を掴み無表情で見下ろしている奴は!

 間違いない鬼人だ!


 リリアーナは苦しそうに叫んでいる!


「ゼンを……ゼンを離しなさいよ、この……化け物!」

「おれ……に、かまわ……ず、逃げろ、リリアァァナァァァ!」

「そんなの無理よ!」


 二人はもう限界だ、特にゼンは一刻も早く助けねば。

 そう判断し俺は地面が割けるほどの力で蹴りつけ加速する。


 100メートルほど先にいた鬼人の元まで2、3秒でたどり着き、ゼンの顔を掴む鬼人に斬りかかった。


「せやぁぁあああ!」


 鬼人は慌てることもなく、剣を振りかぶった俺に目を向けゼンを投げつけてきた!

 俺は剣を振るうことをやめ、空中でゼンを受け止めた!


 ゼンを抱きかかえリリアーナの元までバックステップで近づき、リリアーナにゼンを預けた。

 その間も俺が鬼人から目を離すことはない。


 「アーロン? どうして?」


 仲間の援護に安心したのかリリアーナの声は震えている。

 顔を見ることはできないが泣いているのだろう。


「ポブとスネークが命懸けでお前たちを助けるため知らせてくれた!」

「あの……ふた、りが」

「ゼン! 喋っちゃダメよ!」


 涙を流していると思われるリリアーナに、俺は酷かもしれないが戦場でのルールを伝える。


「リリアーナ! 今すぐに涙を止めるんだ! 涙を流せば水分と塩分を無駄に消費する、それに目が疲れ視界が疎かになる。戦場では何よりも体力が重要だ、涙は体力を奪うだけではなく、リラックス効果を脳に与えてしまうんだ! 戦場で涙は御法度だ!」


 リリアーナは賢い子だ。

 すぐに俺の言葉を理解してくれた!


「……はい!」


 俺は決して鬼人から目を逸らすことなく話を続ける。


「皆命を賭けている、スネークも俺に情報を伝えるため、ポブを走らせ一人でパリセミリスの兵と戦っている。お前は元山賊の頭なんだろ? ならわかるな、仲間の、友の想いを受け止めたのなら、強くなれリリアーナ!」


 リリアーナは今にも張り裂けそうな声で返事をした。


「……はい!」

「ゼンを頼むぞ! それとこれを使え!」


 俺は腰袋に手を入れ、振り返ることなくポーションの入った小瓶を二つリリアーナへ渡した。


「お前たちは良くやった。あとは任せろ!」


 俺の言葉に瀕死のゼンが答える。


「きお……つけてく、れ。かいふく……したら、おれも」


 心配する瀕死のゼンに俺は言う!


「俺を誰だと思ってる! 一人で十分だ! そこで見ていろ、一流の兵士の実力ってやつをな!」


 俺は立ち上がり剣を構え鬼人を見据える。

 鬼人は余裕たっぷりで話しかけてくる。


「話は済んだか?」

「ああ。待ってもらって申し訳ないな」

「気にするな! どの道同じだ!」

「名を聞いてもいいか?」

「鬼人族のビュトルだ!」


 俺はビュトルの言葉に頷いた。


「俺の名はアーロン=ハルネット、ビュトル! お前との一騎打ちを望む!」


 ビュトルは相変わらずの無表情で頷いた。


「構わんが、回復させた仲間の援護はいらないのか?」

「ああ、お前とサシでやりたい! 気に障ったか?」


 俺の言葉を聞き無表情だったビュトルの眉が少し動いた。


「いや、人間にしては珍しいと思ってな。人間は卑怯で戦いに敬意が感じられないやつばかりだからな。俺たち鬼人に取って戦いとは、人間で言うところの神聖なモノに当たるからな! 気に入った! サシでやってやる、来い!」


 なるほどと頷き、ビュトルに礼を言い、俺たちの決闘が幕を開けた。


「感謝する! では参る!」

――次回 33話、扇子と微笑み。

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是非お読みください!
モンスターボールを投げたらノーコン過ぎて女勇者を捕まえてしまった件。
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