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31話 鬼人

 ――南西でパリセミリス兵と戦闘を続けるリリアーナとゼンがいた。


「ったく鬱陶しいわね! いったい何匹いんのよこいつら!」

「全くだ!」


 あたしの問いかけに同意してくれるゼン。

 あたしたちはかれこれ2時間以上ここで戦いを繰り広げていた。


 あたしとゼンは背中合わせになり、互いに背中を預けながら戦闘を続けていた。


「大丈夫かリリアーナ! 疲れてはいないか?」

「そんなの決まってるじゃない! ヘトヘトよ!」

「だな! 俺も闘気を使いすぎた、もう人技を繰り出すことはできそうにない」

「あたしだって同じよ! だけど後退するわけにはいかないのよ!」

「そうだな! 主君のアルトロのためにも意地を張らなくてわな!」


 人技を会得した者は確かに強い。

 だけど人技は闘気と呼ばれる力を消費し、使用者の体力を(いちじる)しく奪ってしまうもの。


 あたしとゼンの人技は複数の敵を葬るのに確かに優れている。

 敵を一匹でも多く倒すため、人技を多用したのが今になって裏目に出てしまったのかもしれない。


 そもそもあたしやゼンはアーロンやパリスのような訓練を積んだ兵士じゃない。

 まともな戦いも戦場での経験もあたしたちにはない!


 ペース配分を考えて戦えるほどの余裕がなかったことに加え、憎き(かたき)たちを前に昂ぶっていたのもあるのかもしれない。


 そんなギリギリの戦いを余儀なくされたあたしたちの前に、そいつは悠然と姿を見せたの。


「ぐああぁぁぁぁ!」


 あたしの目の前に共に戦っていたレジスタンスのメンバーが吹き飛んできた!

 あたしは彼が吹き飛んできた方角に目を凝らした。


 刹那、あたしの全身に悪寒が走った。

 まるで突然、一人猛吹雪の雪山に来てしまったような、そんな錯覚に陥ってしまいそうな感覚が全身を包んだの。


 あたしは体の震えが止まらなかった。

 あたしの様子に気がついたゼンが振り返り、あたしに声をかけたくれたのだけど。


「どうしたリリアー……」


 ゼンもすぐにその化け物を確認したのか、目を見開き固まってしまった。


「な、なんだ……アイツは!」


 そう、あたしたちの前には悠然と立ち、じっとこちらを見ている鬼? がいる。

 そいつは額から片角を生やし、血に染まったような真っ赤な瞳で私たちを見つめている。


 鬼はゆっくりとあたしたちの元まで歩き、数メートル手前で立ち止まって腕を組み、あたしたちに話しかけてくる。


「貴様らが此奴らのリーダーか?」


 目の前の鬼を間近で見たあたしは頭が真っ白になってしまい、鬼の言葉を返すことができなかった


「リーダー……ではない」


 あたしの後ろに立つゼンが鬼と会話をしている。


「そうか、リーダーではなかったか。では、死んでくれるか!」


 鬼はそう言うと右手の人差し指をあたしに向け、鬼の人差し指に赤い光が集約していく。

 それは宝石のようで、つい見とれてしまうほど美しかったのだけど、ゼンが突然あたしを突き飛ばした。


「避けろリリアーナ!」


 ビシュッーーーー!

 ――バァァァン!


 間一髪、ゼンがあたしを突き飛ばしてくれたお陰であたしは鬼が放った赤い閃光を受けずに済んだ。

 閃光が放たれた方角から轟音が響き渡り、その方角に目をやると、建物が吹き飛ばされ砂埃が舞っている。


 あんなモノをまともに喰らえば体は跡形もなく木っ端微塵に吹き飛んでしまうわ!


 あたしは地面に座り込み、その光景に絶句していた。

 鬼はそんなあたしを無表情で見下ろし、呟いた。


「……外したか」


 鬼が再びあたしに人差し指を向けてきたその時、ゼンの声が響き渡る。

 ゼンは恐ることなく鬼に太刀を振るっていた!


「逃げろリリアーナァァァ!」


 ゼンはあたしに逃げろと言っているけど、ゼンでもこの鬼には(かな)わないとあたしは一瞬で悟った!

 なぜならゼンの太刀を、刃を鬼は二本の指の隙間に挟み込んで止めていたの。


 ゼンもまさかの事態に目を見開き驚愕している。

 そんなゼンを鬼は退屈そうに表情一つ変えずに眺めている。


「この程度か? それとも疲れていてもう力が残っていないのか?」

「な、なんだ貴様!」

「俺か? 俺はビュトル、誇り高き魔族にして鬼人族だ! お前たち人間の上位種だ、わかるか? 人間?」

「なぜ……その魔族が人に、パリセミリスに協力している!」

「勘違いするな! 従っているのは人間だ!」


 鬼の言葉が事実なら、アルトロが言っていた既にパリセミリスは魔族に落とされているという推測が正しかったということね。


 だけどそんなことがわかってもこの状況を打破することにはならないわ!

 このままではゼンもあたしも確実にコイツに殺される。

 1%の希望にかけて二人でやるしかないわ!


 あたしは鞭を鬼に放ち、鬼は軽く後方へと鞭を躱した。

 でもこれでいい。

 これでゼンも鬼と距離ができ、体制を立て直すことができる。


「リリアーナ!」


 ゼンはあたしを見ている、わかってる!

 逃げろって言いたいんでしょ!

 だけど友達を、幼馴染を見捨てて一人逃げるなんてあたしは嫌よ!

 これ以上大切な人達を失うなんて嫌だわ。


 失うくらいなら死んだ方がましよ!


「あたしは逃げない! 二人でやるわよゼン!」


 ゼンは呆れたように笑った。

 あたしが一度言いだしたらテコでも動かないことをコイツは知ってる!


「相変わらずのおてんばだなリリアーナ!」

「悪かったわね!」


 あたしとゼンは顔を見合い、頷き。

 覚悟を決めた。


「行くわよ、ゼン!」

「望むところだ!」


 そんなあたしたちを相変わらず退屈そうに見ている鬼。


「話し合いは終わったか? で、どちらから死にたい!」


 あたしとゼンは鬼を睨みつけて言ってやったわ!


「「死ぬのはお前だぁ!」」

――次回 32話、ビュトル

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是非お読みください!
モンスターボールを投げたらノーコン過ぎて女勇者を捕まえてしまった件。
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